8-2 今日も冒険者ギルドへ行くことになりました
『ポーションの作り方』の扱いについて、サノスなりに気付いてくれたようだ。
「これでサノスの相談は終わりだな?」
「はい。悩みは少し残りますが、これでポーション作りを皆に教えることができます」
俺の言葉に答えながら、サノスがティーポットを『湯出しの魔法円』に乗せた。
御茶(やぶきた)のお代わりを淹れるのだろう。
「じゃあ、俺からの話をして良いか?」
「はい、何でしょう」
「ヘルヤさんから『湯出しの魔法円』の予約が入った」
「えっ?! また売れたんですか!」
サノスが手を止め、満面の笑みを見せてきた。
「まてまて。売れたんじゃなくて予約だ。現物は今は無いだろ?(笑」
「そうでした(テヘ」
「また、サノスが描くんだよな?」
「描きます! 急いで描きます!」
こいつ、制作者利益の金貨1枚に目が眩んでるな(笑
「ヘルヤさんからの依頼ですよね。待たせられないですね。今日から⋯ あっ!」
そこまで言って、サノスの言葉と手が止まった。
今日の昼までは『魔法円』に取り組めるが、昼からは冒険者ギルドへ出向くことを思い出したのだろう。
「ククク まあ、サノスの許される時間で頑張ってくれ(笑」
俺は空になった自分のマグカップをサノスに寄せて、暗に御茶(やぶきた)のお代わりを促す。
俺の仕草に気がついたサノスが、少し慌てて胸元へ片手を置き、もう一方の手を『湯出しの魔法円』の魔素注入口へ置き魔素を流した。
そんなサノスを見ながら、俺は次の話をする。
「来月から、定休日を作ろうと思う」
「定休日?」
「店を休む日を決めるんだよ。開店してから今日まで、店を休みにしたことは無いだろ?」
「えぇ、無いですね。毎日、店を開けてましたから」
サノスが返事をしながら、魔素を流すのを止めて湯気の昇るティーポットを覗き込んだ。
「5の付く日と10の付く日を定休日にするんだ」
「5と10の付く日⋯ 5日、10日、15日、20日⋯ 25日、30日」
サノスが指を折って数える。
「そうだ、サノスの言うとおりに5と10の付く日を店の休みにする」
「師匠の店ですから、師匠が休みたい日が定休日で、何も問題ないと思いますけど?」
サノスがそう答え、俺のマグカップとサノスのマグカップを並べた。
お代わりの御茶(やぶきた)を濃さが同じになるように、サノスがティーポットから淹れて行く。
淹れ終わった御茶(やぶきた)を互いに手にしたところで、俺は言葉を続けた。
「店が休みだから、サノスの店番も無くなって日当は出ない」
「!」
サノスがマグカップを手にしたままで固まった。
「それと、今日の昼から月曜日まで店を休む」
「!!」
俺はサノスの淹れた御茶(やぶきた)を啜りながら、当面の休みを告げた。
サノスはマグカップを手にして固まったままだ。
「サノスには急な話でスマンが、そろそろ休みが欲しいんだよ。別に、サノスがギルドへ出向いて店番を出来ないからじゃないからな。それだけは勘違いしないで欲しい」
「⋯⋯ ゴクリ」
ようやく、サノスが御茶(やぶきた)を一口、飲み込んだ。
「店を開いてから今日まで、一切、休みなしで働いてきた。スマンがここらで休みを取らせてくれ」
「わかりました。日当が減るのを心配させてすいません⋯」
そこまでサノスが述べて、マグカップから手を離し真剣な眼差しで俺を見てきた。
「師匠が店を休みにすることは理解しました。けど、お願いがあります」
「お願い?」
「店が休みでも、店に来て『魔法円』を描いても良いですか?」
思わぬ言葉をサノスが告げてきた。
これは、ちょっと困ったぞ。
定休日を作ること、暫く店を休むこと、そして日当が減る事にサノスが理解を示してくれた。
だが、店が休みで日当が無いのに、サノスが店へ来て『魔法円』を描くとなると、タダ働きになってしまう。
こうした時は、どうすれば良いんだ?
