6-22 全権委任をされて頑張ります
「イチノス、何が狙いだ?」
ワイアットが睨むように聞いてきた。
「狙い? 強いて言えば自家製ポーションの普及かな(笑」
「どういうことだ?」
「ワイアットはサノスが作ったポーションに回復魔法を施して使ってるだろ?」
「あぁ、使ってる。娘が魔導師を目指して俺のために作ったポーションだ。それを俺が仕上げて使ってるんだ。いわば親子の愛情、家族の絆だな」
「父さん、恥ずかしいこと言わないの!」
サノスが顔を赤らめ、バシバシとワイアットの肩を叩いている。
お前ら、仲が良い親子だな(笑
「ワイアット。本来、冒険者の家族は、それが当たり前なんだろ?」
「言われてみれば俺の先輩達もやっていた。だが、今はそれが出来ない連中が多いのも事実なんだ」
「本来、魔導師の出番なんて、そうしたポーション作りの最終工程を手助けする存在だと俺は思っているんだ」
「まあ、そうかもしれんな」
「もう一つ、この方法で考えて欲しいのは教会の存在だ」
「「教会?」」
ワイアットとサノスの言葉が重なる。
やっぱりお前らは仲が良い親子だ(笑
「教会関係者ならば、大なり小なりポーション作りの最終工程を手助け出来るはずなんだが⋯」
「なるほど⋯ だが良いのか? そんなことをしたら、イチノスの商売の邪魔にならんか?」
「それは、俺の商売だからワイアットが口を挟む話じゃないと思うぞ(笑」
「ハハハ そりゃそうだな(笑」
コンコン
「ギルマスから話があります。2階の会議室に案内します。荷物を持って来てください」
キャンディスが別室の扉を開けて告げてきた。
随分とキャンディスが戻ってくるのが早いなと思いつつも、皆で席を立つ。
席を立った途端にワイアットが、さも当然のようにサノスの作ったポーションの原液が入った小樽を手にした。
続けてサノスが『魔法円』2つと『ポーション作りの基礎』を紙袋に入れて手にした。
残るポーションと『オークの魔石』は、サノスと同じ様に店の紙袋に入れて俺が持つことにした。
皆の仕度が出来たところで、キャンディスの案内で別室を出て行く。
「はいはい 道を開けてぇ~」
「おーい、道を開けてくれ~」
キャンディスを先頭にワイアットが続き、集まっている冒険者達に道を開けるように声をかけながら進んで行く。
その後にサノスが続き最後尾に俺だ。
「ワイアット、その樽はポーションか?」
「キャンディス~ 愛してる~」
「イチノス、ポーションなんだろ」
「サノス~ 今日もかわいいぞ~」
「ポーションなら売ってくれ~」
「ワイアット、一人占めすんなよ~(笑」
何か冒険者達の野次に混ざって変な声が聞こえてくる。
お前ら、この状況を楽しみ始めてるだろ。
「はいはい、今、野次った人は受付に来てね~ 停止処分にするよぉ~ 覚悟してねぇ~」
停止処分?!
キャンディス怖いこと言わないの。
冒険者達は時により、冒険者ギルドから冒険者としての活動を停止されることがある。
依頼に失敗して依頼者に多大な損害を与えたとか、素行が悪いとか、時に酒癖が悪いとか⋯
とにかく、冒険者ギルドから冒険者としての活動に問題ありと判断されると、冒険者としての活動を停止されるのだ。
停止処分を受けた冒険者に、冒険者ギルドは依頼を斡旋しない。
いわば冒険者は金銭を稼ぐ手段を断たれるのだ。
「忘れてないよねぇ~ 道で寝てた人が停止になったの 忘れてないよね~」
「「「「「ハハハ」」」」」
道で寝てた人って?!
おいおい、大衆食堂でヘルヤさんと酒で競って、道端で落ちてた奴らの話しか?
あの件で停止処分になったのか?
「はいはい 白線の後ろまで下がってぇ~」
若い女性職員が留目(とどめ)の声を出したことで、俺達が2階へと進む道がようやく開いた。
その開いた道を通って、俺達は無事に受付カウンターを越えて2階への階段を上がって行く。
キャンディスに案内されて会議室に入るとギルマスが座って待っていた。
サノスから緊張が伝わってくる。
そんなサノスをワイアットが落ち着かせようとしている。
ギルマス、キャンディス
┏━━━━━━━━━━━━━┓
┃(小樽) ┃俺
┗━━━━━━━━━━━━━┛
ワイアット、サノス
ワイアットが話題の中心となっている小樽を机の上に置き、こんな感じで会議室の長机に全員が着いたところで、キャンディスが口を開いた。
「今回のポーション調達について、ギルマスから全権を委任されたキャンディスです」
「うんうん」「「「⋯⋯」」」
キャンディスの口上にギルマスが同意を含んだ頷きをして、俺達は続く言葉を待つ。
「結論から言います。サノスさんのポーションの原液をギルドで買い取ります」
「ひゃい。ありがとうございます!」
サノス、返事が噛んでるぞ(笑
「そして、イチノスさんにはギルドから依頼を出します」
「わかりました。では、早速⋯」
そう告げて席を立とうとした俺をキャンディスが制してきた。
「イチノスさん、座ってください。条件があります」
キャンディスの言葉に従って俺は椅子に座り直した。
「今回の依頼でイチノスさんに支払われる依頼料金は固定です。出来上がったポーションの等級に合わせた報酬ではありません。決まった額しかお支払しません」
あぁ、その件ね。
そう思いながら、俺はキャンディスに告げる。
「いえ、今回は依頼料は受け取りませんよ」
「???」
「安心してください。初回無料なだけです。但し、支払う予定の額をギルドから教会に寄付してください」
「ギルマス⋯」
俺の言葉に返事を返せないキャンディスがギルマスを頼った。
「ククク」
ギルマスから笑い声が漏れてきた。
「ククク ワイアット殿、イチノス殿に話したのか?」
「いや、話していない」
「キャンディスさんから話したのか?」
「いえ、一言も話してないです」
「良いだろう。さすがはイチノス殿だ。感謝するよ」
「ギルマス、無料なのは今回だけですよ。次回からは、きちんと料金を貰います」
「わかった」
俺の言葉に頷いたギルマスがワイアットに向き直る。
「ワイアット殿、サノスさんと直接話して良いかな?」
「いいぞ。サノス、お前にギルマスから話だ。きちんと答えろよ」
「はい、大丈夫です」
「ギルドからサノスさんへ依頼を出したい」
「どんな依頼ですか?」
「薬草はギルドが提供するので、明日の昼までにポーションの原液を作ってギルドに納めて欲しい」
「はい?」「うんうん」「⋯⋯」
今度はサノスが首を傾げ、キャンディスが頷き、ワイアットは黙ったままだ。
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