12-9 古代遺跡で見つかった物
「さて、ここまでが古代遺跡の発見から現在までの流れなんだ」
ギルマスを疑うわけではないが、ここまでの話と俺に振りかぶってきた話や、聞こえてきた話を突き合わせてみるが全ての辻褄が合っている気がする。
そういえば、ギルドの裏手にある研修所の2階で話し合ったとき、ギルマスは俺に調査への参加を強く求めなかった。
キャンディスや教会長は俺が調査に出向くことが望ましい、もしくは俺が出向いて調べるのが良さそうな雰囲気を出していたな(笑
あの時点では、ギルマスは俺が参加するのはまだ早いと判断していたのだろう。
その後、ワイアットが持ち帰った情報(『何か』)を元にギルマスは何等かの確信を得た。
その確信から、今回、俺に調査への同行を指名依頼で出すことにしたわけだ。
そうなると、俺が調査に参加するに至る『何か』が見つかったのだと考えられる。
「ギルマス、そろそろ本題へ入りましょうか」
「ククク そうだね」
「ここまでの探索で『何か』を見つけて、私にその『何か』の調査を依頼したいんですね?」
「『何か』が見つかったか⋯ 正にそのとおりだな」
ギルマスが一息入れて言葉を続ける。
「イチノス殿は、ワイアット殿が古代遺跡の探索経験者だと知ってるよね?」
「若い頃に行ったことがあると聞きましたね」
ギルマスがワイアットの経験に触れる話をし始めた。
これは俺に何を伝えたいのだろう?
「実は、ここリアルデイルの冒険者ギルドに登録している冒険者の中には、古代遺跡の探索を経験している冒険者が他にもいるんだ」
「それなりに冒険者達は経験を積んでるんですね」
「そうだね。だが、実際に古代遺跡の探索で収穫を得ているのは、ワイアット殿だけなんだよ」
ギルマスの言う収穫とは、ワイアットが持っている『魔剣』の事だな。
そうした品の発見を俺に期待しているのか?
「そんなワイアット殿が断言したんだよ。今回見つかったのは確実に古代遺跡だろうとね」
そうか!
実際に古代遺跡で収穫を得ているワイアットの報告を受けて、ギルマスは古代遺跡だと確信したんだ。
そして昨日の公表に繋げたということだ。
そのワイアットが見付けてきた古代遺跡である証が、見つかった『何か』だと言うことだな。
「それで、ワイアットは何を見つけたんですか?」
「魔法円だよ」
魔法円?
古代遺跡から『魔法円』が発見されたという話は、俺も何度か聞いたことがある。
「古代遺跡で『魔法円』ですか?」
「イチノス殿はそうした物が見つかるのは知ってるだろ?」
「えぇ、それなりに知ってます」
「ワイアット殿は、魔の森の古代遺跡で、若い頃に探索した古代遺跡と同じような魔法円を見つけたと言うんだ」
なるほど。
ワイアットが若い頃に『魔剣』を得た古代遺跡、そこで見た魔法円と似た物が、魔の森の古代遺跡でも見つかったのが決め手なんだな。
「その当時、ワイアット殿は魔道士を雇って、その魔法円を調べてもらったおかげで、あの成果を得たと言うんだよ」
ギルマスがワイアットに気遣い『魔剣』を得たとは明確に口にせずに『あの成果』と微妙に言葉を濁している。
その付近はワイアットに聞けと言うことだな。
「ククク 私はその当時の魔導師の代役ですか?(笑」
「ククク イチノス殿は嫌かい?(笑」
「いえ、嫌とは言いません。新たな『魔法円』や未知の『魔法円』にはそれなりに興味はありますから行きますよ」
「よし、イチノス殿は依頼を引き受けてくれる事が決まったな」
そこまで言ったギルマスが応接から立ち上がり、自分の執務机に向かうと、直ぐに1枚の紙を手にして戻ってきた。
「これが今回の指名依頼の条件なんだ」
応接に座り直したギルマスが手にした紙を差し出してくる。
その紙は指名依頼の発注書で、報酬として相応の金額が記載されていた。
「イチノス殿、依頼料が足りなければ⋯」
「いえ、充分というか妥当でしょう(笑」
「そう言って貰えると助かるよ(笑」
