14-11 鍵にしてしまおう!
俺は石扉に填め込まれた石板と、その石板に描かれた魔法円を見ていて、ある案を思いついた。
この魔法円を魔法鍵に書き換えるのはどうだろうか?
この魔法円を魔法鍵にしてしまえば、中を調査する時には石扉を開けることも出来るし、調査が終われば閉じることも可能になる。
鍵である以上は『閉める』と『開ける』が必要だ。
『閉める』については、この魔法円の石化の機能を使えば良い。
『開ける』については、最初に考えたとおりに砂化を書き足せば良い。
この魔法円の作用域の設定を活かしたままで、閉めるためには既に持っている石化を使い、開けるための砂化は俺が与えて、魔法鍵に変えてしまうのだ。
この案で何よりも考慮するべきなのは、魔法円から魔法鍵へと変わった石板が、石扉に張り付いた状態を維持することだ。
魔法鍵が閉じたり開けたりする対象から離れてしまうなど、全く意味が無くなってしまう。
何よりも石扉を開けた後に鍵が外れてしまっては、只の開放された石扉になってしまう。
この石扉が開放されてしまった状態では、それでこそワイアットが話していたサルタンの古代遺跡と同じになるだろう。
この石扉が常に開放されてしまっては、常に誰でも出入りし放題で探索し放題になってしまう。
そうなっては、あっという間に石扉の向こう側は何も残らない状況を招いてしまうだろう。
何故だか俺は、この石扉がそんな状態に至ることを避けたい気持ちになっている。
この石扉が今まで守ってきたものが守れない。
この魔法円が封じてきたものが封じれない。
そんな寂しい石扉に成り下がって、只ここに延々と置かれるだけで、延々と時を刻ませるのは何故だか避けたい気持ちになっている。
おっと、今の俺は変なロマンを感じているな。
ワイアットやブライアンに感化されたか?(笑
そんなことを思いながら、石板と魔法円へ意識を戻したところで、俺はあることに気が付いた。
魔法円に砂化を書き足して機能させ石扉を開けた途端に、石板が石扉から外れたりしないよな?
もし石板が外れてしまったら、再び閉める際には石板を石扉へ填め直す手間が必要になってしまう。
この石板はかなりの大きさだ。
開ける際に外れてしまい、閉める都度に填め直すのはかなりの手間だろう。
そこで、この石板がどうやって石扉へ固定されているかを再確認した。
やはりというか案の定と言うか、魔法円の石化の機能で石板が石扉に貼り付けられている事がわかった。
魔法円の作用域が石扉へ向かっているのはわかっていたが、その開始が石板の背面からなのだ。
この石扉を閉じる際には、この魔法円が描かれた石板を石扉へ填め込み、魔法円の石化で石板もろとも石扉に固定したのだろう。
そうした様子がわかった俺は、益々この石扉が石板に描かれた魔法円で封じられているのだと感じた。
何らかの理由で封じられたのだろうが、その理由までは思い至らない。
それに今はそんなことを考える時ではない。
今の俺は、この魔法円を魔法鍵にすることに強い思いがあるのだ。
そして幸いにも今日の俺にはツキがある。
今回の調査隊への準備で、運良く土魔法の魔法円を持ってきている。
今まで全く陽の目を見なかった魔法円だが、それを今日の俺は持参しているのだ。
まずはこれを使って、石板の半分を表側から石扉の片側に固定してしまえば、砂化を施して石扉を開けても石板は石扉から外れない。
石扉に石板が張り付いたままなので、開け閉めする際に少々不格好なのはご愛嬌だろう(笑
それにしても、石扉+石板+魔法円の組み合わせは正しく古代遺跡を封じている感じだ。
石化で魔法円が描かれた石板を石扉へ張り付けつつ石扉を封じるとは、強くこの古代遺跡を封じる意思を感じてしまう。
あれだけ重畳な石積の石壁に囲まれ、入口には開けることを許さぬように石扉が置かれ、それを石化の魔法円で封じている。
もしかしたらブライアンが口にした呪いとか魔物のコカトリスを封じているのかもしれない。
けれども生憎と俺は呪いとか呪詛の類いは信じない。
それに魔物のコカトリスが石扉の向こうに居座っているようにも感じない。
ましてやメデューサが石扉の向こう側で待ち構えているなんて考えられない。
いずれにせよ、魔法円を魔法鍵に書き換える案で行こう。
そう決意して、改めてこの後の行程を整理してみた。
1.調査 この魔法円が使えるか?
