15-2 最後はアルフレッドでした


お食事時は避けて読んでください(謎


───


「イチノス、まだ聞きたい事があるか?」


「あぁ、すまんな。朝から変なことを聞いてしまったな(笑」


 アルフレッドの言葉で会話を切り上げ、天幕の側で朝食を作るブライアンの元へと戻って行く。


 アルフレッドと並んで歩きながらブライアンを見れば、朝食用のスープの面倒を見ながらも、時々、周囲を見渡している。


 そんなブライアンが、俺とアルフレッドに気が付き立ち上がった。


「アルフレッド、イチノスとの話は済んだか?」


「あぁ、終わったよ」


 ブライアンに声をかけられたアルフレッドもハッキリと声を出して答えている。

 その様子に、俺は思わず天幕へ目をやると、寝ていると思っていたワイアットの姿がない。


 隣のアルフレッドもワイアットがいないことに気が付いたのか、行き先を問い掛ける。


「ん? ワイアットは?」


「いつもの朝の定期便だよ(笑」


 そう告げて、ブライアンが古代遺跡とは違う方へ目をやった。


 二人の視線の先を見れば、荒地のような草原が広がる中、人の背丈ぐらいの大きな石柱が4本ほど立ち並んでいた。


 あんな物があるとは、この古代遺跡へ来る時には気付かなかったし、昨日の作業中も、まったく気付かなかった。


 背丈ぐらいの石柱たちは、朝陽の中で独特の存在感を放っている。

 石柱の影は朝陽の影響で地面に長く伸び、石柱の上には鳥たちがとまり、その姿はまるで石柱たちが生きているかのようにも思えた。


「イチノス、食べれるぞ。先に二人で済まそう」


「ありがとう」


 ブライアンに代わって鍋の世話をするアルフレッドが声をかけて来た。

 ブライアンは立番に戻ったらしく、少し離れた場所で周囲を見渡している。


 自分で持ってきた木皿へアルフレッドにスープを取り分けてもらい、やはり自分で持ってきた大衆食堂のパンで朝食をいただく。

 普段はこんなに朝早くから朝食を摂らない俺だが、皆との野営ではそうも言っていられない。


 『郷に入れば郷に従う』の考えで、スープとパンの朝食を摂って行く。

 スープの味は昨日の夕食よりも若干薄味だが、朝はこのぐらいで十分だ。


 朝食を食べ終えそうな頃に石柱の脇からワイアットの姿が現れた。

 その手には、園芸用のスコップらしき物と『朝の定期便』で使い切らず、残った紙が握られているようだ。


「おはよう、ワイアット」


「ワイアット、おはよう」


「おう、おはよう」


 3人で朝の挨拶を交わすと、ワイアットがアルフレッドと俺の朝食を眺めてきた。


「アルフレッド、食べ終わったか?」


 アルフレッドの木皿は空になっており、既に朝食を食べ終えたようだ。

 一方、俺の木皿はスープもパンも少し残っていた。


「おう、水が欲しいんだよな?」


「すまんが頼めるか?」


 アルフレッドが応えるように、自身の脇に置いていた魔法円へ手を伸ばす。


 ワイアットが両手を差し出し、その上にアルフレッドが手にした魔法円の表を下に向けて構えた。


「出すぞ」


 声を掛けたアルフレッドの手にした魔法円から水が湧きだし、ワイアットの両手へ落ちて行く。

 その流れ落ちる水で、ワイアットが入念に手を洗って行く。


 そうだよな⋯

 用を足した後とか、食事前には手荒いが大事だよな⋯


 そう言えば、俺もアルフレッドも食事前に手を洗っていなかったな(笑



 水を出し終えたアルフレッドがブライアンと立番を交代しに行ったので、ワイアットから『朝の定期便』のセットを借り受けた。


 気さくに貸してくれたワイアットが念を押すように告げてくる。


『イチノス、右から2番目の裏でやれよ』


 他の場所、ワイアットが念を押す右から2番目以外の場所は、色々な意味でお薦めでは無いのだろう。


 石柱の側まで来ると、並び立つ石柱に強く意識が向いて行く。


 石柱は古代遺跡の石扉のような古代コンクリートとは違って一枚の厚みのある石板⋯

 この厚みだと石板よりは石盤の表現が妥当だろうか?