少し思案していると、サノスが俺を見つめて言葉を続けた。
「師匠! 少しでも魔導師の修行を止めたくないんです」
「そ、そうか⋯」
これは、ワイアットやオリビアさんと話をしをする必要がありそうだ。
「サノス、その件についてはワイアットとオリビアさん、二人と話をして決める」
「えっ? 父さんと母さんですか?」
「そうだ。二人との話が終わるまで、店が休みの時に、サノスが店へ来て『魔法円』を描くのは待ってくれないか?」
「⋯⋯」
「ちょっと、難しい話なんだ。納得してくれないか?」
「わかりました。今日は昼までは店を開けるんですよね?」
「あぁ、昼までは開ける。明日から月曜までは店を開けない。今度、店を開けるのは火曜日だな。それまでにワイアットやオリビアさんとは話をするから」
「はい。よろしくお願いします」
サノスが軽く頭を下げてきた。
そんなサノスを見ながら、俺はワイアットやオリビアさんに、どう話すかを考えて行く。
「そうだ、師匠。食堂から借りた鍋は、きちんと塩で洗って返しましたよ」
ワイアットとオリビアさんへの話を考えていると、急にサノスが鍋の話をしてくる。
「おう。塩洗いの件は、教会長から話を聞いたのか?」
「えぇ、ロザンナと一緒に話を聞いて、二人で頑張って鍋を洗いました」
「そう言えば、今日もロザンナが手伝うのか?」
俺はそう言いながら、ロザンナの祖父母と会う件も思い出した。
これは、ロザンナにきちんと手配してもらう必要があるな。
「えぇ、ロザンナは昼まで薬草採取で、昼過ぎからギルドで一緒に煮込む予定です」
あぁ、薬草採取も解禁されたんだな。
「そうか、薬草採取は解禁されたんだ?」
「師匠、それなんですけど、笑っちゃいます。ヴァスコとアベルが護衛なんですって。二人が初めての指名依頼だって喜んでました(笑」
「ヴァスコとアベルが指名依頼で護衛?(笑」
「『サノス、俺とアベルが護衛に任命されたぞ! しかも指名依頼だ!』」
なんだそれ?
もしかして、ヴァスコの真似か?(笑
「もう、二人が嬉しそうに言ってくるんです(笑」
「そうかそうか。ヴァスコもアベルも指名依頼で浮かれてる感じだな。あの二人で大丈夫なのか?(笑」
「それは大丈夫です。父さんが一緒ですから(笑」
「ハハハ ワイアットも一緒か?(笑」
うんうん。
サノスの話を聞く限り、冒険者もギルドも、そして見習い冒険者も順調な感じだ。
「そう言えば、討伐で負傷者が出たりしていないか?」
「負傷者が3人出ましたけど、教会長とシスターが治療してました。たぶん、大丈夫だと思いますよ」
えっ? シスターが治療?
あのシスターは治療魔法や回復魔法が使えるのか?
いや、教会関係者だから、一応、使えるんだ。
「暫くは、討伐依頼は続くんだよな?」
「はい。天気が悪くならない限り続けるって、キャンディスさんが宣言してました⋯ そうだ!」
急にサノスが何かを思い出したようだ。
「師匠! 魔石はどうします? キャンディスさんから師匠に聞いてくれって言われたんです」
「ん? 魔石の仕入れか?」
討伐された魔物から取れた『魔石』だな。
ギルマスから聞いた街の拡大が予定されている件も考えれば、可能な限り多目に手に入れておきたいな。
「買うぞ。売りに出される分、買える限り全部を仕入れよう」
「えっ? 全部ですか?」
「あぁ、手に入る限り仕入れよう」
「お金⋯ 師匠、それ⋯ キャンディスさんに、直接、伝えてくれませんか?」
「ん? あぁ、そうだな。俺から伝えた方が良いな」
多目の『魔石』の仕入れとなると、それなりの金額になる話だ。
そうしたことをサノスを介して伝えるよりは、俺が直接伝えた方が良いな。
「そう言えば、今日も教会長はギルドへ来るんだよな?」
「えぇ、昼前は初等教室があるんで昼過ぎ、3時頃に来るって言ってました。私もそれまでに煮出しを終わらせないと」
「わかった。それなら昼から一緒にギルドへ行こう。俺も少し教会長に話がしたいんだ」
これで教会長と『勇者』について話す時間を確定出来そうだ。
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