14-14 古代遺跡への期待


 夕食はアルフレッド特製のスープとパンになった。


 特製と言っても、昼食と同様に干し肉を使用したスープで、違いはイモが入っていることぐらいだ。


 けれどもこのイモがスープに入ることで、より食べ応えやボリューム感を与えてくれる。

 また、昼食とは違う干し肉なのか、スープの風味が変わった気がする。


 その変わった風味が煮崩れたイモの甘みと絶妙に絡み合い、深い味わいを楽しむことができる。

 持ってきたパンと一緒にいただくことで、実に満足感のある夕食だ。


 もしかしたらこの満足感は、無事に魔法円を魔法鍵へと描き換えれた充実感からだろうか。


 そんな夕食を、焚き火の灯りの中、昼食でも使った石の台でブライアン、ワイアット、俺の3人でいただいた。

 調理をしてくれたアルフレッドは先に食事を済ませて立番だ。


「やはり見えなかったな⋯」

「まあ、明日の朝になれば見れるんだ。そう焦るなよ(笑」


 ブライアンが呟きワイアットが宥めている。

 この手の会話はこれで2度目だ。


 よっぽど、ブライアンは古代遺跡の中を見てみたかったのだろう。


 描き直した魔法鍵に4人で協力して魔素を流し込むと、石扉を閉じていた石化を解除することができた。


 4人で協力して流した魔素は、その成果として石扉の間から大量の砂を吐き出すに至った。

 石扉の間から溢れ出すように吐き出された砂が、魔法鍵への書き換えの成功の証だった。


 そんな石扉の間から湧き出すように落ちる砂を見て、ブライアンが皆へ問い掛けた。


「これって後に必要にならないか?」

「そうだな⋯ 閉じる時に使うよな?」

「集めとこうぜ」


 流石は左官仕事に詳しいブライアンだと思える言葉だった。


 ワイアットとアルフレッドがその言葉に同意し、皆が魔素を流すのを中断し、俺が目隠しに使ったシーツへ砂をかき集める一幕もあった。


 そんな一幕を経て、再び4人で協力して魔素を流して暫くすると、中段の魔法鍵から砂が出なくなった。


 そこでブライアンが腰から剣を抜き、石扉の隙間に差し込み、石化が解除されたことを確認した。

 その剣を引き抜き、ブライアンは中を覗き込もうとしたのだが、暗くて古代遺跡の中は見えなかったらしい。


 その頃には夕陽が魔の森に呑み込まれ、周囲には闇が迫っていた。



「じゃあ、すまんが先に寝かせてもらうぞ」


 そう告げたブライアンが立ち上がり、立番をしているアルフレッドの元へと向かう。

 先に寝ることを告げに行くのだろう。


 夜の立番は、俺を抜いた3人で話し合いが成され、アルフレッド→ワイアット→ブライアの順番での立番となった。

 俺は立番を免除された形だ。


「俺も立番に立たなくてよかったのか?」

「さっきも言ったが、イチノスの立番には二人が首を縦にふらないんだ」


 冒険者仲間としては、夜の立番を冒険者では無い俺には任せられないか⋯


「イチノス、気にするなよ。むしろ寝かせてくれるんだ。ありがたいと思った方がいいぞ」

「まあ、そう考えるよ(笑」


 ワイアット達は、この古代遺跡の前での野営は何度目だろう?


 数日前にも来ている筈だよな⋯

 その前はエンリット達と来ているんだよな⋯

 その時にエンリットはオークに襲われて野営せずにリアルデイルへ戻ったんだよな⋯


 そんなことを思いながらワイアットへ目をやると、昨日の会合での言葉を思い出した。


〉蔦が絡まってたし

〉俺はこれが開いた後の形も

〉以前に見ているから知っている

〉俺の記憶からすると

〉開いて無いだろう


「ワイアット、ちょっと聞いて良いか?」

「ん? 何だ?」


「あの石扉は、ずいぶんと綺麗だが蔦は取り払ったのか?」

「あぁ、あれは前に野営した時に皆で取り払ったんだ」


「もしかして、その時から俺を連れてくるのを考えたりしてたのか?(笑」

「あぁ、考えてた」


 俺は冗談交じりに問い掛けたのだが、ワイアットが真っ直ぐに答えてきた。


「皆で話し合って、イチノスで行こうと決めたんだ」

「ククク 皆が賛成したのか?」


「そもそも、リアルデイルの魔導師はイチノスだけだろ?(笑」

「まあ、そうだな(笑」


「誰が反対するんだ? 誰も反対なんかでき無いだろ?」

「ククク そうだな(笑」


「むしろ俺からイチノスに聞いて良いか?」

「ん?」


「イチノスは、古代遺跡とダンジョンに関係があるのを知ってるのか?」


 古代遺跡とダンジョンの関係?


