6-23 未成年は指名を受けられません
明日の昼にポーションの原液が必要と言うことは、今回の40本では不足と言うことか⋯
もしかして魔物討伐は、明日の一日で済まない、明後日も討伐依頼が続くのか?
「受けてくれるかな?」
「受けます⋯ けど⋯」
「何か心配かい?」
「依頼料は幾らですか?」
サノス、そこでお金の話しか(笑
「サノス!」
「父さん黙って! これは私への指名依頼よ、私の話なの。父さんへの依頼じゃないの!」
「サノスさん、あなた未成年よね?」
「あっ!」
親子の小さな悶着にキャンディスが割り込んできた。
「冒険者ギルドの会員は未成年でもなれるけど、未成年の見習い冒険者では指名依頼は受けられないのよ」
「⋯⋯」
「じゃあ、後はキャンディスさんと話して。サノスさんは未成年だからワイアット殿が同席だね(笑」
「はい。わかりましたギルマス」
「おう、サノス、父さんも同席するぞ」
「⋯⋯」
ギルマスが再びキャンディスに丸投げしてきたが、ちょっとサノスがかわいそうになってきた。
さっきサノスにも銀貨を1枚渡した方が良かったか?
いや、いまのサノスの気持ちとは無関係か(笑
「じゃあ、イチノス殿は応接室で」
「わかりました⋯ そうだサノス」
「師匠、何ですか?」
「ギルドとの交渉は、一人の魔導師として挑め。これも魔導師としての修行だ」
「???」
サノス、なぜ首を傾げる。
そこは『はい』と元気に返事してやる気を見せてくれよ~
◆
キャンディス、ワイアット、サノスを会議室に残し、俺とギルマスは先ほどの応接室へ移動した。
応接に座るとギルマスから問い掛けられる。
「イチノス殿、今回だけの話しかい?」
「初回無料の件ですか?(笑」
「違うよ。イル師匠の依頼の件だよ」
「さあ、どうなんでしょう。街兵士に私から直接卸すより、ギルドを介した方が良いと思いますが?」
「ククク それはイチノス殿が考えることかい?」
「いえ、今回の一例を冒険者ギルドが得ただけです。考えるのと実行するのはストークス家で為さることと思いますが?(笑」
「言うねぇ~ さすがはケユール家のお方だ(笑」
ちっ 『家』を出すと『家』で返すか。
やはりギルマスの方が慣れてるな(笑
「それより、聞いて良いですか? 討伐依頼は明日だけじゃないんですか?」
「その件だね。ウィリアム様が滞在される間は続ける予定だ。1週間は覚悟して欲しい」
「1週間ですか?」
「おや、1週間では不足かい? なら2週間に延ばそう(笑」
「冗談がきついです」
「ハハハ」
軽く笑った後にギルマスが言葉を続ける。
「まず、明日の討伐依頼の成果で、明後日には護衛付で薬草採取を許可する予定だ。そうして薬草が手に入ったならばポーションの原液を作って行く」
「なるほど⋯」
明日の討伐依頼で用いられるポーションは、今日、持ち込んだサノスの作ったポーションの原液で賄う。
明後日の分はギルドの在庫で賄う。
それ以降は採取した薬草で賄うか⋯
それを1週間は続けるのか⋯
「そのポーションの原液に、イチノス殿と西町教会長が交代で最終工程の回復魔法を施してもらいたんだ」
「もしかして、既に西町の教会長から了解を得てるんですか?」
「キャンディスから自家製ポーションの話を聞いて、直ぐに西町の教会長へ依頼したよ。明日の昼過ぎに教会長が来る予定だ」
「ククク 忘れてました。ギルマスは元冒険者でしたね。昔は自家製ポーションを作ったんですか?」
「ああ、作ったよ。最後の回復魔法は回復術師頼りだけどね(笑」
「魔導師じゃなくて、回復術師ですか?(笑」
「「ハハハ」」
コンコン
「イチノスさん、ギルマス、お話し中すいません」
応接室のドアがノックされ、キャンディスの声がした。
「おう! 入ってくれ」
ギルマスが応じると扉が開き、キャンディスが立ったままで俺に問い掛けてくる。
「イチノスさん、最終工程をお願いできますか?」
そう告げて来たキャンディスの後ろから、ワイアットが小樽を抱えて表れた。
「イチノス殿、この部屋で大丈夫かい?」
「大丈夫です。只、皆さんに見られると恥ずかしいですね(笑」
小樽を抱えたワイアットを見て、ギルマスが確認してくる。
部屋としては大丈夫だが、皆が同席すると集中力に欠けてしまう。
「おぉ、すまんすまん。私は執務に戻るよ」
「私も薬草の準備に戻ります」
「俺は⋯ サノスを見守るぞ」
そう告げてワイアットが応接机に小樽を置くと、ギルマスが誘うように皆を連れて応接室を出てくれた。
応接室の扉が閉じたところで、俺は小樽を応接机の中央に置き、胸元の『エルフの魔石』に手を添える。
これから小樽の中のポーションの原液に、回復魔法を施すことを強く意識して行く。
◆
ふぅ~
小樽の中のポーションの原液に回復魔法を施し終えて、取り敢えず一息つく。
これで今日の俺の仕事は終わったよな?
サノスはポーション原液の作成が残ってるな。
『水出しの魔法円』があるから、今夜は薬草を洗浄しての漬け込みか。
『湯沸かしの魔法円』があれば、明日の昼にサノスが来て煮出せば良いな。
『オークの魔石』もあるな。
サノスは思わぬ残業だな(笑
ワイアットもいるから、送りは大丈夫だな。
そこまで確認して俺は応接から立ち上がった。
応接室を出て向かい側の会議室の扉を軽くノックするが応答がない。
少しだけ扉を開けて中を覗くと、サノスが苦しんでいるのが見えた。
ワイアットが俺に気づいて近寄ってくると、ヒソヒソ声で話し掛けてきた。
「これから作るポーションの原液の依頼料で悩んでるんだ」
「悪いけど先に帰るよ。これをサノスに渡してくれ」
ポーションの入った店の紙袋から『オークの魔石』を取り出してワイアットに渡す。
「おう、渡しとく」
「依頼料の値付けも良いが、先に漬け込みを始めるように伝えてくれるか?」
「おっと、そうだな」
「じゃあ、お先に。明日の討伐、頑張れよ」
俺はワイアットに告げて、そっと会議室のドアを閉めた。
俺が階下に降りると、キャンディスが走り寄ってきた。
「イチノスさん、終わりました?」
「はい、応接室に置いてあります。ワイアットにでも運んで貰ってください」
「ありがとうございます」
「これ、ギルマスとキャンディスさんに1本づつ。お二人ともお疲れですから、必ず使ってくださいね」
そう告げて手にした袋を渡す。
紙袋の中には俺の店のポーションが2本入っているはずだ。
受け取ったキャンディスが紙袋の中を確認して、驚きの顔を見せてくる。
「ギルマスへよろしくお伝えください」
「は、はい。伝えます」
「じゃあ、お先に」
「お疲れ様です~」
そう告げて、未だに冒険者で賑わう受付カウンターを越えようとすると、美味しい紅茶を淹れてくれた若い女性職員が俺に向かって小さく手を振ってくれた。
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