14-7 古代遺跡の全貌


 ワイアット達も先ほどから声を出して会話をしているので、ここは安全なのだろう。


「ワイアット、ここなら話しても大丈夫なんだな?」

「あぁ、ここなら大丈夫だ。見渡しも良いから魔物が出ても直ぐに気が付く」


 俺の投げ掛けにワイアットが応えると、立番をするブライアンへ目をやりながらアルフレッドが続きを告げてくる。


「魔物は森から出てくる可能性が高いから、そっちからは目が離せないがな(笑」


 その言葉に俺も今まで歩いてきた森へと目をやる。


 森林は濃く樹木の並ぶ先は全く見えない。

 あんな森林の中を歩いてきたかと思うとゲンナリするが、まあこの開けた場所での休憩を、より楽しむためだったと思うことにしよう。


「そうだ、イチノス?」

「ん? 何だ?」


「ブライアンとワイアットには見せたが、イチノスには伝令を見せてないよな?」

「伝令?」


「西の関のギルドの窓口で受け取ったんだ」


 そう言ったアルフレッドが自身のリュックから1枚の封筒を取り出し、俺に渡してきた。

 渡された封筒は、見覚えのある冒険者ギルドの伝令用の封筒だった。


 封筒を開けて中身を取り出すと、そこにはやはり見覚えのある冒険者ギルドの伝令用の便箋が入っていた。


 その便箋を広げてみると⋯


昨日の会合の件、ウィリアム様から了承が得られました。

今回の調査隊の全員が無事に帰還することを条件に冒険者の皆様が古代遺跡の探索を開始することができます。

ついては皆さんの無事の帰還を強く願っています。

[リアルデイル冒険者ギルド]

[ベンジャミン・ストークス]


 なるほど。

 あの後、ギルマスが出した伝令で、ウィリアム叔父さんから了承を得たんだな。

 こうなると、今回の調査隊では俺が古代遺跡を開くことが、ますます重要になる気がしてきた。

 こうした時は、やはり古代遺跡から良い結果が得られることを望んでしまうな。


 俺は伝令を封筒にしまいアルフレッドへ返すと、それを受け取ったアルフレッドが変な事を言い出した。


「イチノスにはもう一通、是非とも見せたい伝令があるんだ(笑」

「もう一通? 俺に見せたい伝令?」


「おいおい、いいのか? アルフレッド?」


 もう一通の伝令をアルフレッドが差し出し、それをワイアットが手を出して止めようとする。


 だが俺は、ワイアットの手が伝令へ延びる前に、アルフレッドの手から引ったくるように伝令の封筒をもぎ取った。


 その封筒は先ほどと同じ冒険者ギルドの伝令用の封筒で、それを開き中の便箋を取り出すと⋯


古代遺跡を開いた際にはイチノス殿の火魔法に注意するように。

[リアルデイル冒険者ギルド]

[ベンジャミン・ストークス]


 えっ? 何これ?


 伝令を渡してきたアルフレッドを見ればニヤニヤしている。

 ワイアットに目をやれば、一瞬、俺と目が合ったのに、あからさまに目線を外してきた。


「イチノス、先に言っとく。俺やワイアット、それにブライアンに当たるなよ。俺達は受け取っただけだ(笑」

「⋯⋯」


 伝令を片手に再びワイアットを見るが、横を向いて相変わらず俺と目を合わせようとしない。

 むしろ笑いを堪えている横顔を見せてくる。


 一方のアルフレッドはニヤニヤとした顔で俺を見てくる。


はぁ~


 俺は後から渡された伝令を封筒に納めながら、胸元の『エルフの魔石』から魔素を取り出す。

 取り出した魔素を手元の伝令に纏わせ強く念じた。


ボッ!


