13-4 建前不要で行こう


 ニコラスからの説明は日程から始まった。


「まず日程ですが、明日から三日間で予定しています」


 しかし、ニコラスの話を聞くや否や、ギルマスのベンジャミンが手を挙げて制止した。


「ニコラス、この紙に書かれていることは省けないかな? 皆さんお忙しい方々なんだ」

「そうですか⋯ ギルマス、それなら冒険者ギルドが願う皆様の役割をお話して良いですか?」


「ククク ニコラス、構わないよ。ここに集まっている方々に建前は不要だよな?」

「そうだな、イチノスもいるんだしギルドの本音を伝えた方が良いと思うぞ」

「俺も建前は苦手だな」

「一緒に行くんだ腹を割って話そうぜ」


 ギルマスの言葉をワイアットが追いかけ、アルフレッドとブライアンが追い付く。

 すると、ニコラスが若干の戸惑いを込めた顔で俺に聞いてくる。


「イチノス殿、よろしいですか?」

「ニコラスさん、それで行きましょう。私も自分の役目が知りたいですからね」


「ククク イチノス殿は固いな」

「カカカ 確かに固いな」

「「固い固い」」


 固いも何も無いだろう。

 俺からすれば、ニコラスを除いて、ここにいる全員が俺より年上で、しかも俺の商売のお客さんだ。

 丁寧に接するのは、人として当然の事だと俺は思うぞ。


「わかった、言葉遣いが乱れたらギルマスの責任で行こう」

「おいおい(笑」

「「「うんうん(笑」」」


 俺の返しにベンジャミンが笑い、他の3人も笑顔になった。

 ニコラスも顔に安堵が見えている。


 考えてみれば、ギルマスのベンジャミンも以前は冒険者の経験があるんだ。

 その冒険者としての経験を生かしてワイアット達と接し、纏(とりまと)めてギルドマスターとしての役割を果たしているのだ。


 ここで俺が礼儀だからと変に意地を張るのは、誰もが望んではいないだろう。

 そう思っているとニコラスも緊張を解して話し始めた。


「では、ギルドの考えを伝えます」


 そんなニコラスの口から出た言葉は不可解なものだった。


「イチノス殿には魔の森で見つかった古代遺跡の魔法円を調べて開けてもらいます」


 魔法円を調べて開ける?


「ワイアット殿の話から、古代遺跡の魔法円はイチノス殿であれば開けられるとのことです」

「ちょっと待ってくれ」


 俺は思わずニコラスの言葉を止めた。


「魔法円を調べるのはわかるが『開ける』って何だ?」

「イチノス、俺の経験からするとあの古代遺跡にある魔法円は鍵だと思うんだ」


「鍵?」


 俺の疑問にワイアットが答えてきた。

 確かに魔法円を使った魔法鍵は存在している。

 本来は小物⋯ 箱などに施して搬送するのが一般的な使い方だ。

 俺はそれを改良して店の出入口に施しているのも事実だ。

 その仕組みが既に古代遺跡にあるというのは俺は聞いたことが無い。


 そもそも魔法鍵は『神への感謝』を伴わない魔法円で、いわば俺の得意な分野だ。


「ワイアット、この面子なら聞いても良いか?」

「イチノス、何が聞きたいんだ?」


「俺がギルマスから聞いたのは、ワイアットが以前に探索した古代遺跡と同じ魔法円を見付けたと言う話だ」

「その件なら、まずはこの面子が揃っている理由から話すべきだな」


「残念ながらエンリット殿は不在だが(笑」


 ワイアットが答えるとギルマスが口を挟んできた。

 ギルマスの冗談を込めた言葉にワイアットが反応する。


「実際に魔の森の古代遺跡で魔法円を見ているのは、アルフレッドにブライアン、そしてエンリットと俺の4人だ」


 それでこの面子なのか⋯

 それでも少々疑問が残る。


「じゃあ、ワイアットが以前に成果を上げた古代遺跡の魔法円と、魔の森で見つかった魔法円を比較できるのは、ワイアットだけなのか?」

「いや、俺が成果を上げた古代遺跡には、エンリットも何年か前に行ってるんだよ」


 おいおい。

 エンリットも古代遺跡の探索経験者なのか。


 アルフレッドに目をやれば笑いを隠したような顔だ。

 彼の隣に座るブライアンも古代遺跡の探索経験者だったりするのか?


