12-8 古代遺跡について


「古代遺跡の調査に同行して欲しいんだ」


 冒険者ギルドでの用件を終わらせた俺に、ギルドマスターのベンジャミン・ストークスがとんでもない話を投げてきた。


 古代遺跡


 その言葉で幾多の事が頭の中を巡って行く。


 魔の森で見つかった古代遺跡の事だよな?

 昨日の会合で探索禁止令が出たやつだよな?

 アンドレアが言ってたやつだよな?

 ワイアットが『討伐調査』とかで行ったやつだよな?


 ⋯

 ⋯⋯

 ⋯⋯⋯


 何故か『古代遺跡』の言葉が心に引っ掛かる。


 何だろう?

 今の俺が抱えていることを解決する何かが『古代遺跡』にある気がする。


 何故だろう?

 そもそも俺は『古代遺跡』に興味なんて無いのだが、そこに行けば何かが見えてくる気がする。


 ⋯⋯⋯

 ⋯⋯

 ⋯


「イチノス殿は、古代遺跡には興味が無いと考えた方が良いだろうか?」

「えっ?」


 ギルマスの言葉で巡っていた思考が止められた。


「今、随分と悩んでいたようだが?」

「いやいや、大丈夫です。気にしないでください(笑」


「それで、どうだろうか?」

「ギルマス、詳しい話を聞かせて貰えますか? それと私へ依頼する理由を教えてください」


「そうだよな、いやいやイチノス殿に結論だけを求めてしまってすまない」

「もしかして、ギルマスもキャンディスさんと同じ様に疲れていませんか?(笑」


「おっと、それならイチノス殿に休暇を申請して⋯」

「ギルマス、聞かなかったことにしますから、古代遺跡についてわかりやすく話してください(笑」


「ククク」「ハハハ」


 互いに笑いが出たところでギルマスが口を開いた。


「そうだな、まずは見つかった古代遺跡が何処にあるかを話そう」


 そう告げたギルマスが、古代遺跡の場所から話してくれた。


 リアルデイルの西方の関から出る西街道は、魔の森の中を突っ切る形でジェイク領の石炭街へと繋がっている。

 その西街道の途中、魔の森の中には宿泊村であるサカキシルがある。


 今回発見された古代遺跡は、そのサカキシルとリアルデイルの中間付近の北方よりに見つかったと言う。


       リアルデイル

         ↓

        西方河川

         ↓

古代遺跡 ← 魔の森-東部

         ↓

       サカキシル

         ↓

       魔の森-西部

         ↓

        領境河川

         ↓

        石炭街


 従って、リアルデイルからみれば北西付近に古代遺跡が位置することになる。


「思いの外にリアルデイルに近いですね」

「そうなんだよ。ほぼ西方河川の川向こうと言える場所なんだよ」


 俺がリアルデイルへの近さに感想を述べれば、若干、悩ましげな言葉でギルマスが答えた。


 俺はアンドレアの話を思い出しながらギルマスへ問い掛ける。


「この古代遺跡は、誰が見つけたんですか?」

「その付近は微妙なんだよ。実は今年の初め頃から、既に冒険者達から報告が上がってるんだよ」


「えっ? 今年の初めからですか?」


 俺としてはアンドレアの話から、ワイアットやエンリットが見つけたものだと思い込んでいた。


 続けてギルマスが古代遺跡に関する話を続けた。


 ギルマスによると、今年に入ってから、冒険者達から『古代遺跡らしき物がある』という報告が来ていたそうだ。

 そこで、毎年恒例の春の大討伐の際、冒険者ギルドはワイアットとエンリットの仲間に古代遺跡の探索を依頼したという。


 そう、俺がポーション作りで睡眠不足になり、サノスに店を任せて寝ていた頃に、古代遺跡の調査が行われたというのだ。


「結果として、春の大討伐の段階では古代遺跡は見つからなかったんだ」

「それでも調査は続けたんですか?」


「あぁ、続けたよ」


 そう告げてギルマスは話を続けた。


 ギルマスとしては、もし本当に古代遺跡があるのなら、オークやゴブリンが住み着いている可能性があると危惧したという。

 そこで、エンリットたちに調査を依頼し、古代遺跡の場所を突き止めた。

 この古代遺跡の存在を突き止めた際に、たまたまアンドレアの護衛をしていたワイアット達がエンリット達の調査に加わったとという。


