8-8 弟子が初めて『カレー』を食べます
「師匠、この香りの正体は『カレー』という食べ物なんですね?」
「サノスは食べたことは無いよな?」
「ありませんよ~ けど、この美味しそうな香りからすると、きっと美味しいものだと思います!」
サノスが『美味しい』の不思議な活用で、口にしたことの無い食べ物を称えてくる。
さてさて、サノスは『カレー』を見てどんな反応をするのだろうか?
『カレー』を食べてどんな反応をするのだろうか?
カランコロン
サノスの反応を楽しみにしていると、店の出入口の扉が開き、街兵士事務方の制服を着た女性が3人で入ってきた。
「いらっしゃいませ~」
「3人だけど大丈夫ですか~」
(空いてる~)(良かった~)
カウンター向こうのキッチンから女店主が顔を覗かせ、入ってきた女性3人組を迎え入れる。
「はい、3人ですね。奥に詰めて座ってね~ ランチで良いかしら?」
「はい、「ランチで3人「お願いします」」」
女性3人組の仲の良さそうなハモり具合を気にせず、女店主が問いかける。
「飲み物はどうします?」
おっと、俺もサノスも飲み物を決めていなかった。
女店主の言葉で、ランチの飲み物を決めていないのを思い出した。
「ラッシーで!」
「私もラッシーでお願いします」
「う~ん⋯ 私もラッシーで!」
結局、女性3人組は全員がラッシーを頼んだ。
「全員がラッシーね。そうだ、イチノスさんは?」
俺と同じように思い出した女店主が飲み物を聞いてくれた。
「私もラッシーでお願いします。サノスは⋯」
「私もラッシーで!」
サノスの大きめの声に、女性3人組が、こちらを見てきた気がする。
「紅茶もあるが⋯ サノスはラッシーを知ってるのか?」
「知らないですよ。けど、綺麗なお姉さん達が推すんです。美味しい飲み物に決まってます」
「あら、綺麗なお姉さんだってぇ~」
「「キャキャ」」
サノス、世渡り上手な台詞だぞ。
「じゃあ、ランチカレーが3人前ね。飲み物は全員がラッシーね」
女店主が女性3人組に続いて俺とサノスに目をやり、注文を確認する。
女店主の声に、女性3人組がサノスに向かってサムズアップを出してきた。
それに合わせてサノスも真似をする。
お前ら、何をやってるんだ?
結局、俺とサノス、そして女性3人組のランチカレーが同時に出てきた。
私は出てくるなり食べ始めようとしたが、サノスは手をつけずにじっとカレーを見つめている。
「師匠⋯ これを食べるんですか?」
「ああ、おいしいよ」
ランチのチキンカレーを前にして、サノスがためらいがちに俺に尋ねる。
サノス越しに隣の席の女性3人組を見ると、皆がチャパティにカレーを乗せて食べ始めていた。
カランコロン
「3人だけど、空いてる?」
今度は街兵士の制服を着た男が入り口の扉を開けて顔を出してきた。
しかし、店内を見るや否や、その顔は困惑の表情に変わってしまった。
「すみません、1人ずつなら⋯ 待ってもらえますか?」
「では、外で待ちます」
女店主に答えた男性の街兵士は、女性3人組に軽く手を振った。
三人の女性もそれに応えて軽く手を振り返す。
そのうちの一人が『フフフ、勝った』と小声で言ったのが聞こえたような気がした。
〉珍しい食べ物屋が店を開いた
〉若い連中が騒ぐので
確か、イルデパンがそんなことを言っていたような気がする。
暫くはこの店は賑やかになりそうな予感を感じながら、俺はランチのチキンカレーを口へ運んで行く。
カレーを一口食べて改めて感じた。
やはり『カレー』は美味しい食べ物だ。
隣のサノスを見ると、女性3人組を真似て、カレーをチャパティに乗せて口へ運んでいる。
「んん~!」
ククク。
初めて口にした『カレー』を、サノスはどう感じたのだろう?
