11-12 俺は激しい後悔を感じた
俺とシーラは、若い街兵士の案内で、以前に訪れた4階へと案内されて行った。
「久しぶりに階段を登ると辛いわぁ。イチノス君、ちょっと肩を貸して」
4階まで階段を登りきったところで、シーラが愚痴を溢しながら俺の肩に手を掛けてくる。
運良く廊下にベンチが置かれていたので、シーラを誘って一休みすることにした。
「すいませんね。他の応接が全て塞がっていてイル副長の執務室しか空きが無かったのです」
若い街兵士がすまなそうに言ってくる。
それを聞きながら、俺は回復魔法を掛けようとシーラの背中へ手を伸ばす。
「シーラ、少しだが回復かけるぞ」
「イチノス君、ありがとう。助かるわぁ~」
俺はシーラの背中に手を添えて、軽く回復魔法を掛けて行くと、シーラが何とも言えない声を出してくる。
「あぁ~ しみるぅ~」
「ククク なんか親父くさいな(笑」
「そう? イチノス君の回復魔法は気持ちいいんだよ」
「そうか? お褒めの言葉をありがとうございます。はい、おしまい」
「ありがとう。だいぶ楽になった」
俺が回復魔法を終えると、疲れがとれたのかシーラが肩を回しながらベンチに座り直した。
そんなシーラを眺めながら、俺はふと思い出した。
そういえば、どうしてシーラはパトリシアを『お姉さま』と呼ぶんだ?
その呼び方にパトリシアも満更でもないと言うか、さもそれが当然だという感じだった。
「シーラ、ちょっと聞いて良いか?」
「ん? なに?」
「シーラとパトリシアは、どういった関係なんだ?」
俺がそこまでいうと、脇に立っていた若い街兵士がビクリとする。
おっと、この街兵士の前で東町街兵士副長のパトリシアを呼び捨ては不味かったか?
「う~ん あれはね⋯」
ベンチに座り直したシーラがしばし悩んだ。
若い街兵士を見れば興味がありそうな顔をしていたが、俺に見られているのに気が付いたのかクルリと背を向けた。
こいつ、なかなか気が利くな(笑
「イチノス君、その話はちょっと話し辛いかな?(笑」
シーラが笑いながら後ろを向いた街兵士へ向かって答える。
シーラも彼が聞いているのに気が付いたのだろう。
「まぁ、シーラが話す気になったら聞かせてくれ(笑」
「それより、パトリシアお姉さまの髪の毛には驚いたわ。イチノス君は何か聞いてるんでしょ?」
おいおい、街兵士の耳がピクピクしているぞ(笑
「う~ん 聞いてはいるけど⋯ 少し話しにくいかな?(笑」
「フフフ 私の想像だけど⋯」
シーラが若い街兵士の背中をチラリと見ながら言ってくる。
ククク シーラ、若い街兵士が聞いてるのをわかってるんだろ?(笑
「やぁ~めた。イチノス君が話すまで待ってるね」
「いや、その前にシーラなら聞けるんじゃないのか?」
「えぇ~ 話しにくそうなイチノス君を見せてくれないの~?(笑」
俺は、若干、赤みの増した顔で笑うシーラに回復魔法を掛けた事を少しだけ後悔した。
◆
「こちらです」
結局、若い街兵士に案内されたのは先週も足を運んだ部屋と同じだった。
シーラを連れて、若い街兵士が押さえてくれたドアから室内へ入ると、応接に座っている年配な女性の後ろ姿が見えた。
もしかして⋯
「副長を呼んで来ますので、座ってお待ちください」
俺とシーラが部屋へ入ると街兵士が足早に出て行く。
シーラと共に応接へ足を進めると座っていた女性がこちらへ振り向いた。
案の定、ローズマリー先生だ。
「あら、イチノスさん」
「こんにち「ローズマリー先生!!」」
「シーラ⋯ シーラなの?!」
ローズマリー先生が急に立ち上りシーラへと駆け寄った。
「先生、お久しぶりです」
「ずいぶんと酷いじゃない! 挨拶なんかいいから、座って座って」
ん?
ローズマリー先生が『酷いじゃない』って言ったよな?
