12-3 女性へどこまで気遣うべきか?


 サノスに店番を任せ、俺とロザンナは出掛けることにした。

 俺は冒険者ギルドで、ロザンナにはシーラの治療に使う魔石を、ローズマリー先生へ届けてもらうことにした。


「サノス、すまんが店番を頼むぞ」

「はい、任せてください!」


カランコロン


 サノスに見送られ、俺とロザンナは一緒に店を出る。


 店を出た俺達に気が付いたのか、簡易テントから二人の女性街兵士が顔を出し、王国式の敬礼を出してきた。

 それに応えて俺とロザンナも立ち止まり敬礼を返す。


「立番、ご苦労様です」

「「はっ ありがとうございます」」


 俺が敬礼を解けば、二人の女性街兵士もロザンナも敬礼を解いた。

 二人共に見掛けたことがある女性街兵士だ。

 イルデパンとローズマリー先生が訪れた際に、冒険者ギルドの入口で仁王立ちしていた女性街兵士だ。


 一応、この二人には、行き先を告げておいた方が良いだろう。


「ロザンナにはローズマリー先生へ魔石の配達に行ってもらう。私は冒険者ギルドへ向かう」

「イチノス殿、護衛はどうしますか?」


「お二人のおかげで安全だから大丈夫だよ」


 そこまで言うと二人の女性街兵士の顔が一気に明るくなった。


「じゃあ、いってきます」

「「お気をつけて~」」


 女性街兵士に見送られたロザンナが元気に応え、魔石を入れたカバンを大事そうにしながら東西に走る大通りの方へと向かって行く。

 どうやらロザンナの家は西町南方面のようだ。


 そんなことを思いながら、俺はロザンナとは反対の冒険者ギルドへ向かおうとして、足を止めた。

 二人の女性街兵士に愛想笑いをしながら店へと戻る。


カランコロン


「サノス!」

「はい~」


 店に入ってサノスを呼び出せば、直ぐに顔を出して来た。


「師匠、どうしたんです?」

「立番の街兵士が女性だった」


「へ? それがどうしたんです?」


 そこまで話して次の言葉に迷った。

 だが、一応、サノスも女性だから解ってくれるだろうと思い言葉を続ける。


「その、なんだ⋯ 俺もサノスもロザンナも警護されている立場なのは解るよな?」

「えぇ、わかりますけど?」


「困ってるようだったら、貸しても良いぞ」

「??」


 サノスは首を傾げるだけだ。

 う~ん。何ともハッキリとは口にし辛いな(笑


「今日はロザンナが掃除してるから綺麗だろ?(笑」

「⋯⋯!」


「じゃあ、行ってくるから」

「はい、一応、気にしときます(笑」


 どうやら、それとなくだがサノスは理解してくれたようだ(笑


カランコロン


 改めて店を出た俺は、二人の女性街兵士へ軽く敬礼をして冒険者ギルドへと向かった。


 冒険者ギルドへの道を進みながら、先程の女性街兵士に思いを巡らす。

 ワリサダやダンジョウが、この国は女性の要職への登用が当たり前と言っていた。


〉騎士学校を出た女性街兵士が

〉以前よりかなり増えている


 イルデパンもそう言っていた。

 思い返してみれば、イルデパンはローズマリー先生やロザンナに、あの二人の女性街兵士を護衛に付けていた。


 そうした様子と、暫く警護が続く状況を絡めて考えると、今後は女性街兵士と接する機会が増えそうな気がする。


 俺は女性街兵士への労いの言葉と気遣いを考えて行く必要がありそうだ。



 角を曲がると、道沿いの店が軒並み歩道にテントを張り出す様子が見えて来た。

 どうやら各店舗が店を開く時間帯のようだ。


 各店舗がテントを張り出す様子を眺めながら歩いていると、雑貨屋の前で足が止まった。

 既に店は開けており、店内の奥で女将さんがハタキを掛けている。


 店の外から軽く店内を見渡しティーポットが置かれているのが見えた。

 これならギルドの帰りに寄って、急須があるかを尋ねれば、何等かの代物(しろもの)が得られそうだ。