 これは聞いた事がある話だ。

 古代遺跡の周辺とかに、ダンジョンの入口だか出口があるとか言う話だ。


 俺の生まれたランドル領、まもなく異母弟のマイクが領主になる、隣領のランドル領にもダンジョンは存在している。

 確かにランドル領のダンジョンは、その側に古代遺跡があるような話も聞いている。


 待てよ?!


 ワイアット達はこの古代遺跡にも、ダンジョンの入口だか出口があると思ってるのか?!


「イチノスが『封じている』と言っただろ?」


 いや、俺が自らは『封じている』とは、口にしていないよな?

 ワイアットが言い出したような気がするが⋯


「俺が言い出した⋯」


 そこまで口にした俺をワイアットが手を出して制してきた。


「あの時に俺は確信したんだよ。この古代遺跡もダンジョンが関係してるんじゃないかとね」

「いやいや、待ってくれ。考えすぎだろ」


「カカカ そうだよな。考えすぎだよな(笑」


 ワイアットは笑いながら話すが、その目は笑っていない気がする。


「まさかとは思うが、アルフレッドやブライアンも考えてないだろうな?」

「あの二人か? ククク 明日の朝に聞いてみたらどうだ?(笑」


 これは、あの二人もそうした期待をしているとわかる返事だ。

 当のワイアットも期待してる気がする。


「ワイアットは期待してるんだろ?」

「期待していないと言えば嘘になるな」


「ククク」


 思わず笑いが漏れてしまった。

 こいつ、絶対に期待してるだろ。


「イチノスは王国内のダンジョンは知ってるよな?」


 急にワイアットが話を変えてきた。


「それなりに知ってるぞ。近場で言えばランドルにもあるだろ?」

「そうだな。リアルデイルから一番近いのはランドルのダンジョンだな⋯ そうか、イチノスはあそこの生まれか?」


 どうやらワイアットが俺の出自を思い出したようだ。


「まあ、そうだな。とはいえ俺もランドル領には長くは居なかったからな⋯」


 そんな俺の言葉を聞いていないのかワイアットはダンジョンの話を続けてくる。


「ランドルのダンジョンは沸きが弱いと言われてるが、それでも若い連中は経験を積むために行くんだよ」

「そうなんだ⋯ 生憎と俺はダンジョンに興味は無いな。昨日も言ったがむしろ古代遺跡から出ると言う魔法円や魔法に興味があるな」


「カカカ イチノスは相変わらずだな」

「否定はしないぞ。それが今回の調査隊に参加した理由でもあるからな」


「それでも、イチノスに封じていると言われた時には考えたよ」

「えっ?」


「ダンジョンの入口や出口があったら、封じている可能性もあるからな」

「俺はそんなことは考えていなかったんだが⋯」


「壊す話も出たんだ。だが、ダンジョンの出入口があった場合は壊すわけに行かないだろ」

「そんなことまで考えたのか?」


 それって⋯ 明らかにダンジョンの出入口があるって期待していないか?


「そりゃ考えるよ。中のお宝を得るだけなら壊せば済むだろ?」

「まあ⋯ そうだな⋯」


「けれどもダンジョンの出入口が中にあったら、イチノスが言うとおりに閉じる必要があるだろ?」

「ま、まぁ⋯ そうだな⋯」


「今回の調査じゃあ戦力は俺達だけだ。万が一、ダンジョンが中にあったりしたら、壊すと大変な事になるだろ?」

「ま⋯ そ⋯」


「そうした事も含めて皆で話したんだ」

「⋯⋯」


 俺はワイアットの言葉に返事を返せなかった。


「さて、思わず話し込んだな。イチノスも寝た方が良いぞ。日が出たらブライアンが起こしに来るぞ(笑」


 ワイアットが話を打ち切り、寝ることを促してくる。


「ワイアットも仮眠するのか?」

「おう、アルフレッドが起こしに来るまで寝るぞ」


「じゃあ、俺が片付けとくか⋯」


 食卓に使った石台の上には皆の食べ終えた洗い物が4人分積まれている。

 立番を免除された俺の出番はこのぐらいなのだろう。


「イチノス、すまんな」

「夜の立番を免除されたんだ。このぐらいはするべきだよな」


 そんな俺の言葉を背に受けながら、軽く片手を上げたワイアットが立番を続けるアルフレッドの元へと向かった。


──

これで王国歴622年5月26日(木)は終わりです。

申し訳ありませんが、ここで一旦、書き溜めに入ります。

書き溜めが終わり次第投稿します。

次は古代遺跡調査の2日目で、いよいよ古代遺跡へ入っての探索となります。

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