 いや、ここは古代遺跡の証の魔法円の話へ戻そう。

 アルフレッドとブライアンの二人が古代遺跡の探索経験者かどうかは、この時点では関係ないだろう。


「もしかして、エンリットもワイアットと同じ様に魔導師を雇って、同じ古代遺跡の魔法円を調べたのか?」

「そこは聞き齧った話だが、エンリットも魔導師を雇って、俺が成果を得た古代遺跡を調べているな」


 ギルマスは、唯一成果を上げているのはワイアットだけだと言っていた。

 エンリットは魔導師を雇ってまで探索した古代遺跡では、何も得られなかったのか。


「わかった。ワイアットとエンリットが、同じ古代遺跡で同じ魔法円を見ているということだな」


 そこまで言葉を交えたところで、ギルマスが口を開いた。


「イチノス殿、少し話がズレていないか? 本題に入ったらどうだ?」


 ギルマスが俺とワイアットの話を引き戻す。

 確かに、ギルマスの指摘のとおりに話がズレ始めている。


 ニコラスが告げた『魔法円を調べて開ける』に意識を戻そう。


「ワイアット、まずはその魔法円がどんな形だったか俺に教えてくれないか? これは事前準備だと思ってくれ」


「カカカ イチノス、その言葉は同じだぞ」

「同じ?」


「俺が若い頃に雇った魔導師が、同じ言葉を口にしたんだよ」


 その言葉からワイアットが古代遺跡の探索で雇った魔導師が誰なのか、強い興味が湧いてくる。


『神への感謝』が無い魔法円を調べれる魔導師が、俺以外にいることに強く興味を惹かれるじゃないか。

 古代遺跡の証である魔法円が、魔法鍵と気が付く魔導師ならば、それなりの知識や幾多の魔法円を見ていると言っても良いだろう。


「ギルマス、あの絵をイチノスに見せてないのか?」

「あぁ、未だ見せてない。むしろ見せて良いのか?」


 ワイアットとギルマスが言葉を交わすと、ニコラスが書類の中から1枚の紙を取り出した。

 ニコラスがその紙を片手にワイアットやアルフレッド、ブライアンへ目をやると全員が軽く頷いた。


 ニコラスが皆の頷きに応えて、手にした紙を俺へ渡して来た。


 それを見た途端に、俺はこの魔法円が魔法鍵であること、しかも複合式である事を理解した。


「ククク 確かに魔法鍵だな」


「やはりそうか!」

「「うんうん」」

「さすがはイチノス殿だ」


 俺の言葉にワイアットが喜び、アルフレッドとブライアンが頷く。

 ギルマスは意味不明な褒め言葉で称えてくる。


「ワイアット、これは開いてたのか?」

「いや、蔦が絡まってたし、俺はこれが開いた後の形も以前に見ているから知っている。俺の記憶からすると開いて無いだろう」


 ワイアットの返事にギルマスが俺へ問い掛けてくる。


「イチノス殿、これで興味が湧いたかな?」


「あぁ、面白そうだ。この魔法鍵を調べたくなった」

「「「うんうん」」」


「よし。ここからは私が話そう」


 ギルマスが座り直し、演説するように話し始めた。


「ワイアット殿とエンリット殿、お二人の証言で古代遺跡が発見されたことの公表をウィリアム様へ打診し、条件付きで公表の了解を得た」


 条件付きで公表の了解を得た?


「最初の条件は、皆が知っているとおりに探索行為の禁止だ」


 何となくだがウィリアム叔父さんの考えが理解できる。

 開けられていない古代遺跡では全てが不明だ。

 そんな状況で領主としては冒険者達の探索に許可は出せないだろう。


「次に出された条件なんだが、古代遺跡がどんな物かを調べてから、冒険者達への探索許可を出すと言うものなんだ」

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