13-5 建前を脱ぎ本音を語る


「次に出された条件なんだが、古代遺跡がどんな物かを調べてから、冒険者達への探索許可を出すと言うものなんだ」


 若干だが、ギルマスが語るウィリアム叔父さんが出した条件は、曖昧な感じがする。

 ギルマスが本音を隠しているのか、それともウィリアム叔父さんが本音を明らかにするのを避けているのか⋯


 ギルマスやワイアット達の顔を眺めれば、皆が瞳に期待を潤ませている。


 ギルマスは冒険者による古代遺跡の探索に期待しているのだろう。

 アルフレッドとブライアン、そしてワイアットも探索で得られる利益に期待しているのだろう。

 ニコラスは⋯ 興味深い顔だな(笑


 いずれにせよ、このような曖昧さは、冒険者達やギルドの期待と今回の調査隊の結果に乖離があった場合、不満や嫉妬に繋がる可能性が高い。


 確かに建前は脱いでいるのだろうが、冒険者達の本音やギルマスの本音、そして俺が古代遺跡に抱く興味が噛み合っていない気がする。


 それにこのままでは、今回の調査隊に参加した者達とエンリットのように辞退した者達で、利得に差が生じこれも冒険者仲間での仲違いに至る可能性を感じる。


 そろそろ建前は脱げただろうから、皆の本音を表に出してもらいたい。


 俺も建前を脱ぐ感じで、まずはアルフレッドへ聞いてみる。


「アルフレッドは古代遺跡の探索経験はあるのか?」

「ん? あるぞ。若い頃に参加したよ」


「やはり魔導師を雇って連れて行ったのか?」

「俺の時は、既に開いてる遺跡だったから魔導師は無しだな」


「何か成果が得られたか?」


 俺の問い掛けに、両手のひらを上にしてアルフレッドが少しおどけたポーズを見せてくる。


「金銀に鼻が利くアルフレッドでも無しか?(笑」

「そ、そう言うお前だって同じだろ!」


 茶化して来たブライアンとアルフレッドが楽しそうに話している。


 アルフレッドとブライアンの様子から、この二人の本音が明確になった感じがする。

 やはり冒険者は古代遺跡からの利益に期待しているのだ。


 次は冒険者ギルドとしての立場だ。


「ギルマス、聞いて良いか?」

「イチノス殿は何か気になるのか?」


「今回の調査隊で古代遺跡を開きたいんだな?」

「そのつもりだが?」

「「うんうん」」


 俺の投げ掛けにギルマスのベンジャミンが答え、アルフレッドとブライアンが頷いて来る。

 冒険者の二人は置いておいて俺は話を続けた。


「開いた古代遺跡から金銀財宝を持って帰るのが目的でもあるんだな?」

「イチノスは何が言いたいんだ?」


 今度はワイアットが割り込んできた。

 これも冒険者視線と捉えて、今は反応せずに脇に置こう。


「大量の金銀財宝が出たとしよう。その全てを持って帰るのか?」

「⋯!」


 ギルマスは少し気が付いた顔をして来た。


「一度に持って帰れる量は限られると思うが⋯」

「⋯⋯」


「再度の調査隊で金銀財宝を運び出すんだよな?」

「そうなるな」


「そうした考えなのはわかった。そうなるとだ、今回の調査で持ち帰るのは、何がどれだけ獲られそうかの情報だと言うことだよな?」

「情報と証(あかし)だな」


 ギルマスが即答した。

 だが、アルフレッドとブライアンは食い付く。


「いや、持って帰れるだけの財宝じゃないのか?」

「そうだよ! お宝をみすみす置いて帰ってくるのか?!」


 そこまで口にしたアルフレッドとブライアンをギルマスが手で制した。


「イチノス殿は何が言いたいんだ」


 ギルマスの投げ掛けに、俺は一呼吸整えて告げた。


「水を差すようで悪いが、俺が古代遺跡へ行ったとして、現地で魔法鍵を開かない選択はあるか?」

「「「???」」」

「⋯⋯」


 俺の言葉にワイアットを含めた冒険者達が首を傾げ、ギルマスが黙った。


「イチノス「何と言った?」イチノス」

「俺の聞き間違いか?」

「⋯⋯」


 ギルマスは黙っているが、ワイアット達、全員が聞き返してくる。

 それなりに俺の言葉に全員が耳を傾けているようだ。


「俺が現地に行って古代遺跡の魔法鍵を調べるのは問題ない」

「「「「⋯⋯⋯⋯」」」」


「例え古代遺跡の開け方がわかったとしても、俺はその場では開けないし、開け方がわかったか否かも答えない」


 言い終えた途端に、冒険者達が前のめりに俺の言葉の意味を問い質す。


「待て、イチノス。それはどういう事だ?!」

「開け方がわかったなら開けるのが当たり前だろう!」

「そうだ、アルフレッドの言うとおりだ」

「⋯⋯」


