6-21 ギルドとの交渉開始
冒険者ギルドの1階へ一人で降りて行くと、受付カウンターの向こう側に、むさ苦しい冒険者達が多数見えた。
受付カウンター近辺に集まっている冒険者達は、キャンディスに連れてこられた時より増えている気がする。
そんな冒険者の群れを掻き分けて行けるのだろうかと考えている時に、紅茶を淹れてくれた若い女性職員が声を掛けてくれた。
「イチノスさん、掲示板脇の別室にサノスさん達が待ってます」
「ありがとう。そうそう、今日も美味しい紅茶だったよ」
そう告げると若い女性職員が笑顔を見せてくれた。
「は~い 白線の後ろに下がってねぇ~ イチノスさんの邪魔したらポーションが手に入らないよぉ~」
若い女性職員の声と共に、掲示板脇の別室に向かって冒険者達が道を作ってくれる。
若い女性職員から案内を引き継いだ、これまた若いギルドの男性職員に案内され、むさ苦しい冒険者達が作った道を進み、俺は掲示板脇の別室へと向かった。
案内された別室に入る際に掲示板を見れば、西方での『薬草採取禁止』の隣に、西方での『魔物討伐』の依頼が貼り出されていた。
そしてその直ぐ下に、西方と同じ様に、南方での『薬草採取禁止』と『魔物討伐』の依頼が並んで貼り出されていた。
「イチノスさん、こちらの部屋です」
「ありがとう」
そう告げて別室の扉を開けて中に入ると、サノス、エド、ロザンナ、マルコの4人が机を囲むように座っていた。
「師匠! 持ってきました」
「イチノスさん、お疲れ様です!」
「「イチノスさん、重かったっす!」」
「おう、ありがとうな」
「師匠、ポーションは2本だけ残ってました!」
「『魔法円』は私が運びました!」
「樽は俺とマルコ「です!」」
はいはい。うるさいぞお前ら。
この部屋は狭いんだから、もう少し静かに話して欲しい。
「じゃあ、一人づつ並べ」
俺がそう声をかけると、エド、ロザンナ、マルコ、サノスの順できれいに並んだ。
俺は財布を取り出し、1枚の銀貨をエドに渡す。
「エド、ありがとうな」
「はい、いつでも依頼を出してください」
続けてロザンナにも銀貨1枚を渡す。
「ロザンナ、ありがとうな」
「はい、バジルは食堂に運んであります」
更に続けてマルコにも銀貨1枚を渡す。
「マルコ、重かっただろう」
「大丈夫です、いつでも依頼を出してください」
そうして見習い冒険者の3人に1枚づつの銀貨を渡すと、サノスも同じ様に貰おうと両手を出してきた。
「サノスは⋯ まだ仕事があるから後だな(笑」
そう告げた途端に、サノスが目を細めた顔で俺を見てきた。
俺はギルマスを真似てサノスの顔を無視して3人に声をかける。
「エド、ロザンナ、マルコ。今日の依頼は終わりだ。明日も頼むぞ」
「「「はい!」」」
元気に3人が返事をすると、我先にと部屋の扉から出て行った。
未だに細めた目で俺を見ているサノスを無視して、机の上に置かれた物を確認する。
俺の作ったポーション2本
『水出しの魔法円』
『湯沸かしの魔法円』
サノスの作ったポーションの原液
『オークの魔石』
『ポーション作りの基礎』
俺がメモに記した物が揃っているのを確認したので、未だに目を細めているサノスに声をかける。
「サノスは掲示板は見たか?」
「見ました。討伐依頼でしょ」
ぶっきらぼうにサノスが答える。
「ギルドでポーションが不足している。サノスが作った原液が使えるなら、これをギルドに売ろうと思う」
「えっ?」
途端にサノスの顔が変わった。
目を細めた顔から目を見開いた驚きの顔に変わった。
「サノスがこれを作ったのが月の始めなら、まだ使えるはずだ。保管状態は良いのか?」
「あの本のとおりに冷暗所で保管してました」
「教科書の分量で作ったんだよな?」
「はい、慎重に全てを教科書とおりに計って作りました」
「それなら最低でも50本分のポーションになるはずだが、どのくらい使ったんだ?」
「父さんに4本で、母さんが2本、私が3本だから⋯」
「それなら40本にはなるな」
「41本です」
「ポーションの瓶は⋯ 無いよな?」
「無いです」
俺はサノスに届けるメモに、ポーションの瓶を書き忘れたのを思い出した。
「じゃあ、キャンディスさんかギルドの誰かに、空のポーション瓶を借りてきてくれ。それとギルドで荷配送に使う荷札もだ」
「はい、ポーションの瓶と荷札ですね。直ぐに借りてきます」
そう言ってサノスが部屋から飛び出して行った。
◆
現在、冒険者ギルドの掲示板脇の別室は、大変に込み合っております。
俺、サノス、ワイアット、キャンディスの4人がこの部屋に入ると、さすがに狭い感じがします。
サノスがポーションの瓶と荷札を借りに行ったところ、ポーションが出来たと思い込んだキャンディスが乱入してきたのです。
ワイアットまでキャンディスと一緒に乱入して来た理由は不明ですが⋯
そんなキャンディスに、サノスが作ったポーションの原液について話をしました。
「じゃあ、サノスさんが作ったこのポーションの原液を使えば、等級は不明だけどポーションが作れるのね?」
「ああ、作れる。但し、俺の知る限り、最終工程は俺かワイアットしかできない」
「ははぁ~ん。このポーションの原液って自家製ポーションなのね?」
「ククク キャンディスさんは知ってるんだな?(笑」
「ポーションの作り方ぐらい知ってるわよ。じゃあ、直ぐにイチノスさんの言う最終工程をやって」
そう言い放つキャンディスに俺は今後を考えた話をする。
「いや、そこで商談をしたいんだ。最終工程をするのはギルドから俺への依頼にして欲しいんだ」
「??? どういうこと?」
「まずはギルドでこの樽の状態でサノスから買い上げて欲しい。その後で俺がギルドの依頼で最終工程を施す」
「⋯⋯」
そこまで言って、キャンディスが暫し考え込んだ。
「じゃあ、出来上がったポーションの等級はギルドに任せるのね? それを幾らでみんなに売るのかも任せるの?」
「さすがはキャンディスさんだ。勘が冴えてる」
「何でそんな難しい手順を言い出すの? イチノスさんがポーションにしてギルドに売れば済むんじゃないの?」
「そうしてギルドが買い取ったポーションは、俺から仕入れたポーションとして売り出すのか?」
俺の言葉を聞いて、何かを言いたげなキャンディスを手で制して、俺は話を続ける。
「すまないが、俺はそれは避けたい。弟子のサノスを信用しないわけじゃないが、他者の作ったポーションの原液に俺が最終工程を施しただけで、俺の名前を付けて売り出されても困るんだ」
「⋯⋯」
「これは俺の魔導師としての狭義(きょうぎ)に関わることだ。わかって欲しい」
「⋯⋯」
再びキャンディスが考え込んだ。
狭い別室に沈黙が続く、外では冒険者達の会話が時おり聞こえてくる。
「わかったわ。ギルマスに相談する。私一人じゃ決められない」
そう言い残したキャンディスが足早に部屋を出て行った。
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