7-8 一年かけて街を拡げるそうです
キャンディスが応接室から出て行ってくれたことで、俺としては望まない煩わしさから、少しだけ解放された気分だ。
「ククク イチノス殿。なんかすまないね」
「いえ、気にしません(嘘」
「ほぉ~ イチノス殿はああした状況を気にしないとは、さすがとしか言いようがないね(笑」
「私には直接は関係無いと考えるだけです(ニッコリ」
ギルド内部の事、キャンディスと若い女性職員の事で居心地が悪かったとは、ギルマスには話し辛い。
ここは無関係だと装うことが最良だろう。
「正直に言って、私としては詰まらんことだと思うんだ。だが当人にとっては大きな問題なんだろう」
「すいません。ギルマスがお疲れ、もしくは煩わしく思う気持ちは理解できますが、それより先は部外者である私は言葉を控えるべきでしょう(笑」
「ククク じゃあ、ギルド部外者のイチノス殿には、ギルド外の話をしよう」
二つ目の煩わしさが顔を見せてきた。
ギルマスが乾いた喉を潤すためか、ティーカップに手を伸ばした。
その様子からギルマスにとっても、一つの煩わしさから解放された安堵の雰囲気を感じられたので、俺から先手で切り出す。
「私からの用件ですが、まずは御礼を述べさせてください。今回はサノスに指名依頼をいただき、ありがとうございます。」
「いやいや、さっきも話したとおり、ポーション調達に関してはキャンディスの裁量だよ」
「それでも未成年への指名依頼は例外だったのでは? 例外を押し通してギルマスに迷惑が掛かったのでは?」
「イチノス殿、今回のサノスさんへの指名依頼はギルドの都合だよね。だからこそ、サノスさんにもイチノス殿にも、一切の迷惑を掛けないように手配させてもらった。もしも何かあれば全ての責任は私が被らして貰うよ。それで納得して欲しい」
「サノスも将来のある身です。そこまでギルマスが配慮してくれるのは、とてもありがたいことですね」
「いやいや、あくまでもギルドの都合でサノスさんへの指名依頼だよ」
先手で少しでも優位に立とうと、サノスの指名依頼を引き合いにギルマスを称える言葉を並べてみたが、うまく躱されている感じだ。
ならば、俺自身を引き合いに攻めてみるか⋯
「加えて、私の出番も減らしていただけそうですね」
「あぁ、その件か⋯ 実は私も教会長がみえた際に頼もうと思っていたんだ」
「んん?」
暗にポーションの仕上げで回復魔法を施す件を述べたのだが、ギルマスが既に考えていたと口にする。
「実はイチノス殿には私を手伝って欲しくて、教会長には今後を頼もうと思ってたんだよ」
まてまて。
俺に何を手伝えと言うんだ?
「先ほど待たせてしまったのは、ウィリアム様からの先触れに時間が取られたからなんだ」
「ウィリアム様?」
ギルマスの言う『ウィリアム様』とは⋯
・俺の父(ランドル)の弟
・このリアルデイルの街を含む領主
・貴族で伯爵
・母(フェリス)の再婚相手
である、ウィリアム叔父さんの事だよな?
ウィリアム叔父さんが近日中にリアルデイルの街に来ることは、母(フェリス)からの手紙で知らされている。
昨日、『魔法円』の調達と言う手紙に誘われてギルドに来てみれば、街道整備の勅令が出た話しをギルマスから聞かされた。
ウィリアム叔父さんとギルマスが数日後に会合を持つ話しも聞いた。
その会合にギルマスが俺を巻き込もうとしているのも理解している。
俺としては、領主であるウィリアム叔父さんから命じられれば応じるのを落とし所にしたはずだが⋯
ギルマスの言葉から、ヒタヒタと多忙が仕事を背負って直ぐそこまで近寄っているのを感じてしまう。
「あれ? イチノス殿の所には先触れが行ってないのかい?」
「えぇ⋯ もしかしてギルドの後に店に向かっているかも知れませんね」
「それじゃあ、私が先触れの先触れになるね(笑」
「まあ、そうなりますね(笑」
「実はやられたんだよ。騎士学校の卒業生が挨拶に来たと言うから、先輩として会うべきだろうと考えてしまったのが罠だったんだ⋯」
「罠ですか?(笑」
「その卒業生と言うのが、実は先触れの先触れで、居留守も使えず応じることになってしまったんだ⋯」
「ククク 『居留守』ですか? ギルマスでは無理でしょう(笑」
何とも笑える話だ。
ウィリアム叔父さんの先触れを『居留守』で躱そうとして捕まってしまったんだな。
「ウィリアム様の先触れがコンラッド殿だったんだ。イチノス殿も知ってるとおり、コンラッド殿はイル師匠と並んで騎士学校の大先輩だ。居留守も使えず応じたら宿題だらけだよ⋯」
「コンラッドが来てたんですか?!」
コンラッドの名を聞き、思わず声に出してしまった。
コンラッドがウィリアム叔父さんの先触れと言うことは、先触れの先触れで来たのは青年騎士のアイザックか?
「⋯⋯(ニヤリ」
ギルマス、そこで笑うんですか?
そのニヤついた目は、明らかに俺の逃げ道を塞ごうとしてますね。
「昨日、街道整備の勅令の話しはしたよね?」
「えぇ、それは聞きました」
「その街道整備で、王都から開拓団が来ることになったんだ」
そこまで話してギルマスは持参してきた1枚の書類を見せてきた。
その書類にはリアルデイルの街の概略が描かれている。
┏━━━━┓ ┏━━━━┓
┃工業街 ┃ ┃貴族街 ┃
┣━━━━┻北━━━━┻━━━━┫
┃ ↑ │ ┃
┃ 西町北 │旧東町北│新東町北┃
┃ │ │ ┃
西←──── ────────→東
┃ │ │ ┃
┃ 西町南 │旧東町南│新東町南┃
┃ ↓ │ ┃
┗━━━━━南┳━━━┳━━━━┛
┃南町 ┃
┗━━━┛
俺が住むのは西町北。
この冒険者ギルドも同じ西町北にある。
『西町』は西町北と西町南を合わせた全体の呼び名だ。
『東町』は西町北や西町南と同じ様に、南北を付けて呼ばれるのだが、街の中央寄りが『旧東町』で街の外側寄りが『新東町』となっている。
これは俺や母(フェリス)がリアルデイルに移り住む以前に、東町の外壁をより東側に移設して、東町全体を拡大したからだ。
そしてこの東町拡大で、旧来の東町を『旧東町』と呼び、新たに拡げられた側を『新東町』と名付けたそうだ。
「開拓団ですか? 街道整備ってそんなに規模が大きいんですか?」
「私も甘く考えていたんだ。せいぜい100世帯で多くても300人ぐらいだと思ったんだよ」
「いやいや、その100世帯とか300人とかでも十分に大きな数字です」
このリアルデイルの街は5000世帯で1万人が住む街と聞いている。
そんな街に100世帯300人が増えるとなればかなりの規模だと思うぞ。
「最終的に1年かけて西町を東町と同じ様に拡げる事になるそうだ。まったく困ったもんだよ」
西町を拡げる?
東町と同じ様に?
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