 少々、騒がしい冒険者達と、黙り続けるギルマスへ俺は言葉を続ける。


「ワイアットもアルフレッドもブライアンも俺の懸念がわからないか?」

「わからん」

「あぁ、さっぱりわからん」

「イチノスは何が言いたいんだ?」

「⋯⋯」


「わかった、俺の懸念を話そう」

「おう、話してくれ」

「イチノス、遠慮せず聞かせてくれ」

「まずはイチノスの考えを聞こう」

「⋯⋯」


「ここからは呼び捨てで行くぞ。いいか?」

「かまわんぞ」

「おう、俺もだ」

「ギルマス、良いよな?」

「⋯⋯」


 先程から俺は建前を脱いで、アルフレッドやブライアンを呼び捨てにしている。

 当然ながらワイアットも呼び捨てだ。


 3人は気付いていないがギルマスは気付いているだろう。

 そんなギルマスは、相変わらず黙ったままだが俺は話を続ける。


「ブライアン、古代遺跡に何を期待している? 正直に教えてくれ」

「そりゃ決まってる。金銀財宝だ」


「アルフレッドはどうだ? やはり金銀財宝か?」

「俺もだ。出来ればワイアットと同じような成果が獲られれば尚更だな」


「ワイアットはどうだ?」

「「⋯⋯」」


 ワイアットに問い掛けるとギルマスと目を合わせて黙った。

 どうやらワイアットもギルマスも気が付いたようだ。


「ギルマスにワイアット、俺が懸念していることを最後まで話しても良いか?」

「イチノス、続けてくれ」

「⋯⋯」


 ワイアットが答えるがギルマスは黙ったままだ。


 俺はアルフレッドとブライアンを見つめて話を続ける。


「アルフレッドにブライアン、落ち着いて聞いて欲しい」

「「うんうん」」


「例えばだが魔の森の古代遺跡で俺が魔法鍵を調べて開けたとしよう」

「「うんうん」」


「すると見たこともない大量の金銀財宝が出たとしよう」

「「うんうん」」


「俺がその金銀財宝に目が眩んで、皆を火魔法で焼き殺したらどうする」

「「!!」」


「ククク」

「カカカ」


 アルフレッドとブライアンが互いに顔を見合わせる。

 ギルマスとワイアットは笑い声を出す。


 最初に口を開いたのはギルマスだった。


「イチノス殿の言わんとしていることがわかったよ」

「あぁ、俺も理解した」


「もしかして⋯」

「おいおい⋯」


 ギルマスを追いかけるワイアットが理解を示し、アルフレッドとブライアンがそれを追いかける。


 俺は全員を信頼していない訳ではない。

 人間は大量の金銀財宝を目の前にして平常心を維持できるとは限らない。


 一生、遊んで暮らせるだけの金銀財宝が手に入るとなれば、例えどれだけ一緒に生死を共にした仲間でも裏切る可能性がある。

 その裏切りの可能性は生死に関わることになるだろう。


 今回の調査隊の面子で、金銀財宝を目の前にした時に裏切りが起き無いとは誰もが言い切れないのだ。


「おいおい、まさかイチノスは裏切るのか?!」

「そうだ、皆で金銀財宝を手に入れようぜ! 独り占めは無しだ!」


 アルフレッドとブライアンが本音を口にした。


「はぁ~ まったくイチノス殿の発想は素晴らしいな」

「あぁ、ギルマスの言うとおりだ」


 ギルマスの言葉にワイアットが同意したような返事をしてきた。


「イチノス殿、どうやって収拾を着けるんだ? もう私では無理だぞ(笑」

「いや、ここからがギルマスの出番ですよ。ギルマスは冒険者に古代遺跡の探索を許可したいんですよね?」


「もちろんだ。冒険者の皆に古代遺跡を探索して成果をあげてもらいたい」

「金銀財宝が出たらどうします?」


「冒険者ギルドへ持ち込まれた金銀財宝はギルドで仲介して買い手を探すよ。もちろんギルドは手数料を貰うぞ」


 ようやくギルマスの本音を聞けた気がする。


「アルフレッドはどうだ? ギルマスの話に頷けるか?」

「俺も同じだ。古代遺跡は魔の森の中にある。危険な魔物を退治しながら探索するんだ。その危険に見合う利益が欲しい。世話になってる冒険者ギルドに手数料を払うのはかまわない。ギルマス、安くしてくれよ(笑」


「ブライアンはどうだ?」

「俺もアルフレッドと同じだ。ワイアットと同じ物が手に入ったら売らんがな(笑」


「ワイアットはどうだ?」

「イチノス、皆まで聞くな。俺は仲間の冒険者、その全員が潤うことを願っている」


 やはりワイアットは理解してくれたようだ。

 これで全ての建前を排除して調査隊の全員の本音が聞けた気がする。

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