13-7 薬草採取の件


「ギルマスは、薬草採取の現状を知ってるのか?」

「ああ、キャンディスさんから聞いてる。あれも頭が痛いことなんだ」


 薬草採取の件は、ワイアットからギルマスへの問い掛けで始まった。


「今年の春でどうだろうかと様子を見ていたんだが、結果としてこのままでは、西ノ川の手前では薬草採取は困難だろうと専門家から意見が出たんだよ」


 ギルマスの言葉から、冒険者ギルドは既に現状を把握していること、専門家からの意見も入っていることが理解できた。


 次はこの薬草採取の現状に対して、冒険者ギルドで何かの対策をしようとしているかだ。


「ギルマス、ギルドでは見習い冒険者を守るために何か対策をしてるのですか?」

「イチノス殿、そこなんだが当面は1年目の冒険者に交代で護衛についてもらうことにしたんだ」


 俺の問い掛けに、ギルマスがギルドとしての対策を答えてきた。


「それでヴァスコとアベルに薬草採取護衛隊の任命か⋯」

「そうだね。まずは二人を中心に頑張ってもらおうと、ギルドから任命させて貰ったんだ」


「う~ん⋯」


 ワイアットの囁きにギルマスが応えたのだが、当のワイアットは、若干、困った感じを見せてきた。


「当面と言うか来年の春先までは、この体制で行くしか無いんだよ。何せギルドでどれだけ努力しても、直ぐに西ノ川の手前で薬草を育てることは困難だろ?」


 ギルマスの言うとおりだ。

 冒険者ギルドが努力しても、直ぐに西ノ川の手前で薬草を育てることは困難だ。

 冒険者ギルドの努力の成果が表れるのは、早くて来年の春になるだろう。


「そうなると、来年の春先までヴァスコとアベルに薬草採取護衛の指名依頼を出し続けるのか?」

「当面は、あの二人を含めて1年目の冒険者達に活躍して欲しいんだ。ワイアット殿は、特にあの二人と関わりが深いんだよな?」


「そうなんだ。ヴァスコとアベルを一人前の冒険者に育てる責任が俺にはあるんだ」


 ギルマスとワイアットの会話で俺は察した。

 ワイアットは、ヴァスコとアベルの冒険者登録の保証人になっているのだろう。


 もしかしてワイアットは、二人を一人前の冒険者へ育てるのに、ギルドが依頼する薬草採取の護衛が邪魔になっているのだろうか?


「ギルマス、当面の間というか春先まで、この状況が続くんだよな?」

「そうなるだろう。今はこうした対策で進めるしかないんだ。それも含めて公表しないとな⋯」


「公表か⋯」

「公表は来月の終わり頃を予定しているんだ。西ノ川の手前での薬草再生も視野に入れた策で公表する予定だよ」


 薬草再生も視野に入れた策?

 そんなことまで考えてるのか?


「公表するのも時期もわかった。春先まで続くとか、公表される内容については、ヴァスコとアベルの二人には事前にギルマスから話してるのか?」

「そこだよ! そこでワイアット殿の力を借りたいんだ」


 あっ!

 これ、ギルマスがワイアットを巻き込もうとしていないか?


「ワイアット殿もわかると思うが、薬草採取の護衛依頼はヴァスコ殿とアベル殿の二人だけではまかないきれないだろ? 1年目の冒険者全員を説得して行く必要があるんだ」

「まあ、確かにそうだな」


 おいおい、ワイアット。

 ギルマスの考えに飲み込まれ始めてるぞ。


「ワイアット殿と同じ様に、1年目の面倒を見ている冒険者の方々も集めて説明して行く必要があるんだ」

「ギルドでそれをやるんだよな?」


「そうだ。公表前にしたいんだ。協力してくれるか?」

「おう、この話は皆に広めて良いんだよな?」


「全く問題無い。むしろワイアット殿から広めて欲しいぐらいだ。見習いの方々には薬草の状況だろ、1年目の冒険者の方々には薬草採取の護衛で拘束されることだろ、それにワイアットのようなベテランには育成のプランもあるだろうから、それら全てに折り合いを付ける必要があるだろ?」