2.作業 石板の固定作業
3.作業 魔法円に砂化を書き足す
4.試行 開けるための砂化を試す
5.探索 中を覗けるなら覗いてみる
6.試行 閉めるための石化を試す
7.上部と下部にも同じ作業
よしこれで行こう。
魔法鍵へ変更する案と、実行する行程を決めた俺は一息入れるように周囲を見渡した。
既に日は西に寄り始め、爽やかな風が吹き抜け青空が広がっている。
新緑の葉が風に揺れ、鳥たちのさえずりが耳に心地よく響き渡る。
春の終わりから初夏にかけての季節感が溢れ、自然が新たな息吹を吹き込んでいるような、爽やかで清々しい雰囲気が周囲に漂っていた。
◆
俺は立番で周囲を見渡すブライアンへ声を掛けた。
「ブライアン、相談があるんだ」
「おう、どうしたんだ?」
「出来れば全員に一緒に聞いて欲しいんだが難しいか?」
「ん? 大丈夫だと思うぞ」
俺の言葉にブライアンが改めて周囲を見渡す。
そしてアルフレッドとワイアットが座る天幕付近へ目をやった。
「魔法鍵⋯ の事だよな? 何か問題でもあったのか?」
「俺としてどうするかの考えが整理できたんで皆に聞いて欲しいんだ」
「その顔からすると良い話だよな?(笑」
「あぁ、良い話だと思うぞ(笑」
そんな話をしながらワイアットとアルフレッドの元へ向かうと、アルフレッドが声を掛けてくる。
「どうした? 何かあったのか?」
「イチノスが話があるそうだ」
アルフレッドの手元を見れば、鍋を火に掛け湯を沸かしていた。
ワイアットは俺とブライアンの姿を見て立ち上がろうとしている。
そんなワイアットをブライアンが軽く制した。
「ワイアット、立番は多分大丈夫だ。イチノスの話を聞こうぜ」
それから俺は3人へ石扉の魔法円を魔法鍵に描き換える案を説明した。
石板を半分固定して魔法鍵に書き換えることで、石扉を石化と砂化で閉めれることや開けれることを伝えた。
それに先程考えた作業の流れも説明した。
全てを話し終えて3人へ同意を促す。
「そうした考えと流れで作業をしようと思う。何か意見や聞きたいことはあるか?」
「「「⋯⋯」」」
ワイアットは黙してブライアンとアルフレッドへ目をやり二人の言葉を待った。
アルフレッドは少し考えた後に、手にしていた何かの茶葉を鍋に放り込んだ。
あれは色合いからして紅茶だろう。
二人が何も言わないからか、ブライアンが手を上げて聞いてきた。
「イチノス、その方法を今日中に済ませるのか?」
「いや、今日これからでは中段の魔法円を描き換えて試して終わりだな」
「じゃあ、中段のは開けれるのか?」
「多分だが日が沈む迄には開けれるだろう」
俺の言葉にブライアンの顔が明るくなる。
その顔を見たアルフレッドが少し笑みを浮かべてきた。
「ん? アルフレッド、何か意見があるか?」
「いや、イチノスには無いがブライアンに伝えておく事がある」
「俺にか?」
「ブライアン、多分だが真ん中のを開けても、遺跡の中は見れないと思うんだ」
「えっ?」
そこまで言ったアルフレッドが驚くブライアンの顔を見ながら、西方に寄りつつある太陽を指差した。
「ブライアン、この遺跡の入口は東へ向いている。イチノスが真ん中を開ける頃にはお天道様は西の森に隠れるだろう。そうなると遺跡の中へは日が差さないから、中までは見れないと思うんだ」
「あ⋯ そうか⋯」
確かにアルフレッドの言うとおりだ。
たとえ中段の魔法円を開けたとしても遺跡の中は真っ暗だろう。
外からの日が少しでも差し込まないと、中の様子を伺うのは難しい可能性が高い。
「そうなると明日の朝か? 日が昇れば、ちょうど東から日が差すから中を見れるよな?」
ブライアンがかなり嬉しそうに答えている。
明日の朝には遺跡の中を見れること、中の探索が出来そうなことに喜びを感じているのだろう。
そんなブライアンを押すようにアルフレッドが答えた。
「そうなるな。その時に入口が開いてるなら、中の探索も少しは出来るとおもうんだが⋯ ワイアットはどう思う?」
ブライアンとアルフレッドの視線がワイアットに集まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます