13-2 魔力切れを防ぐ方法
「イチノスさん、魔力切れって防げないんですか?」
「う~ん⋯ 防ぐことは出来る」
「防げるんですか? どうすれば良いんですか?」
「今のロザンナがやってるのが、魔力切れを防ぐ方法の一つだな」
「私がやってること⋯ ですか?」
「魔力切れを防ぐには、使う魔素はきちんと魔石から取り出して使うんだ」
「うんうん」
俺の言葉にサノスが頷いてくる。
サノスも魔力切れを経験しているし、その魔力切れは使っている魔石の魔素が空になった時に起きると、自らの経験でサノスは学んでいる。
「???」
頷くサノスと違って、ロザンナは首を傾げながら御茶を淹れるために持ってきた魔石を撫で始めた。
「まだ、ロザンナにはわからないか⋯」
俺の言葉にロザンナが踏み込んで尋ねてきた。
「イチノスさん、魔素充填をする時に祖母の渡してくれた魔石を使いました。それでも魔力切れを起こしてお腹が空いたんです。どうしてですか?」
「ロザンナ、ちょっと待ってくれるか?」
魔石を手に前のめりに聞いてくるロザンナを俺は軽く制して言葉を続けた。
「まずは、御茶を飲んでから話さないか?」
◆
それからロザンナの淹れてくれた朝の御茶を3人で味わった。
やはりロザンナの淹れてくれた御茶は不思議なほどに美味しい。
冒険者ギルドのタチアナが紅茶で、俺の店で働いてくれるロザンナが東国の御茶。
これはとても良い組み合わせだと思う。
皆で御茶をカップに半分ほど飲んだところで、再びロザンナが魔力切れの話をしてきた。
俺はそれに先程と同じように答え、魔素を扱う時には魔石から魔素を取り出して使うことを話した。
魔石から魔素を取り出して使う分には、早々に魔力切れは起こさない事も伝えた。
それでもロザンナは悩みが隠せない感じだった。
結局、ロザンナがメモを取り出して俺の言葉を書きながらブツブツと言い出した。
そして悩んだ顔を残してポツリと呟いて来た。
「母さんは⋯」
「ロザンナ。すまないが待ってくれるか」
俺の言葉にロザンナが言葉を止めた。
「ロザンナ、その付近はローズマリー先生ともう一度話し合って欲しい」
「「⋯⋯」」
サノスとロザンナが黙って俺の言葉に耳を傾ける。
「ロザンナ、落ち着いて聞いて欲しい」
俺がそう告げるとサノスもロザンナも椅子に座り直した。
「ロザンナとサノスで差をつけるわけじゃないが、サノスには魔力切れを防ぐために弟子としての約束をしてもらっている」
「ウンウン」
「⋯⋯」
サノスは頷くがロザンナは黙ったままだ。
「今の俺にとって、ロザンナはあくまでも店の従業員なんだ。弟子入りして魔導師を目指しているサノスと、魔導師の仕事を学びに来ている従業員のロザンナでは、差があることは理解して欲しい」
「うんうん」
「⋯⋯」
次の言葉を告げようとするとロザンナが口を開いた。
「イチノスさん、わかりました。祖母からも弟子入りの件は来月まで口にしないように言われています」
ロザンナの言葉から、ローズマリー先生は時間を掛けてロザンナに考えるように仕向けている気がする。
「むしろ今月はイチノスさんやサノス先輩の仕事を見て、自分で考えるように言われています」
やはりローズマリー先生はロザンナの将来をよく考えている。
ロザンナの母親の死因である魔力切れまでロザンナに経験させたんだ。
考えていないわけがない。
しかも先程のロザンナの言葉、
〉母を誇りに思う
その言葉にローズマリー先生のロザンナへの思いが込められている気がする。
ここはローズマリー先生の意図や思いを俺が汲み取って、ロザンナに接するべきだろう。
「さて、魔力切れを防ぐ話しはここまでで良いかな?」
「「はい」」
「じゃあ、今日の皆の予定と明日からの俺の不在期間の予定をすりあわせて良いかな?」
「「はい、お願いします」」
「まずは俺の今日の予定だが、昼前は冒険者ギルドだな。その後、来客の予定があるから店に戻って来る」
「メモメモ」
ロザンナはメモを取るがサノスは手を上げて問い掛けてきた。
「師匠、そのお客さんって街兵士さんですか?」
「ん? サノス、何で街兵士だと思うんだ?」
「昨日、外で立ってる女性の街兵士さんに言われたんです」
「何と言われたんだ?」
「『明日は宜しくね』って言われました」
どういうことだ?