 おっと傘も置いてあるな。


 雑貨屋にはギルドの帰りに寄ろうと決めたところで、道の反対側の魔道具屋へ目が行った。

 魔道具屋の前には街兵士が立っておらず、代わりに荷車が置かれている。


 そういえば昨日の夜に大衆食堂から帰る途中、街兵士が立っていなかった気がする。

 昨夜の記憶を辿ろうと思うが、俺は敬礼をした記憶が無く、どうも定かな感じがしない。

 ワイアット達と久しぶりに呑んだ楽しさから酔っていたのだろうか?


 そう思っていると魔道具屋から『ガンガン』『バキバキ』と何かを壊すような音が聞こえる。

 何をしているのだろうかと覗こうとすると、大工姿をした男達が木材を抱えて魔道具屋から出てきた。

 男達は抱えて来た木材を勢いよく荷車へと積んで行く。

 その間も魔道具屋の中から『ガンガン』『バキバキ』と音が続く。


 どうやら内装を変えるために大工が入っているようだ。


「イチノスさん、こんにちは」


 思わず後ろから声を掛けられ、慌てて振り返れば雑貨屋の女将さんが立っていた。


「女将さん、こんにちは」

「イチノスさんは気になります?」


「気になるというか、何か店が入るんですかね?」

「店じゃないみたいよ」


 店じゃない? 何が出来るんだ?


「昨日、大工さんが周囲の店を回ってたの。『しばらくご迷惑をおかけします』って言ってたわよ」

「何が出来るんでしょう? 女将さんは知ってるんですか?」

「イチノスさん、気になる?(笑」


「店じゃないとすると何が出来るか気になりますね。ここは言わば商店街ですから、一般の住宅とは思えないし⋯」

「街兵士の立番所みたいよ」


 おいおい。

 アナキン&イルデパン、ここにも街兵士の立番所を作るのか?


「立番所が出来たら、この通りも安全になりそうよね」

「はぁ、そうですね」


 どうやら、雑貨屋の女将さんは、街兵士の立番所が出来ることには歓迎なようだ。


 そんな女将さんへ後で店に寄ることを伝えて、俺はその場を後にした。



 冒険者ギルドへ足を踏み入れると様子が変わっていた。


 商人達が集まっていた机が撤去され、討伐状況が張り出されていた特設掲示板が置かれている。

 その特設掲示板には、こんな張り紙が出されていた。


質問状の受付

 6月1日10時から開始します。

 それ以前の提出については、

 一切受け付けません。


 冒険者ギルド ギルドマスター

  ベンジャミン・ストークス


 なるほど。

 冒険者ギルドでは、既にウィリアム叔父さんの公表への質問状受付の準備が始まっているようだ。

 おそらく、質問状の回答は、この特設掲示板に貼って行くのだろう。


 そのまま振り返り、通常の依頼が張り出される掲示板を確認すると、ここも変わっていた。


┌────────┐

│西方 魔物討伐 │

│   一時延期 │

│薬草採取護衛付き│

└────────┘

┌────────┐

│西方 魔の森  │

│  古代遺跡  │

│探索活動全面禁止│

└────────┘

┌────────┐

│南方 魔物討伐 │

│    完了  │

│ 薬草採取解禁 │

└────────┘


 こちらはウィリアム叔父さんの公表を受けて、冒険者ギルドとしての対応が既に成されている感じだ。


 しかも南方の魔物討伐は完了の告示が成され、薬草採取も解禁とされている。

 これならばストークス領との交易は再開されたのだろうと窺えるし、薬草の手配をお願いしても良さそうだ。


「イチノスさ~ん」


 俺を呼ぶ声に受付カウンターを見れば、美味しい紅茶を淹れてくれる若い女性職員が俺を手招きしていた。

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