12-15 薬草採取に危険が伴う
ロザンナを含めた見習い冒険者達が、魔の森の手前で薬草採集しているのを理解した時、サノスが口を開いた。
「私が最後に行ったのは⋯」
サノスの思い出すような言葉にロザンナが突っ込んだ。
「えっ? 先輩、今年になってから行ったんですか?!」
「ロザンナ、ちょっと待って⋯ 思い出すから⋯」
皆の暫しの沈黙の後にサノスが呟いた。
「行ってない気がする⋯」
おいおい。
「ですよねぇ~」
「ロザンナ、私ってそんなに行ってないかな?」
「行ってないと思いますよ。だって先輩と最後に行ったのは⋯ 確か去年ですよ」
サノスは今年の2月から店で働き始めたから、その時から薬草採集には行ってないんだろう。
「そうだ、思い出した! あの時、もう川の手前で採れなくて橋を渡ったよね?」
「そうです。その頃から、もう川の手前では採れなくなってたんです」
と、言うことは昨年の段階から、既に川の手前では薬草採取が出来なくなっていると言うことだ。
「私は土曜日に行ったんですけど」
「それってヴァスコとアベルが護衛で付いてた時だよね?」
「そうです。何人かで行きましたけど全員が川向こうでした」
ロザンナの口ぶりから、見習い冒険者の全てが川向こうでの薬草採集というのは、少々、考えさせられる。
俺は冒険者ギルドから、それなりの量の薬草を仕入れて使っている。
それらの薬草を採取してくれる見習い冒険者達に、俺が魔の森の手前という危険な場所で薬草採集をさせているのと同じだ。
見習い冒険者は全員が未成年だ。
そんな幼い連中を魔の森の側という危険な場所で働かせているとは⋯
それにロザンナとサノスの話を聞く限り、それが見習い冒険者の当たり前になりつつあるのだ。
更に気になるのは、薬草が得られる場所が、段々と魔の森に寄っている点だ。
ロザンナとサノスの話からすれば、昨年から川を渡って、この春先になっても川を渡っていると言うことは、西の川の手前では、もう薬草採取が困難だということだ。
「ロザンナ、ちょっと聞いて良いかな?」
「イチノスさん、何ですか?」
「去年の段階でもう橋を渡ってたのか?」
「それですけど、去年の秋だったかな⋯ 川の手前で薬草が見つからなかったんです。それで仕方なく橋を渡ったんです」
「思い出した! ロザンナ、それって私が一緒に行ったときだよね?」
「先輩、ようやく思い出したんですか?(笑」
「そうだ、あの時に橋を渡ったのを思い出したよ~」
若干、サノスが割り込んでくるのが煩わしいが、去年の秋には西の川の手前では薬草が採れなくなっていたと理解できる。
けれども、年が明けて春を迎えてからはどうなんだ?
去年はダメだとしても冬を過ぎて戻ってるんじゃないのか?
「その後、今年の春にも薬草採取にロザンナは行ってるよな?」
「はい、行ってます。春の討伐でポーションが必要になるので3月頃に行きました」
「その時はどうだったんだ? 川の手前で薬草は採れたのか?」
そこまで言うとロザンナが首を横にふった。
「ダメでした。いつもなら、春には川の手前でも薬草が採れるはずなんですが、今年は見つからなかったんです」
そこまで聞いて俺は確信した。
理由はわからないが、年々、薬草が得られる場所が、段々と魔の森に寄っているのだ。
この先、例えば来年はどうなのだろう。
それでこそ、魔の森に足を踏み入れないと薬草が採れない事態になる可能性もある。
そうなったら見習い冒険者だけでの薬草採取は不可能だろう。
その付近は、専門家としてギルドへ呼ばれたローズマリー先生と話す必要がありそうだ。
これは今後の事を考えて、本気で薬草の栽培を考える必要がある気がする。
「イチノス、何を考えてる?」
しばし考えているとワイアットが聞いてきた。
「ワイアット、実はギルドで薬草が手に入らないかもしれないと言われたんだ」
「そんな話をされたのか?」
「あぁ、それに見習い冒険者達に魔の森の側で薬草採取してもらうのも気になるんだ」
「「「⋯⋯」」」
俺の言葉に全員が黙した。
ワイアットもサノスもロザンナも、皆がそれなりに魔の森の側での薬草採取に危険性を感じているのだろう。
「イチノス、その付近はイチノスが一人で考えることじゃないと思うぞ。薬草採取の件は、明日、冒険者ギルドで話さないか?」
そうだなワイアットの言うとおりだ。
見習い冒険者の件や、薬草が採れる場所が減っている件は、俺が一人で考えても結論や対策は出ないだろう。
「師匠、明日もギルドですか?」
ワイアットが発した『明日』の言葉を拾うように、サノスが聞いてきた。
何と答えるか?
