7-11 3人で大衆食堂


「あれ? 師匠? 未だギルドにいたんですか?」

「ギルマスと打ち合わせでな」


「そうだ! 師匠、ロザンナに教えて良いですか?」

「教える? 何を教えるんだ?」


「私がロザンナにポーション作りを教えるんです」


 良いのか?

 回復術師の娘であるロザンナに、魔導師見習いのサノスがポーション作りを教えて良いのか?


「ロザンナはどうなんだ?」

「教えて欲しいです」


 ロザンナ、あっさり答えるけど、本当に良いのか?

 まあ、教科書通りにサノスが教えるなら大丈夫だろうとは思うが⋯


「わかった。サノス、まずは教科書通りにやること。それ以外をロザンナに教えるのはダメだぞ」

「はい「ありがとうございます」」


 まあ、ロザンナが受け入れるなら良しとしよう。


「じゃあ、俺は昼飯を食べに行くけど、二人はこの後もギルドで作業するのか?」

「ええ、キャンディスさんからも許可を貰いました」


「サノスさん、これで終わりです」


 ロザンナが砂時計を指差して割り込んできた。


「じゃあ、これできっちり時間通りに煮出したから、後は冷ますだけね」


 サノスが答えると、ロザンナがメモに記録して行く。

 そうした様子から、ロザンナがマメな性格だと伺える。


「じゃあ、ロザンナ。後はお昼ごはんを食べてからにしよう」

「今度は漬け込みですね」


「さっき、キャンディスさんが薬草を準備するって言ってたから、それを洗浄して漬け込みね。けど、その前にごはん食べようよ。もう、お腹ペコペコなんだ」

「はい、私もお腹が空きました。ご飯を食べたいです」


「そうだ、師匠はお昼ご飯は未だですよね?」


 ん? 

 サノス、なんだその目は?


 おい。

 ロザンナもサノスと並んで俺を見るのか?