 岩ではなく明らかに人の手で切り出された石盤のような⋯

 石碑と呼ぶのが相応しいのだろうか?


 いや、やはり石柱が妥当だろう。


 そんなことを思いながら、右から2番目の石柱の裏側へ回ると、やけに明るく感じる。

 そこはここへ来る際に歩いてきた広々とした草原のような荒地が続き、所々に立ち枯れした樹木の一部が残っていた。


 そうか! 石柱の反対側は朝陽に照らされているんだ。


 こんなに明るい場所で用を済ませるのかと思いながらも、適切そうな場所を決めて穴を掘って行った。



 きちんと後始末を終え、身支度を整え石柱の影から出る。


 天幕付近へと目を戻すと3人が集まって話し込んでいた。

 きっと、この後の探索についての話し合いなのだろう。


 ブライアンが俺に気付いたような動きをしたので、俺は足を早めず、むしろ普段よりゆっくりとした歩みで3人へと近付いて行く。


 3人はこの後の古代遺跡探索について、それなりの意見を出してくるだろう。

 俺はそれを受け止めつつ、自分の考えを伝えなくてはならない。


 先ほどまで『朝の定期便』をしながら、俺は今回の調査隊での立ち位置を考えていた。


 『古代遺跡入口の魔法円を開ける魔導師』が、今回の調査隊における俺の立ち位置だ。

 この立ち位置を崩すのは、大きな躊躇いを感じる。


 俺はあくまでも古代遺跡の入口を開けるのが役割だ。

 冒険者である3人と、一緒にダンジョンを探索するために雇われた魔導師ではない。


 そうした前提へ、俺の興味を結びつけて行くしかない。


 俺の興味は古代遺跡から得られるという魔法円や魔法であって、ダンジョンの探索では無いのだ。

 従ってダンジョン探索への同行を求められても応じない姿勢を貫こう。


 最初に声を掛けてきたのはブライアンだ。


「イチノス、水を出すか?」


「おう、頼めるか?」


 先ほどのアルフレッドとワイアットのように、ブライアンに水を出して貰いながら手を洗う。

 水を出してくれるブライアンは、俺へ何かを言いたげな感じがするが考え過ぎだろうか?


 手を洗いつつ、ワイアットから借りた園芸用のスコップも汚れを洗い流して行く。


「イチノス、この後に古代遺跡へ入るから一旦荷物を纏めてくれるか?」


「ん? 荷物を纏めるのか?」


 ブライアンの言葉にワイアットとアルフレッドを見れば、天幕を片付けを始めていた。


「あぁ、何かが起きた時に、ここを直ぐに離れれるように一旦荷物を纏めて欲しいんだ」


「わかった。直ぐに纏めるよ」


 そうした会話をしながら手を洗い終えた俺は、自分の荷物の片付けに向かう。


 ワイアットから借りた園芸用のスコップを返すため、天幕を片付けるワイアットへ俺から声を掛ける。


「ワイアット、ありがとう」


「おう、ブライアンから聞いたか? イチノスも荷物を纏めてくれ」


 園芸用のスコップを返すとワイアットが聞いてきた。


「イチノス、オリビアは教えなかったのか?」


「『朝の定期便』については一言も言わなかったな。俺も聞かなかったからな(笑」


「カカカ そうかそうか(笑」


 ワイアットの笑い声から、これは何かあるなと深読みしそうになる。

 けれども女性のオリビアさんから『朝の定期便』の準備まで教えを願うのは酷な話だ。


「実はな、オリビアから尻拭きと靴下は多めに持って行けと言われたんだ(笑」


「ククク そうか、助かったよ(笑」


 そこまで話していると、アルフレッドがワイアットへ返した園芸用スコップを奪うように手にして、先ほどの石柱へと急ぎ足で向かって行く。


「イチノス、アルフレッドが戻るまでに纏めてくれるか?(笑」


「ククク そうだな(笑」

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