何となくだがサノスとロザンナは、俺とワイアットが一緒に調査隊で行動することを察している気がする。
調査隊へ俺が同行すれば三日も店を空けるのだから、サノスとロザンナには話しておく必要があるだろう。
そう思ってワイアットと目を合わせるとワイアットが頷いて来た。
これはサノスとロザンナへ、俺が調査隊の件を話すことに同意したからだろう。
「サノス、ロザンナ。ここから先の話は口外禁止で頼むぞ」
「はい!「誰にも喋りません!」」
「明後日の朝から、ワイアットの調査隊へ同行するんだ。その件で明日の昼前は今日と同じで冒険者ギルドへ行くんだ」
俺の言葉にサノスとロザンナが互いに顔を見合わせた。
「イチノスさん、聞いて良いですか?」
「何だ? ロザンナ?」
「イチノスさんのここ数日の予定を教えてもらえませんか?」
「私も知りたいです」
ロザンナの言葉にサノスが乗ってきた。
二人にしてみれば、俺に教えて欲しいこともあるから、俺の予定も気になるのだろう。
俺は棚からメモ用紙とペンを取り出し、ここ数日の予定を書き出して行く。
─
5月24日(火)今日
5月25日(水)冒険者ギルド
5月26日(木)1日目
5月27日(金)2日目
5月28日(土)3日目
5月29日(日)
5月30日(月)
5月31日(火)商工会ギルド
6月1日(水)
6月2日(木)
6月3日(金)
6月4日(土)
6月5日(日)休み
6月6日(月)
6月7日(火)商工会ギルド
6月8日(水)
6月9日(木)商工会ギルド
─
書き出した予定をサノスとロザンナへ見せる。
「当面の予定はこんな感じだな。1日目から3日目が店にいないと思ってくれ」
「師匠、これだと⋯ 私が描いた魔法円は戻って来てからじゃないと見れないですね?」
サノスはそれが心配か?(笑
「イチノスさん、祖母への魔石の配達は大丈夫でしょうか?」
ロザンナはそれが心配か⋯ 俺も心配だ。
シーラの治療に使う魔石だから確実に届けてもらうぞ(笑
まあ、サノスもロザンナも自分に関わりのある事は気になるよな。
そう思ったときにワイアットが口を開いた。
「カカカ イチノス、人気者だな(笑」
「ワイアット、笑い事じゃないだろ(笑」
◆
俺の書いたメモを見て、サノスとロザンナが色々と話をしている。
その様子を見ていたワイアットが口を開いた。
「さて、イチノス。今日はありがとうな」
「そうだ、ワイアット。俺の店に用があったんだろ? 魔石か何かが欲しかったんじゃないのか?」
「あぁ、それか⋯ 製氷の魔法円は幾らで手に入るんだ?」
「製氷の魔法円? 氷を作るやつか?」
「そうだ、今、店にあるか?」
ワイアットの言葉に、俺は試作で作ろうとしている魔法円に思いが至った。
あれをもう少し調整すれば、製氷の魔法円とすることも出来そうだ。
「丁度、携帯用で新作を考えていたんだ。少し待てるか?」
「携帯用か⋯ う~ん⋯」
あれ?
ワイアットが欲しいのは携帯用じゃないのか?
「実はな⋯ オリビアが氷冷蔵庫を欲しがってるんだ」
「氷冷蔵庫か?」
タチアナも欲しいといってたな。
今のリアルデイルでは、氷冷蔵庫の需要が高まってるのか?
「氷冷蔵庫を手に入れると製氷の魔法円も必要になるだろ?」
「そうだな。見てみるか?」
「ん? イチノスの店にあるのか?」
「あまり人に見せるもんじゃないが、氷冷蔵庫なら台所にあるぞ(笑」
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