「ちょっと聞いて良いか?」
「はい「何ですか?」」
「外に立ってる女性の街兵士に言われたのか?」
「はい。昨日、イチノスさんが戻る前にお手洗いを貸したんです」
「その時に水出しと湯沸かしの魔法円を見せて欲しいって言われたんです」
あの二人の女性街兵士のどちらだ?
いやいや、そんなことはどうでも良いことだな。
「それで、サノス先輩が何個か見せたんだよね?」
「うん、一番小さいのから一番大きいのまで全部見て行きました」
サノスとロザンナが当時の様子を伝えてくる。
全ての大きさの魔法円を見せたのか⋯
「携帯用から家庭用まで全て見せたんだな」
「はい、見て貰いました」
「それでもう一人の街兵士さんがお手洗いを借りに来て、二人で一緒に見て買うのを決めたようです」
買うのを決めた?
見せるのは良いが魔法円は使えたのか?
家庭用の魔法円で『神への感謝』が描かれていれば、魔石を片手に『水が欲しい』とか『湯を沸かしたい』と願えば水も出せるし湯も沸かせる。
けれども俺の描いた携帯用の魔法円は、意図して魔素を魔法円へ注がないと水も出せないし湯も沸かせない。
そう言えば、西町幹部駐兵署へイルデパンを訪ねた際に、俺の描いた携帯用の魔法円を使って女性街兵士が紅茶を淹れていた。
それにイルデパンが言っていた。
街兵士は全員が騎士学校を出ているから魔素を扱えるはずだと。
魔素を扱えるなら俺の描いた魔法円も使えるか⋯
「サノス、立番をしてくれる女性の街兵士さんは二人とも魔素が使えたのか?」
「使えましたよ」
「試しに水を出してお湯を沸かして紅茶を飲んでました」
おいおい、女性街兵士さん。
職務中に何をやってるの?
お客さんの仕事中の行動に文句を言う気はないが⋯
いや、イルデパンが女性のお客さんが増えるような話をしていたよな⋯
それに店の前で立番をしてくれている女性街兵士には、俺やサノス、それにロザンナも守られてる身だ。
これは変に文句は言わない方が賢明だろうし、イルデパンへ告口(つげぐち)する必要も無いだろう。
待てよ。今日来る予定の若い街兵士は、もしかしてお支払の為だけに来るのか?
あの若い街兵士は、いわゆる『お財布君(さいふくん)』と呼ばれる立場なのか?
今日来る予定の若い街兵士から意識を外そう。
彼の状況が可哀想に思えてきた。
そうしたことは俺が何かを考えるべきではないな。
気持ちを切り替えて、調査隊への同行で不在の間の接客に意識を移そう。
「サノスにロザンナ、二人で接客したのか?」
「はい、私と先輩でしました」
「師匠、まずかったですか?」
俺が調査隊へ同行している間の接客をどうするかは、正直に言って迷っていた。
俺が調査隊の同行から帰ってくるまで、お客さんには俺が不在だとサノスとロザンナに伝えてもらうぐらいしか方法を思い付いていなかった。
「いや、二人で出来たなら問題ないぞ。むしろこれからもお願いしたいぐらいだ」
「「はい、頑張ります!」」
サノスには今までの経験がある。
ロザンナは⋯ 考えてみればイルデパンの孫娘だ。
そうそう街兵士が変な事はしてこないだろうし、無理難題もロザンナには言ってこないだろう。
これなら俺が不在でも、サノスとロザンナの二人で応対が出来そうな気がしてきた。
「魔法円を売って帳簿へ付ける時に、通し番号を書くのも出来るか?」
「あの番号を忘れずに書くんですよね?」
俺の店では魔法円に通し番号を記している。
魔法円の修復を依頼された時や不具合が持ち込まれた時に、購入者と持ち込んだ相手を突き合わせるための番号だ。
場合により、魔法円を盗んだ者が持ち込む可能性もあるので帳簿に記録を残しているのだ。
「サノス、魔法円の価格は知ってるよな?」
「はい、知ってますし価格表もあります」
「割引価格も知ってるよな?」
「はい、2枚組み合わせで1割引ですよね? 父さんが言ってましたからそれも知ってます」
おいおい、ワイアット。
それは他言無用な特別価格なはずだぞ(笑
魔石はサノスでも売れるから問題ない。
ポーションは今は在庫がないから、昨日のサノスのワイアットへの対応しか出来ないだろう。
俺が調査隊へ同行している間の接客は、サノスとロザンナの二人なら安心して任せれる気がしてきた。
「なら、俺が調査隊への同行で不在の間の接客も任せれるな?」
「任せてください!」
「大丈夫です!」
サノスとロザンナに力強く返事をされて、少し寂しい気持ちになるのは何故だろう。
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