14-9 封じられた古代遺跡
「サルタンの古代遺跡であれを見つけたのは偶然なんだ」
そう告げたワイアットは、古代遺跡での経験の続きを語って行く。
その昔に、ワイアットが古代遺跡探索で得た成果である『魔剣』を、どうやって手に入れたかを俺は初めて聞く気がする。
先ほどから、ブライアンが興味深そうな顔でワイアットの話に頷いている。
普段からワイアットと一緒に商隊の護衛業務を請け負うブライアンでさえ、こうして詳しい話を聞くのは初めてなのだろう。
ブライアンが頷きを重ね、ワイアットの話を引き出して行く。
一方の俺は、自分でワイアットへふった事ではあるのだが、俺の気になる事から逸れている感じがし始めて、ブライアンほど深い興味を抱けない。
何だろう。
聴く人が聴けば、ワイアットの話は一種のお宝発見話で面白いのだろう。
実際にブライアンはワイアットの話に聞き入っている。
それなのに俺は別の事を考えていた。
どうして俺は、あの絵図を見て『魔法鍵』と思ったのだろう。
そんなことを若干の後悔を感じながら考えていた。
〉古代遺跡の魔法円は
〉イチノス殿であれば
〉開けられるとのことです
昨日の会合で⋯
ニコラスがそう言ったのが始まりだった。
〉俺の経験からすると
〉あの古代遺跡にある魔法円は
〉鍵だと思うんだ
そう言っていたのはワイアットだよな⋯
その後に魔法円を写した絵を見せられて、俺は『魔法鍵』だと早合点したんだ。
4つの魔素注入口とか、内円に更に魔法円がある複合の魔法円を見たら『魔法鍵』だと思うよな⋯
ふっ 言い訳だな(笑
それに、俺はさっきも同じことを考えたよな?(笑
「それで隠し部屋を開けて見つかったのは、やはり金銀財宝だったのか?」
「いや、結局、成果になったのは剣が3本だけだ」
「剣だけ?」
おっと、既にワイアットの語りが魔法円を見つけた話から、お宝=成果の話になっている。
「そうなんだよ。この剣に似たものが3本だな」
そう言ったワイアットが腰につけた剣へ手をやる。
「おいおい、それが3本もあったのか?」
「あぁ、3本だ」
「1本がワイアットで⋯ 他の2本はどうしたんだ?」
「一緒に行った先輩が1本づつ持っていったよ。他の2本は装飾が施され、これが一番貧相だったんだ(笑」
あぁ⋯ これは後輩であるワイアットが割を食った話だな。
装飾が施された高価そうな剣を先輩二人が手にして金に換えたんだろう。
一方のワイアットは金になりそうもない、貧相な魔剣を手に入れたということか⋯
「他に古代金貨とか、そうしたお宝は出なかったのか?」
「宝玉のようなものは出たらしい」
「宝玉? 出たらしい?」
やはりブライアンは古代遺跡探索で得られるお宝に強い興味があるようだ。
それにしてもワイアットの言う『らしい』って何だ?
「あの時は俺と先輩が二人、それに雇った魔導師が一人で⋯ ククク 今回と一緒だな(笑」
「ま、まぁ一緒だな(笑」
そう言ってワイアットが俺を見てきた。
ブライアンもワイアットと一緒に俺を見ている。
これはその昔にワイアットが古代遺跡を探索した時と人員が同じだと言いたいんだな?
冒険者が3人に魔導師が1人で同じ人員構成だと言うことか⋯
「結局、見つけた3本の剣は先輩二人と俺で持って帰ったんだ」
「その見つけた宝玉はどうしたんだ?」
ブライアンが問い掛けると、再びワイアットが俺を見てきて少し笑った気がする。
「魔導師が欲しがったんだよ」
「まあ、そうなるだろうな(笑」
ん? その時の魔導師と同じで、俺が宝玉を欲しがると言いたいのか?(笑
そこまで聞いた俺は話を引き戻すことにした。
「じゃあ、その隠し部屋を見つけた時に同じ様な魔法円を見たんだな」
「イチノス、順番が違うな」
「そうだよ、聞いてなかったのか?」
へ?
