14-10 『閉じれる』ように『開ける』
俺に聴こえぬよう、少し離れた場所で、ワイアット、アルフレッド、ブライアンの3人が集まって話し合いを始めた。
この三者での話合いは、俺の懸念=気になることが切っ掛けだ。
古代遺跡の入口が、石扉と魔法円で『封じられている』と俺が感じた事に応じてワイアットが提案をしてきた。
〉1つを開けたとして
〉直ぐに閉じることはできるか?
そんな言葉をワイアットが唱えたのだ。
このワイアットの提案にブライアンが強く反応してしまった。
殊更に古代遺跡からお宝を得たいと強く願うブライアンは、語気を荒げてしまった。
そんなブライアンを宥めるように、三人での話し合いが始まったのだ。
俺はそんな三人の話し合いに出番が思い付かず、こうして傍観者となっている。
俺は御茶が飲みたくなり、自分のリュックから魔法円を2つと、ホウロウ製の小鍋と木製のコップ、それに小袋に入れた御茶の葉を取り出した。
んんん?
湯沸かしの魔法円とホウロウ製の鍋を手にして止まった。
魔法円に鍋を乗せると、魔素注入口が塞がってしまい指が置けない。
これでは鍋を魔法円に乗せてお湯が沸かせない。
水出しの魔法円ならば、表面を鍋へ掲げて魔素を流せば、出した水を鍋へと溜めれるが、湯沸かしの魔法円では水を入れた鍋を魔法円へ乗せる必要がある。
俺は自分の描いた魔法円の欠点を思わず知ることになってしまった。
仕方がない。
俺は水出しと湯沸かしの魔法円、それにホウロウ製の鍋を食卓代わりに使っていた石の台へ並べた。
木製のコップを水出しの魔法円に乗せて水を出し、隣の湯沸かしに乗せて湯を沸かす。
お湯が沸いたところでホウロウ製の小鍋へお湯を入れる。
ワイアット達も話し合いが終われば御茶を飲むかもしれない。
そう考えて3杯分のお湯を鍋へ入れ、最後に湯温を下げるため1杯分の水を入れた。
仕上げに小分けして持ってきた茶葉を適量、湯を張った鍋へ放り込む。
話し合いを続けるワイアット達へ目をやると、全員が軽く腕を組み顎に片手をやり、頷きが混ざっている。
その顔には、先程まで語気を荒げたブライアンのような険しさは感じられない。
当のブライアンもうんうんと頷いている。
どうやら何らかの方向で、話がまとまり始めているようだ。
そろそろ御茶も浸出できただろうと、試しにコップで掬って飲んでみる。
う~ん ロザンナが淹れた方が美味いな(笑
御茶を飲みながらワイアット達へ再び目を戻すと、アルフレッドとブライアンの二人が俺に近付いてきた。
どうやら話し合いが終わったようだ。
ワイアットは立番らしく周囲を見渡している。
「イチノス、話が決まったよ」
そう声を掛けてきたアルフレッドにブライアンが頷いている。
「まずは1個を開けてくれるか?」
「開けた後に閉じることは?」
「ありだな」
俺はアルフレッドへ問い掛けたつもりだが、ブライアンが答えてきた。
「わかった。開けたとしても、再び閉じるんだな?」
「まずは1個を開けて、中が見れそうなら覗いてみる話になったよ。閉じるかどうかはそれからだな」
ブライアンが明るい顔で答えてくる。
1個を開けて、石扉の隙間から中を覗こうというのだな。
閉じるかどうかは、そこで考えると言うことだ。
まあ、そうした方法もあるな。
「わかった。そうなると閉じれる前提で対応すれば良いんだな?」
「そうなるな。結果的に3個ともそれで頼むことになるが、まずは1つをお願いしたい」
「3個とも?」
「あぁ、まずは1つを開けて中を確認する。その後に残りの2つも開けて中へ入って調べる。最後に3個とも閉じて撤収だな」
そうか、俺は撤収する際の事を考えていなかった。
俺達がここを撤収する際に、古代遺跡の入口を開けたままなのは、色々と問題がありそうだからな。
それに俺が懸念した『封じている』場合も考えれば、閉じれる前提で開けることも必要だ。
「どうだ、時間が掛かりそうか?」
「閉じれることも考えるとなると⋯」
「まあ、仕方がない。閉じれないと誰かにお宝を持ってかれるかも知れんからな(笑」
「いやいや、こんなところで泥棒はでないだろ(笑」
「イチノス、わからんぞ(笑」
「とにかく、これを飲んだら直ぐに取り掛かるよ」
先程まで語気を荒げていたブライアンとは打って変わった感じだ。
ブライアンにしてみれば古代遺跡を開けることが決まったし、中を覗き見て確認することも決まって納得できたのだろう。
1つを開けて中を覗いて、お宝があるとわかれば他の2つも一気に開けることになるな⋯
あれ?