続けて、サノスはスプーンを使って、直接カレーだけを口へ運んだ。
「んん〜♪︎」
ククク。
直接カレーを口に運んだのだから、サノスもそれなりに美味しいと感じたのだろう。
「し、師匠! 美味しいです!」
「そうかそうか」
(ククク(フフフ(ウンウン)))
女性3人組はサノスを見て、とても明るい顔で微笑でいました。
俺もサノスもランチのチキンカレーを食べ終わり、今は飲み物のラッシーを味わっています。
隣に座っているサノスは、ラッシーを一口飲んだ後、満足そうな顔でグラスを見つめている。
「カレーも美味しい! このラッシーも美味しい!」
「そうかそうか」
「師匠はラッシーが何で出来てるかわかります?」
「いや、分からない⋯ 多分だが牛乳とヨーグルトだと思うんだ」
「『カレー』と『ラッシー』の組み合わせが絶妙です」
(((うんうん)))
サノスは『カレー』も『ラッシー』も口に合ったようだ。
隣に座る女性3人組がサノスの言葉に嬉しそうに頷いている。
「このほのかな甘味は蜂蜜でしょうか?」
「確かに蜂蜜っぽいな」
「あらあら、お嬢さんに気に入って貰って嬉しいわ(ニッコリ」
そう言った女店主が、俺とサノスが出した下げ物をカウンターの向こうから取って行く。
「「「ごちそうさまでした~」」」
隣に座っていた女性3人組も食べ終わり、飲み終わったラッシーのグラスと共に下げ物をカウンターから出している。
「サノス。次のお客さんも待ってるようだから、それを飲み終わったら行こうか」
「は~い」
サノスはそう答えながらも、ラッシーの入っていた空のグラスを名残惜しそうに見ていた。
どうやらサノスは、カレーとラッシーの組み合わせに何かを感じているようだ。
女性3人組に続いて会計を済ませ、サノスと2人で店の外へ出ようとして驚いた。
出入口の扉のガラス越しに、制服姿の街兵士がズラリと並んでいるのが見えたのだ。
出入口の扉を開けると、店に上がるポーチに続く数段の階段下に、10人ほどの街兵士が並んでいた。
「ありがとうございました~」
女店主の声を背に店の外へ一歩踏み出すと、すぐに制服姿の街兵士の全員がこちらへ視線を向けてくる。
「お待たせしました~ 6人 入れますよ~」
俺とサノスが階段を降りると、女店主が開け放った扉から、行儀良く列を成している街兵士に声をかける。
その様子から、この店の昼時は西町幹部駐兵署の御用達(ごようたし)状態になっているのを強く感じた。
「師匠、美味しかったです。ごちそうさまでした」
店へ入る階段を降りたところで、サノスがペコリと頭を下げて礼を告げてきた。
そんなサノスの後ろを、小走りに黒髪の女性が声を掛けながら走り抜けた。
「ちょっと、ごめんなさい」
その女性の光を反射させる艶やかな黒髪に、俺は強く興味を引かれ思わず目で追ってしまった。
体のラインがわかる黒のワンピースに黒のショートブーツ。
ワンピースにはスリットが入っているのか、店へと入る数段の階段を昇る際に、スリットの隙間から脚の肌が微かに見える。
見事なまでに細い腰と引き締まった臀部のラインが実に素晴らしい。
その女性は、階段下で待っていた男性陣の全ての視線を受けながら、何の迷いもなく店へと入って行った。
う~ん⋯
どこかで見た感じがするし、先程の声も聞いた気がする。
「バンジャビ?」
礼を解いたサノスが、俺と一緒に黒髪の女性を目で追いかけていた。
そんなサノスが店の出入口を指差し呟いた。
「カレーの『バンジャビ』?」
「⋯⋯」
サノスが言わんとしているのは店の名だよな?
どこかで聞いたことのある言葉だ。
「師匠は覚えてますよね?」
「何がだ?」
「ほら、黒い名刺です」
「黒い名刺?」
「南町の⋯」
「あっ! あのバンジャビか!」
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