「わかった。食堂で奢ってやる」

「「やったー」」



 サノスとロザンナに昼食をねだられ、冒険者ギルド向かいの大衆食堂へと3人でやって来た。


「はい。今日のランチね」


 俺とサノスとロザンナの3人が座った長机に、給仕頭の婆さんが皿に盛り付けられたキャベツとベーコンのバジルパスタを出してきた。


 俺が婆さんに3人分の木札を渡すと二人が元気な声を出す。


「師匠、いただきます!」

「イチノスさん、いただきます!」


 その言葉と共に二人が勢い良く食べ始めた。

 よっぽどお腹が空いていたのだろう。


 俺も二人をならってパスタを食べれば、鼻にまで抜けるバジルの香りが口の中に広がる。

 中々、良い味だ。


「婆さん。もしかしてこのバジルは⋯」

「そうだよ、昨日、採れたばかりのバジルだよ。美味いだろ?」


「「はい、美味しいです!」」


 サノスとロザンナ、声がハモってるぞ。

 まあ、二人も満足そうだし、実際に美味いから良いのだろう。


 ふと周囲を見れば、二ヶ所の長机にそれぞれ数名の冒険者が座っている。

 その冒険者が座る長机に、やはり数名の見習い冒険者らしき少年少女が相席していた。


 俺はこんな光景を始めて見た。


 冒険者同士が同じ長机で酒を酌み交わしている姿はよく見かける。

 そこに見習い冒険者が混ざっているのを、俺は今まで見掛けたことがない。


 もっとも俺が利用する時間は夕刻過ぎであり、その時間の冒険者連中は既に酒を飲み始めている。

 そんな冒険者連中は酒を飲んでいる時には、未成年の見習い冒険者を同席させない。

 これは彼等の大人として配慮なのだろう。


 さすがに昼時のこの時間帯、しかも飲酒を控える討伐期間では、冒険者の連中も飲んでおらず、見習い冒険者を相席させているのだろう。


「サノスさん、このバジルって私達が裏庭で採ったのですよね?」

「多分そうだろうね。これだけ美味しいなら採った甲斐があるよね」

「確かに美味いな」


 サノスとロザンナの会話に混ざると、ロザンナが聞いてきた。


「イチノスさん、裏庭はどうするんですか?」

「どうするって?」


「今日の朝からの裏庭の整備を中止して、その後はどうするんですか?」

「あぁ、裏庭の整備はサノスの担当なんだ」

「ふぁい? あたすですか?」


 サノス、口にパスタを入れたままで喋るな。


「サノスさん、この後、裏庭はどうするんですか?」

「今回は雑に繁らせたけど、次は綺麗に整備してハーブ畑にしようと思うんだ」


 ロザンナの問い掛けにサノスが以前に話していた計画を伝えて行く。


「ハーブですか? 薬草は植えないんですか?」

「えっ? 薬草って育てられるの?」


「えっ? サノスさんは育ててないんですか? そうか⋯ それで裏庭はオオバとバジルで埋まってたんですね(笑」


 ロザンナが面白そうなことを言い出した。

 薬草の育て方をロザンナは知っているのか。

 さすがは回復術師の娘だ。


「ロザンナ、ちょっと待って。薬草は畑じゃ育たないって聞いてるけど、畑で育てれるの?」

「育てれますよ。私もお婆様から庭の一部を借りて育ててます」


 ほー ロザンナは中々、面白いな。

 それにロザンナを預かっている祖母との関係も良さそうだ。


「ロザンナ、それやってみたい! 師匠、裏庭で育てていいですか?!」

「裏庭の管理はサノスに任せてるんだ、好きにしていいぞ」


「ロザンナ、聞いたよね? 師匠に許可を貰ったから、薬草の育て方を教えて!」

「私のやってる方法で良ければ⋯」


「うん、それで大丈夫だよ。私も前から薬草を育ててみたかったの。まずはロザンナのやり方で挑戦したい」


 サノスの夢を壊すようで悪いが、俺としては気になることもある。

 ここでロザンナに聞いておくべきだろうか?


「ロザンナ、薬草の育て方は誰から教わったんだ?」

「祖母と亡くなった母から教わりました」


 う~ん。やはり聞いておくべきだな。


「サノス、ちょっと話の腰を折るが黙って聞いてくれるか?」

「⋯⋯(モグモグ)」


 そうだ。

 黙って話を聞いて食べてて良いぞ。


「ロザンナ、薬草を育てる方法は回復術師や教会の秘技と聞いている。それを安易に教えて良いのか? せめてロザンナのお婆さんに確認した方が良くないか?」

「そうですね。まずはお婆様に確認してみます」

「⋯⋯(モグモグ)」


「うん、そうしてくれるか? 弟子のサノスが教わるんだ、場合によっては俺も挨拶に行こう」

「えっ、イチノスさんが会うんですか?」

「⋯⋯!!」


「ああ、そうだ。どうせならロザンナの祖父母に会わせてくれないか? ロザンナを雇うことになるなら、事前に保護者に会っておく必要があるからな」

「えっ! イチノスさん! 雇ってくれるんですか?!」

「えっ? 師匠! ロザンナを雇うんですか?!」


「待て待て、未だ雇うと決めたわけじゃない。二人とも勘違いするな。まずはロザンナの保護者に会って、ロザンナの考えと合っているかを確認するんだ」

「「⋯⋯」」


「二人とも未成年だろ? 未成年を雇うには保護者の同意が必要なのはわかるよな?」

「「⋯⋯」」


「見習い冒険者は個人でやっていることだから誰かに雇われているわけじゃない。だから自由に出来る。けれども雇うとなると別だ。これは社会的なルールなんだよ」

「⋯⋯(モグモグ)」

「わかりました。祖父母に相談してみます」


「よし。まずはロザンナは祖父母に相談してくれ。サノス、裏庭の薬草はその後だ。いいな」

「はい、わかりました」

「ひゃい、んかりますた」


 ロザンナは納得した顔をしてくれた。

 サノス、口にパスタを入れたままで喋るな。

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