 この付近は、アンドレアが話していたことと明確に繋がった。


「なるほど、そうなると誰が発見者かというと微妙ですね(笑」

「そうなるだろ?」


「古代遺跡の発見者は名を残せますからね」

「それも古代遺跡の質によるんだよ」


「その付近は、今回の調査次第ということですかね?(笑」

「そうなるかも⋯ としか、今は言えないんだ。むしろ発見と共に厄介事が着いてきたんだよ」


「厄介事ですか?」


 俺の言葉に頷いたギルマスが話を続ける。


 ワイアットとエンリットの報告で、ほぼ古代遺跡だろうという認識が成されたのだが、厄介ごとが着いてきた。

 ギルマスの予想どおりに、古代遺跡にはゴブリンが住み着き、集落を作り始めていたというのだ。


 この段階で古代遺跡への再調査と討伐部隊の編成を検討している所へ、ワリサダ率いる東国使節団からの要請が舞い込んだ。

 東国使節団で南方のストークス領との常設商隊を組むため、冒険者達による護衛部隊の編成を求められたのだ。


 結果的に冒険者ギルドとして選考会を開く事に至った。

 この選考会で冒険者達の実力を調べ直し、古代遺跡に作られ始めたゴブリン集落への討伐部隊の編成と、東国使節団の護衛部隊の編成を行う予定だったという。


「その為の『選考会』だったんですね」

「最初の目的はそうだったんだよ。だがね、ここから更に厄介事が増えるんだよ」


 ギルマスの言う更なる厄介事とは、この2つの部隊への振り分けを始めた所で、国王からの勅令が来たことから始まると言う。


 国王からの街道整備の勅令が入ると、ウィリアム叔父さんの東国使節団へのテコ入れが届いた。

 結果的に、王都から来る東国使節団とウィリアム叔父さんが合流し、リアルデイルへ向かうことに成ったという。


 そうこうしている間に、古代遺跡に住み着いたのはゴブリンだけではなくなり、オークまで混ざり始める。

 そのオークが西街道にまで出現し始め、その報告が冒険者達から入り始める。


 ついにはヴァスコとアベルの、南街道でオークが出現した報告に繋がると言うのだ。


「ククク それで、あの時のギルマスやキャンディスさんは疲れきってたんですね(笑」

「あぁ、もう開き直って、大きく舵を切るしかなかったね」


「それが西方と南方の魔物討伐依頼になったという訳ですか?」

「まずは魔物討伐をしないと何事も進まないからね」


「正解だと思いますよ」

「急な討伐依頼だから、あの時はキャンディスさんに無理をさせたよ(笑」


「ククク」「ハハハ」


 俺の笑いにギルマスもつきあってくれた(笑


「そう言えば耳に挟んだんですが、ワリサダ殿とダンジョウ殿が殲滅したそうですが?」

「そうそう、その話もイチノス殿にしておこう」


 魔物討伐依頼において、それまでリアルデイルで足止めを食らっていたワリサダ達がゴブリンの殲滅に手を上げたというのだ。


 足止めにより溜まっていた鬱憤もあったのだろう。

 東国の武人としての力試しもしたかったのだろう。


 ワリサダとダンジョウが、お付きの武人を連れて住み着いたゴブリンの殲滅へ行くと言い出したそうだ。

 これにギルマスとキャンディスは大いに驚いたが、実は選考会で東国使節団は冒険者達と模擬戦をしており、その様子からギルマスはゴブリンの殲滅を許可したという。


 結果的に誰一人として被害を出さずに、ワリサダとダンジョウ、そしてお付きの武人達は見事に住み着いていたゴブリンの殲滅を成し遂げたという。


「しかし、その後でケガ人が出たのが悔やまれるよ」

「そうだ、エンリットがオークにやられたんですよね?」


 ゴブリンが一掃された古代遺跡へ、ワイアットとエンリットが仲間達と共に『討伐調査』と称して古代遺跡の探索に向かった。

 結果としてオークが何体か表れ、そのオークに襲われてエンリットが負傷した件だ。


「結果的にオークも殲滅したんですか?」

「あぁ、ワイアットとエンリット達が全て片付けてくれたよ」


「彼等もワリサダ殿やダンジョウ殿に負けず劣らずですね(笑」

「まぁ、何等かの気概もあったんだろうが、結果的にエンリットがケガをしたのがギルドとしては悔やまれるよ」

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