「また無理したんじゃない。ほら手を出して」
早々にローズマリー先生がシーラを隣に座らせ、自分の手をシーラの手に重ねて行く。
「まずは診察ね」
診察?
そう思った途端にローズマリー先生からシーラへ魔素が流れるのがわかる。
その量はわずかだが断続的に流れて行く感じだ。
これは治療回復術師が使う診察診断魔法だ。
診察診断魔法は俺も学校で習って、それなりにシーラと掛け合った事がある。
『イチノス君、変なところを診ちゃダメよ(笑』
『オマエモナー』
そんな会話を思い出していると、診察が終わったのかローズマリー先生がシーラに声をかけた。
「シーラ、よく耐えたわね。かなりの魔力切れだったんじゃないの?」
シーラは魔力切れで体調を崩していたのか⋯
しかもローズマリー先生の口調だと、かなり酷い状態を経験したのか。
まてよ、シーラの白い肌、それに白銀髪は魔力切れが原因だったのか?
「へへへ やっぱり先生はお見通しなんですね(笑」
「シーラは魔石を持ってるの?」
「いえ、ちょっと切らしてて⋯」
「イチノスさんは持ってるわよね? 私のは使い切っちゃったから貸してくれる?」
ローズマリー先生がさも当然のように魔石を貸せと言ってきた。
確かに俺は『エルフの魔石』を身に付けてはいるが、さすがにここで出せない。
俺は魔導師のローブに隠し持った伸縮式警棒を取り出し、持ち手を開いて入れたばかりの『ゴブリンの魔石』を取り出す。
これが使えるだろうかとローズマリー先生へ差し出す。
「この程度しかありませんが」
「大丈夫よ。ちょっと借りるわね」
ローズマリー先生が胸元から小さな袋を取り出し、袋の中から魔石を取り出し応接机に置いてきた。
それは『魔石光(ませきこう)』を放たず、一目で見ても魔素が切れているのを感じる『オークの魔石』だった。
ローズマリー先生は『オークの魔石』を使い切るような治療をしたのか⋯
誰にどんな治療をしたんだ?
それにシーラが『魔石』を身に付けていないのが気になる。
俺の常識では、魔導師であれば何らかの『魔石』を身に付けているのが当たり前だ。
魔導師を目指している弟子のサノスでさえ、ワイアットから貰った『オークの魔石』を身に付けている。
そいう言えばロザンナはどうなんだ?
そんなことを考えていると、ローズマリー先生が俺の渡した『ゴブリンの魔石』を袋に入れ直し胸元へと戻して行く。
それで準備が出来たのかローズマリー先生がシーラと互いの手を合わせた。
「シーラ、ちょっと強目に行くわよ」
そう告げたローズマリー先生が目を瞑り深呼吸をすると、それに合わせるようにシーラも深呼吸を始めた。
コンコン
部屋のドアをノックする音がする。
これからという時に邪魔になってはと思い、俺は急ぎドアへ向かった。
するとドアが開きイルデパンが入ってきた。
俺は口の前に指を立て声を出さないようにイルデパンへ促す。
(イチノスさん⋯ もしかして治療中ですか?)
(あぁ、丁度、先生が治療するところなんだ)
イルデパンと共に応接へ目を向けると、ローズマリー先生の治療回復魔法がシーラを包み込んでいるのを感じる。
そんな二人の姿を見ながら、俺は激しい後悔を感じた。
俺はシーラと再会できたことに浮かれ過ぎてたんじゃないか。
改めて思えば、シーラの白い肌や白銀髪の症状は、極度の魔力切れの名残だ。
俺は実際に目にしたことは無かったが、あの症状については魔法学校で習った記憶がある。
もっと早く気が付いて、俺がしっかりとシーラに回復魔法を掛けることもできた筈だ。
そう思った途端に、シーラを包んでいた治療回復魔法が消えて行くのがわかった。
「ふぅ~ この魔石じゃあこれが限界ね」
ローズマリー先生が治療回復を終えた言葉を告げてくる。
俺が急ぎ応接へ戻ると、あれ程に白い肌だったシーラの顔には、先程よりも更に赤みが増していた。
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