「そ、そうだな」


 あっ、ギルマスの畳み掛ける感じの説明に、ワイアットが飲み込まれた気がする。


「ワイアット殿、ありがとう。理解をしてくれて本当に助かるよ」


 そう告げるやいなやギルマスがワイアットへ頭を下げた。


「いやいや、これは冒険者同士の繋がりでもあるからな」

「そこなんだよ。さすがに冒険者の皆さんと見習いの方々、見習いを卒業した1年目の方々の関係にギルドが口出しするわけには行かないだろ?」


「そうだな。その付近は冒険者の縦の繋がりがあるからな」

「いやいや、縦だけじゃ無いよ。こうしてワイアット殿に願うのも、冒険者の方々の横の繋がりを尊重してだよ。そうした縦横の繋がりに、冒険者ギルドが干渉するべきじゃ無いと思うんだ。むしろギルドは頼るべきなんだ」


「ギルマス、わかってるじゃないか(笑」


 完全にワイアットは飲み込まれたな。

 やはりベンジャミン・ストークスは『冒険者たらし』&『冒険者ギルドマスター』だ。


「イチノス、どうだ?」


 おい、ワイアット。

 どうしてそこで俺の名を出すんだ?


「そうだな。イチノス殿、どうだろう?」


 ちっ!

 ギルマスがワイアットに便乗して聞いてきやがった。


「まぁ、当面というか春先まではそうした対策しか取れないですよね(笑」


 愛想笑い含みで、曖昧な返事を返す自分が少し情けないぞ。


「うんうん。イチノス殿にも理解が得られて助かるよ」

「イチノスは心配してただろ?」

「まあ、それなりに心配してましたね⋯ ハハハ」


 重ねて愛想笑いをする自分がますます情けない。

 ワイアットは既にギルマス側に立っている気がする。

 いや、既にワイアットは飲み込まれてギルマスに取り込まれたと言えるだろう。


「イチノス殿の心配というのは?」

「イチノスは川向こう魔の森の手前で、見習い達が薬草採取しているのを気にしているんだ」


「そうか⋯ 確かにそれは気になるよな。私もイチノス殿と同じ様に気にしているよ」


 こ、これは⋯

 ギルマスは言葉巧みに俺の心配に同調してきている気がする。

 このままでは、俺もワイアットと同じくギルマスに飲み込まれて行く気がする。少し流れを変えたい。


「薬草採取の護衛は1年目で大丈夫なんですか?」

「ん?」

「⋯⋯」


 あれ? この問い掛けは不味かったか?

 ワイアットが軽く俺を睨んでいる気がする。

 ギルマスは⋯ こ、こいつ朗らかな感じだが目は俺を睨んでる感じだ!


「まぁ、大丈夫だろう。ヴァスコとアベルには、魔物が出たらまずは見習いを逃がすことを徹底して教えてある」

「ワイアット殿。もしかして、それは商隊護衛の練習を兼ねてるのか?」


「まあ、そんな感じだな(笑」

「いやいや、薬草採取の護衛で商隊護衛の練習をするとは! そうした教えが冒険者を育てるんだな。うんうん」


 ダメだ。

 もっと言葉を選んで話さないと、2対1で、数で押しきられる感じがする。


 この二人には、もっと自分の懸念を整理して話さないと、ワイアットのように俺もギルマスに飲み込まれ、ギルドの仕事を追わされる感じがするぞ。


「確かに私が心配しても、私個人では何も出来ませんね。ワイアットのような冒険者の繋がりや、それを支えて行く冒険者ギルドの考える対策を尊重するべきですね」

「おぉ、イチノスもわかってるじゃないか」

「⋯⋯」


「私の懸念としては、ポーション作りの為の薬草が確保できるか否かですね。ヴァスコとアベルがしっかり護衛して見習いの方々が採取してくれる薬草です。より良いポーションを作って冒険者の方々に買ってもらったり、ギルドへ納めるだけですね」

「うんうん」

「⋯⋯」


 よしよし。

 ワイアットの睨むような視線が柔らかく成ってきた。

 ギルマスは⋯ 相変わらず目が笑ってないな。

 これは俺の意図を探っているのだろう。


「おっと、もうこんな時間か。じゃあすまんが俺は退散するぞ」

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