「但し、今回の調査で報酬に見合うだけの成果を必ず期待するのは勘弁してくださいね。初めて見る『魔法円』に私が何かを出来るとは、決して思わないでください」
「そこは理解している。明日の10時に今回の調査隊の顔合わせがあるんだ。参加してくれるよな?」
「えぇ、わかりました。参加しましょう」
明日の水曜日は、若い街兵士が魔法円の購入に来る予定だ。
はっきりとした時間帯は聞いていないが、おそらく喫茶店で一緒にいた彼女を連れてくるだろうから、昼過ぎになるだろう。
昼前にギルドで調査団の連中と顔合わせをして、昼過ぎには若い街兵士と商談をすることになるな。
そこまで話し合って、俺はギルマスの執務室を後にした。
冒険者ギルドの1階へ降りると、事務作業をしていた若い男性職員が俺に気づいた。
「イチノス殿、ギルマスとのお話は終わりましたか?」
「あぁ、終わったよ。明後日からお出掛けになったよ」
「あの依頼を引き受けてくれたのですね?」
「あぁ、引き受けたよ」
「助かりました」
ふと、彼の『助かった』の言葉に釣られて、なんとなく聞き返してしまう。
「ちょっと聞いても良いかな?」
「はい、何でしょう?」
「他に候補者はいたのかな?」
「他の候補者⋯ ですか? おりません」
あぁ⋯ これは他に候補者が居たけれども、俺が筆頭候補だった感じだな。
ちょっと意地悪な質問になってしまったな。
一度、引き受けた以上はそんなことは考えてもしょうがないのに、彼に聞いてしまった自分が少し恥ずかしいぞ(笑
「すまんね変なことを聞いて(笑」
「それで、これが調査隊の方々へ渡している日程表です」
「君が準備してくれたのかい?」
「サブマスから指示されて、自分なりに作ってみたんです(笑」
「助かるよ。急な依頼だから何を持って行くべきかも手探りだからね」
そんな話をしていると、タチアナが若い男性職員の後ろに立っているのが見えた。
俺と若い男性職員の会話が終わるのを待っているような感じだ。
「用意してくれてありがとうね」
「明日は参加されますよね? その際に私から詳しく説明させていただきますので」
「ありがとう」
そう告げて俺は若い男性職員との会話を切り上げ、タチアナへ声を掛ける。
「タチアナさん、俺に何か用があるのかな?」
「イチノスさん、魔法円の代金をお渡ししてないんですが」
「そうだった。貰うもんを貰ってなかったね(笑」
「受付カウンターでお支払しますので」
そう言われて受付カウンターを見れば、誰も居らずタチアナが手隙な様子が伺えた。
タチアナの案内のまま受付カウンターで魔法円の代金を受け取り、俺は冒険者ギルドを後にした。
冒険者ギルドを出て道を渡り、昼食を求めて大衆食堂へと向かう
この時間に訪れるのは、サノスやロザンナと来て以来だなと思いながら扉を開けると、給仕頭の婆さんが出迎えてくれた。
「あら、イチノス。珍しいね」
「そうだな、ランチを頼めるかな?」
「大丈夫だよ。今日はトリッパだ」
「おっ、俺の好物だな。もしかして討伐されたオークのか?」
「だろうね。この時期に手に入るんだから」
代金を支払い木札を受け取る。
いつも座っている長机が空いていたので席に着いて店内を見渡す。
さすがにこの時間だと飲み始めている連中は見当たらない。
商人達が3~4人で座る長机が2つと、冒険者らしき姿の二人組が3つ。
それに大工姿の男達?
なるほど、あれは魔道具屋の改装工事の人達だな。
それほど混んでいる感じは無いな。
まあこれが普段の昼時の大衆食堂なのだろう。
昼食が出てくるまでと、先程の若い男性職員が渡してきた日程表をカバンから取り出す。
─
集合 5月26日(木)
時刻 5時
場所 西の関
朝の5時となると、ほぼ日の出だな。
明日は早目に寝ないと集合に遅れる可能性があるな。
「イチノス、お待たせ!」
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