中を覗いてお宝が確認できない時や、1つを開けただけでは中が覗けない時は他の2つも開けて中へ入って確認することになるよな?
それに最後に撤収する時には閉じて帰るんだよな?
なんだよ、結局は、開けるだけじゃなくて閉じれないとダメじゃん。
何でこんな簡単なことに俺は気付かなかったんだ?
そんな事を考えていると、俺とブライアンの話を頷いて聞いていたアルフレッドが、ホウロウの鍋を覗いて聞いてきた。
「イチノス、何を飲んでるんだ?」
「東国の御茶だよ。飲むか?」
二人が鍋を覗き込む。
「これが東国の御茶なのか? 何か沈んでるが⋯」
アルフレッドが鍋の底の茶葉を見つめて呟いた。
「この色って⋯ ゴブ⋯」
ブライアンが言い掛けた言葉を飲み込んだ。
確かに魔物のゴブリンの肌の色に似てるな(笑
「まあ、試しに飲んでみると良いぞ(笑」
二人が俺を真似てコップを取り出して小鍋から掬って行く。
匂いを嗅ぎアルフレッドが一口含む。
うん、微妙な顔だな(笑
ブライアンも匂いを嗅いだ後、意を決したように口に含んだ。
一口目を飲み込み、直ぐに二口目も口にした。
その顔つきはアルフレッドとは違って、御茶の正体や味を確かめるようだ。
「イチノス、面白い味だな(笑」
「面白い?」
俺からすれば、二人の反応が違って面白いな(笑
「今回は俺が淹れたが、店に来ればロザンナがもっと美味いのを淹れてくれるぞ」
「そうだ、ロザンナで思い出した。イチノスはロザンナを雇ったんだよな」
そう言えば、ブライアンはここへ来る途中にロザンナの事を聞いていたな。
「あぁ、店の従業員として来て貰ってるよ」
「それなんだが、ロナルドが薬草採取のコツをロザンナに教えて欲しいそうなんだ」
「ククク」
アルフレッドが笑いを堪えた声を出して少しニヤついている。
これは何かあるなと思っていると、アルフレッドがブライアンに問い掛けた。
「ブライアン、それってロナルドから相談されたのか?」
「そうだが?」
「実は俺もジョセフから同じ様なことを言われたんだが⋯ ニヤリ」
「??」
「⋯!」
俺は何となくだが、アルフレッドがニヤつく理由がわかった気がした。
だが、ブライアンは首を傾げている。
「ブライアン。もう一度、ロナルドと話し合ってみろ(ニヤリ」
「??」
再びアルフレッドが口元をニヤつかせてブライアンを見るが、当のブライアンは気が付かないようだ。
「さて、じゃあ俺は作業を始めるぞ」
俺は二人にそう告げて、リュックから袋に入れて持ってきた魔法円を修復する道具を取り出した。
続けて土魔法の魔法円を取り出して袋へ放り込んだ。
その袋を片手に、立番をして周囲を見渡すワイアットの元へと進む。
ワイアットの元へと向かう俺の後ろでは、アルフレッドとブライアンの話し声が聞こえる。
二人の会話の所々で、ロナルドとジョセフ、それにロザンナの名が聞こえる。
(えっ! そんな理由なのか?!)
(ククク 気が付かなかったのか?)
(いやいや、全く気が付かなかったぜ)
(ククク まあ、そういう理由もあるんだよ)
どうやら、俺が気が付いたのは正解だったようだ。
冒険者の先輩は、そうしたことにも巻き込まれるというか、そうした遠回しな相談も受けるんだなと思い、思わず笑いが出そうになった。
「イチノス、何かあったのか? 顔が笑ってるぞ」
「いや、何もないぞ(ククク」
ダメだ、ワイアットの問い掛けに思わず笑い声が漏れてしまった。
「ワイアット、東国の御茶を淹れたから飲んでくれ。味はロザンナ程じゃないのは我慢してくれ」
「おお、遠慮無く貰うぞ」
そう答えたワイアットの目線が、俺の手にした修理用の道具が入った袋へ向かう。
「アルフレッドとブライアンから聞いたか?」
「あぁ、閉じれるように、まずは1つを開けることにしたよ」
どうも変な言い方だなと思いながらワイアットへ答える。
「おう、頼むぜ。そうだな⋯ 真ん中ので頼めるか?」
「わかった」
そう答えて俺は古代遺跡入口の石扉へ向かった。
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