「俺が魔法円を見つけて、それを魔導師が開けた」
「すると隠し部屋が表れた」
はいはい。
確かに順番が違いましたね(笑
「それでイチノスが気になるのは何だ?」
ようやく俺の気になる事へワイアットが戻ってきてくれた。
「実はな、あの魔法円は石化の魔法円なんだ」
俺は二人へ古代遺跡の入口に置かれた魔法円についての説明を始めた。
「石化の魔法円?」
「ちょっと待ってくれ」
説明を始めた俺に待ったを掛けたのはブライアンだった。
「石化って、あれか? 石になる呪いとかコカトリスの吐く息とか、メデューサと視線を合わせると⋯」
ブライアンは『石化』と聞いて魔物のコカトリスや、神話に登場するメデューサを連想するのか?
「いやいや、もっと現実的に考えてくれ」
「現実的?」
「そうだな⋯ ブライアンは、コンクリートはわかるよな?」
「コンクリート? あの建物や道路を造る時に使うやつだろ?」
「そうだ。砂や小石に火山灰と水を混ぜて作るコンクリートがあるだろ?」
「あぁ、それならわかるぞ。以前に手伝いで触ったことがある」
どうやらブライアンは何かの工事作業に参加して、コンクリートに触れる機会があったようだ。
これなら石化についても理解を示してくれそうだ。
「あのコンクリートが固まる仕組みだと思ってくれ」
「「⋯⋯」」
そこまで話したが、ブライアンもワイアットも黙ったままだ。
石化について、コンクリートで説明しようと思ったが、二人には難しいのかもしれない。
「とにかくだ、呪いとかメデューサとか魔物のコカトリスリスじゃないから安心してくれ(笑」
「わかった、コンクリートと考えれば良いんだな?」
「そうだ、あの魔法円はコンクリートのように砂や小石を固まらせる魔法円だと思ってくれ」
「それが、イチノスの言う石化の魔法円なんだな」
「そうだ。使い方としては砂とか小石を石のように固めるのに使うんだよ」
「砂とか小石を固めるか⋯」
「あの石扉で説明するとだな、石扉が観音開きになってるだろ? その扉を塞ぐことを目的に魔法円が置かれてるんだよ」
「??」
「⋯⋯」
「俺からすると魔法鍵の魔法円は『閉じる』と『開く』の両方を備えるのが一般的なんだ。けれどもあの魔法円は石化で『閉じる』しか使えないんだ」
「??」
「⋯⋯」
「あの石扉を見ただろ?」
「あぁ、見ているが⋯」
「⋯⋯」
「俺からすると魔法鍵と言うか石化の魔法円で石扉を『閉じる』と言うか⋯ 『塞ぐ』と言うか⋯」
そこまで話すと今まで黙っていたワイアットが聞いてきた。
「もしかして、イチノスは⋯ 例えばだが『封じている』と言いたいのか?」
ワイアットの表現が実に妥当な気がする。
俺が感じていた『懸念』と言うか『気になる』のはそうした事なのだと、俺自身も気がついた。
「そうだ『封じている』が妥当な気がするんだ」
「「⋯⋯」」
俺の言葉を聞いて二人は黙り込んだ。
だが、ブライアンは確かめるような目で俺を見てきた。
「イチノス、開けることはできるんだよな?」
「さっきも言ったが、試しに1つを開けてみるよ」
「おぉ、是非とも頼むぜ」
俺とブライアンの会話を聞いたワイアットが急に腕を組んで俺を見てきた。
その様子から、ワイアットは何かの考えがあると俺は感じた。
「ワイアット、何かあるか?」
「う~ん⋯」
「おいおい、ワイアット⋯」
ワイアットの悩む返事にブライアンが心配そうな声を出してきた。
それを直ぐにワイアットが制して俺に聞いてきた。
「イチノス、1つを開けたとしてだな⋯ 直ぐに閉じることはできるか?」
「えっ?! 閉じる?!」
思わぬワイアットの言葉にブライアンが慌てた声を出してくる。
「ワイアット! 開けないのか?!」
「いや、ブライアン。ちょっと待て、少し落ちついて話そう」
「俺は落ち着いてるぞ!」
いや、ブライアン。
語気が若干荒いぞ。
「イチノスは開けれると言ってるんだ。ここまできて開けない手は無いだろ!」
だから語気が荒いぞブライアン。
ブライアンは腰を上げようとしたが、それより早くワイアットが立ち上がった。
「アルフレッド!」
ワイアットが今まで聞いたことの無い大きな声でアルフレッドを呼んだ。
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