 俺の手の中で伝令が炎を上げて燃え始めた。


 燃え行く伝令をそっとアルフレッドへ差し出す。


 アルフレッドは、それまでニヤついていた顔から目を点にし、俺と燃え行く封筒を交互に見ている。


「すまん、アルフレッド。古代遺跡を開ける前に火魔法を使ってしまった(笑」

「「「!!」」」


 俺が伝令に火をつけたのに気が付いたのか、ブライアンが立番を忘れて俺の差し出す封筒を凝視する。

 一方、目を点にしていたアルフレッドは、燃え行く封筒と俺を交互に見るばかりだ。


「イチノス! 落ち着け!」

「アルフレッド!」

「!!」


 ワイアットが俺を諭す声で皆が動きだし、ブライアンが呆気に取られているアルフレッドの名を呼ぶ。

 アルフレッドがブライアンの声で正気に戻ると、慌てて俺の手から火のついた伝令を地面に落とし、靴で踏みつけて消している。


「だからやめとけって言っただろ!」

「すまん、イチノス。からかう気は無かったんだ」


 ブライアンがアルフレッドを諭すと、封筒の火を消し終えたアルフレッドが謝罪の言葉を告げてきた。


「いやいや、俺の方こそ悪かった。ギルマスへの怒りで燃えてしまったようだ(ククク」


「ハハハ⋯」

「カカカ⋯」

「ヒヒヒ⋯」


 3人が乾いた笑いを交わす。

 アルフレッドとブライアンは少し顔がひきつっていた。


 一通り笑いが収まったところでブライアンが聞いてきた。


「イチノスは腹が空いてないか?」

「どうするここで昼食にするか?」


 ブライアンを追うようにアルフレッドが俺に気を遣ってくる。

 ちょっとやりすぎたか?(笑


「いや、昼飯は設営してからにしないか? 古代遺跡までもう少しだ」


 割り込んできたワイアットは草原のような荒地のような先を指差した。

 言われてみれば、確かに俺も腹が減っている。

 目的地に着いてからの昼食が妥当だろう。


「よし、まずは目的地まで行こう。もう少しだ」


 アルフレッドの言葉に応えて、ワイアットが立ち上がった。


 それを切っ掛けに、全員が休憩のために出した魔法円やコップを片付けリュックを背負い直した。



 再びアルフレッドが先行し、ワイアットに続いて俺が3番目で、最後尾がブライアンの隊列を組んで歩き出す。


 その向かう先は草原のような荒地に見える盛り上がった小高い丘だ。

 あの小高い丘に古代遺跡があるのだろう。


 小高い丘に向かって歩きながら改めて周囲を見渡す。


 ここは草原と言うよりは荒地と呼ぶのが相応しい場所だ。


 確かに広範囲に草が生えてはいるが所々で土が露出し、所々に腰ぐらいの高さの何かが立っている。


 その立っているものをよくよく見れば、立枯れした樹木であることが伺えた。


 立枯れした樹木の周囲を見れば、立つ力を失ったと思わしき樹木が何本も倒れている。


 あれだけ旺盛に樹木が立っていた森林を歩いてきた俺としては、あれらの樹木が立つことを否定するようなこの荒地は、異様な景色に感じてしまう。



 暫く歩いて行くと小高い丘の正体が見えてきた。


 今まで丘に見えていた物が丘ではなく、人の手により積み上げられた石の壁を持つ建造物だと気が付いた。


 俺達一行が向かう先にあることから、あれが古代遺跡なのだろうと理解できる。


 俺が丘に見えてしまったのは、その石壁の上部が雑草の緑で覆われ、石壁には蔦がはって緑色にみえたからだ。

 石壁の周囲にも雑草が繁っていて、遠目に見ると荒地のような草原の中の小高い丘に見えてしまったのだ。


 そしてお約束のように、古代遺跡周辺の草原には、先ほど見かけた倒れた樹木が点在していた。


 更に暫く歩き、丘のような建造物の全貌が見えたとき、俺はその大きさに思わず声を出してしまった。


「ワイアット、あれが古代遺跡なのか?」

「そうだ。あの石積の壁になっているのが古代遺跡だ」


 その大きさは丘に見えた全て、小高い丘の全てが石壁の建造物だったのだ。


 石積の壁は、二階建ての俺の店と同じぐらいの高さのある代物だ。

 そんな石が積み上げられた壁が、蔦を纏いながら優雅な曲線を描いて続いている。


 石壁へ辿り着いた俺達は、アルフレッドの先導で石壁伝いに右手方向へと歩いて行く。


 石壁に使われている石は1枚毎の厚さは手のひらぐらい。

 そんな感じの石が何枚も隙間なく積み上げられて壁が造られている。


 石壁の様子を眺めながら歩いて行くとワイアットが声をかけてきた。


「イチノス、あの白いところが見えるか?」


 ワイアットの指差す先には石壁に続いて白い2本の柱が立ち、その2本の柱の間を白い壁のような物が渡っていた。


 いや、その白い壁は渡っていると言うよりは、白い柱と柱の間を塞ぐように置かれた封印の壁にも見える。


 あそこが古代遺跡の入口なのだろうか?


「イチノス、あの白い壁に魔法円があるんだ」


 後ろを歩るいていたブライアンが俺の横に来て白い柱を指差す。


「頼むぞ、イチノス」


 そう言ったブライアンは俺の肩をポンと合図するように叩く。

 その仕草にから、ここにいる皆が俺が魔法鍵を開けることを願っているのがわかる。


 だが、俺は皆の期待に応えずに、空腹を優先して昼食の話をした。


「あそこで野営するのか?」

「そうだな。前もあそこだったから今日もあそこだな」


 ブライアンの答えに、古代遺跡の入口らしき場所が野営地とすることが伺える。


 日の高さからして今の時刻は昼ぐらいだろう。

 野営の準備をして昼食を摂ったら、昼過ぎから魔法鍵の解析に取り掛かれそうだ。

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