14-2 西ノ川の手前
西の関からジェイク領へ向かう西街道は、リアルデイルの街中のように石畳での舗装はされていない。
関の周辺と載荷場周辺は石畳の舗装がなされているが、街道へ入ってしまえば剥き出しの土が固められている程度だ。
そんな剥き出しの土が固められた道へと出ると、リアルデイルの街から離れたことを実感する。
そんな西街道は、荷馬車が3台は通れる幅を持っている。
その道幅は、西ノ川を渡る橋まで続いて行く。
西ノ川に掛かる橋で道幅は狭まり、荷馬車二台がスレ違うには苦労しそうな感じになる。
西街道の両脇は見渡す限りの草原で、所々に雑木林が見える。
街道の前方にも雑木林はあり、その雑木林の向こう側には、背の高い森林の木々が頭を覗かせている。
その森林が魔の森で、北方から南方まで見渡す限り続いている。
そんな魔の森へと向かう西街道を、俺達一行は進んで行く。
俺達一行の先頭は見習い冒険者が2~3人、続いてロナルドとジョセフが引いている荷車、その後をやはり数人の見習い冒険者が追いかける。
その荷車をよくよく見れば、俺やワイアット達の荷物以外も乗せられているようだ。
見習い冒険者の荷物だろうか?
そう思いながら、荷車を追いかけるように歩く見習い冒険者達の背に目をやれば、皆が手ぶらな感じだ。
そんな見習い冒険者達の後を、アルフレッドとブライアンが見守るように並んで歩き、最後尾に俺とワイアットが続いて行く。
「ワイアット、見習い冒険者も荷車に荷物を乗せてるんだな」
「今日はロナルドとジョセフが、ギルドから荷車を借り出したんだ。荷車はイチノスの提案だって聞いたが違うのか?」
「昨日、ロナルドが荷物持ちをすると言うんで、それなら荷車が必要だろうと言ったんだよ」
「イチノスが言い出したのか?」
俺とワイアットの会話に、前を歩くブライアンが振り返って割り込んできた。
「あぁ、俺達4人分の荷物をジョセフやロナルドに担がせるわけにはいかんと思ってな(笑」
「まあ、正解だな(笑」
「イチノスのお陰で、行きは皆が楽を出来るよ(笑」
俺の答えにアルフレッドが同意し、ワイアットが笑いながら礼を伝えてきた。
そんな会話をしながら、前を歩く見習い冒険者の顔ぶれを見て行く。
名前は思い出せないが、誰もが見掛けたことのある顔ぶれだ。
この一行を見ていてふと思った。
何か抜けている感じがする⋯
改めて一行全体を見渡した俺は、ヴァスコとアベルがいないことに気が付いた。
「ワイアット、聞いて良いか?」
「ん? なんだ?」
「ヴァスコとアベルが見当たらない」
「あの二人か? 護衛隊長の二人は、イチノスが来る前に見習いを何人か連れて先に行ってもらったよ」
そうか⋯
既にワイアットは、俺が来る前からヴァスコとアベルに会っているんだな。
「もしかして昨日のギルマスの話、あれをもう二人にしたのか?」
「「あぁ、聞いたぞ」」
前を歩くアルフレッドとブライアンが応えてきた。
俺の口にした『二人』と言うのはヴァスコとアベルのつもりだったが、アルフレッドとブライアンは自分達の事だと勘違いしたようだ。
「ヴァスコとアベルには俺が話した。アルフレッドやブライアンにも相談して、1年目で集まって話し合うように伝えたよ」
なるほど、俺もその考えには同意できる。
1年目同士で話し合って、薬草採取の護衛をどうするかを考えさせたんだな。
1年目の冒険者達に幾多の事を学ばせて行くのは、ワイアットやアルフレッド、それにブライアンのような先輩冒険者達の役目だろう。
斯(か)く言う俺も、サノスやロザンナに同じ様に接して行く必要があるな。
だが、少々、考えなくてはならない点もある。
先輩冒険者ならぬ先輩魔導師は、俺一人で良いのだろうか?
隣を歩くワイアットは、今回の調査隊に参加しているアルフレッドやブライアンのように、冒険者の仲間がいる。
その仲間の繋がり全体で、ヴァスコとアベルのような1年目の面倒を見ている感じだ。
先輩魔導師が俺一人で、サノスとロザンナを指導して行くのが正しいのだろうか?
「それより、イチノス。オリビアから聞いたぞ」
急にワイアットが話を変えてきた。
「オリビアに、教えてもらったんだってな?(笑」
あぁ、その話しか(笑
「確かにオリビアさんから教わったよ」
「それだけじゃ無いだろ?(笑」
アルフレッドが振り返って、にやけた顔を見せて来た。
「天幕まで買おうとしたんだって?(笑」
こいつらには、今回の野営の準備が全部筒抜けな感じだ。
若干、呆れる俺にブライアンも振り返って、嬉しそうに口を開く。
「イチノス。天幕は、俺もアルフレッドもワイアットも持ってるから心配するなよ(笑」
「ククク すまんな。3人を当てにして、俺は天幕を買うのはやめたよ(笑」
「「正解だな(笑」」
「おう、俺達のがあれば十分だ(笑」
そんなやり取りをしながら小一時間も歩き雑木林を抜けると、道は土手に向かう感じになってきた。
あの土手は、西ノ川の手前の土手のような気がする。
それにしても、今日もとても良い天気である。
考えてみれば来週には6月だ。
初夏を思わせる陽射しが眩しいぐらいだ。
そんな陽気の中をマントを着込んで歩く俺は、そろそろ暑くなってきた。
マントの中に描いた冷風の魔法円に軽く魔素を流し、マントの中を涼しくする。
いや、いっそのこと、マントを脱いだ方が良さそうだ。
改めて見習い冒険者達の動きを見るが、誰一人として薬草採取をする動きを見せない。
明らかに、西ノ川の手前での薬草採取は諦めている感じだ。
少しだけ上り坂な感じになったからか、ロナルドとジョセフが引く荷車の動きが鈍ってきた。
「あ~ やっちまったよ~!」
ジョセフの声と共に荷車の動きが止まった。
荷車の様子を見れば、どうやら轍の中の穴に片輪がはまったようだ。
それを見て見習い冒険者達が荷車に集まり始めた。
これは大人組である俺達の出番だろうと考え、俺はマントを脱いで手伝う準備をした。
荷車へ近寄ろうとするとワイアットに手で制された。
「いや、手伝った方が⋯」
そこまで口にした俺へワイアットが首を横に振って来た。
どうしてだとアルフレッドとブライアンを見れば、二人とも目で俺に『手伝うな』と訴えてくる。
口にはしないが、ワイアットもアルフレッドもブライアンも俺に目で合図をしている。
アルフレッドに至っては、腕組みまでして手を出さない姿勢だ。
アルフレッドの立ち姿に気付いたブライアンも腕を組み、ワイアットまでもが腕を組んで手を貸さない姿勢だ。
これでは俺も手を出せないな。
そう思って俺はワイアットへ声を掛ける。
「ワイアット、すまんがちょっと先に行ってくれ」
「おいおい、もうヘバったか?(笑」
「いや、ちょっと確認したいんだ」
俺は道から外れて、小上がりな土手を昇り周囲を見渡す。
土手を流れる風が心地よく、マントを脱いだ俺の体を冷ましてくれる。
俺が登った土手は膝の高さまで雑草が生い茂り、草原が広がっていて、その草原にはところどころに橙色の花が咲いている。
ポーションに使う薬草は雑草に混ざって繁ることもある。
これだけの雑草の中から、薬草だけを見つけ出すのはかなりの困難だろう。
むしろ薬草が群生する場所を探し出して採取する方が、明らかに楽だと俺でも考えてしまう。
「お~い、イチノス~ 何かあるのかぁ~?」
ブライアンが俺の行動を気にして声を掛けてくる。
その声に応えて土手を降りた俺はブライアンへ問い掛ける。
「ブライアン、この近辺で薬草は採れないのか?」
「あぁ、薬草の話しか。昔は群生してた場所もあったんだがな」
そう言ったブライアンが、先ほど抜けてきた雑木林を指差す。
「やはりもう、西ノ川の手前では薬草採取は難しいのか?」
「ロナルドとジョセフに聞いた話だと無理らしいな」
そこまで告げたブライアンが何かを思い出したように聞いてきた。
「そうだ、イチノス! お前の店でロザンナを雇ったんだろ?」
ん? ブライアンはワイアットから聞いたのか?
「あぁ、雇ってるな。それがどうかしたのか?」
「ロザンナはもう薬草採取には行かないのか?」
ブライアンの問いかけが微妙な感じだ。
何を聞きたいんだ?
「お~い ブライアン! イチノス!」
アルフレッドの声でブライアンとの会話が止まった。
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