6-19 女性に腕を掴まれ驚きの話を聞かされる
キャンディスに腕を掴まれたまま冒険者ギルドに戻った俺に、案の定、多数の冒険者の視線が集中した。
どの連中も見知った顔の冒険者達だ。
「よう! イチノス」
「探したぞ、イチノス!」
「イチノスが見つかったぞ!」
「イチノス! 探したぞ」
「どこに居たんだ! イチノス!」
「何でキャンディスと一緒なんだ?」
「イチノス! キャンディスから離れろ!」
「お手手つないで登場かぁ~」
「イチノス! 迷子になってたのかぁ~(笑」
お前ら、うるさい。
それに最後の方、変なヤジを混ぜるな。
「はいはい、皆、どいてどいて~」
キャンディスの声で人集りが割れると、2階へ向かう通路にギルマスとイルデパンが立っているのが見えた。
ここは冒険者ギルドだからギルマスがいるのはわかるが、どうして街兵士副長のイルデパンがいるんだ?
「イチノス殿、何度も足を運ばせてすまないね」
「おやイチノス殿、女性連れですか?」
ギルマスの言葉は理解できるが、イルデパンは冗談がきついぞ。
「ギルマス、お久しぶりです。イルデパンさん、この女性が手を離してくれないんですよ(笑」
可能な限り笑顔を作って答えてみた。
それに応えてギルマスもイルデパンもニヤリと口角をあげる。
「あっ、イチノスさん、すいません」
慌ててキャンディスが手を離してくれた。
俺はここまでキャンディスに腕を掴まれていた。
冒険者ギルドの向かい、大衆食堂からここまでの距離でも掴まれ、ギルドに入って多数の冒険者連中に見られてもキャンディスは離さなかった。
そんなキャンディスは、自分のやってることに、ようやく気が付いてくれたのだろう。
そんなキャンディスがギルマスに告げる。
「ギルマス、イチノスさんを連れてきました」
「じゃあ、上で話そうか。イル師匠も大丈夫ですよね?」
「ええ、私で良ければ(笑」
ギルマス、イルデパンに続いて2階へ向かう通路を進むと、ギルマスが若い女性職員に声をかけた。
「お茶を3人分頼んで良いかな?」
「はい! 私が淹れます!」
そう言った若い女性職員が席を立ち、俺の直ぐ後ろに着いてきた。
そんな彼女がボソッと呟いてきた。
「イチノスさん、今度は直ぐに淹れますから」
その言葉に俺は思わず笑いそうになってしまった。
ギルドの2階に上がり、先程までいた応接室にギルマスから案内され3人で座る。
最初に口を開いたのはギルマスだ。
「イチノス殿は、イル師匠と面識はあるんだよね?」
「ええ、イルデパンさんとは妙な繋がりです(笑」
「なら、話が早いな。呼び名はざっくばらんと行こう。ここから先、私のことは『ギルマス』と呼んでくれるか?」
「わかりました。私のことはイルデパンと呼び捨てでお願いします」
「私はお二人の呼びたい名で構いません」
俺がそう告げるとギルマスがイルデパンに問いかける。
「イル師匠はイチノス殿を何と呼んでるんだ?」
「私も『イチノス殿』ですが?」
「なら『イチノス殿』でいいね?」
「『ギルマス』それが最良と思います。イチノス殿、私のことはいつも通りでお願いします」
ギルマスとイルデパンの二人で俺の呼び名が決まったようだ。
そんな二人に俺は問いかける。
「イルデパンさん、それにギルマス。ギルマスからの呼び名が『イル師匠』ですが、やはり騎士学校時代の繋がりですか?」
「あぁ、すまない。つい『イル師匠』と呼んでしまうんだ」
「イチノス殿、その付近はお目こぼしください(笑」
「ハハハ」「ククク」「⋯⋯」
3人で話す時に二人の繋がりが深いと微妙に話しづらいな。
そう考えていると応接室の扉がノックされた。
コンコン
「お茶を用意しました」
応接のドアがノックされ、若い女性職員の声がした。
「おう! 入ってくれ」
「失礼します」
若い女性職員がワゴンにティーセットを乗せて入ってくる。
丁寧な所作で紅茶を入れると、俺とギルマス、イルデパンの前に置いてくれた。
「失礼します」
若い女性職員が挨拶をして退室したところで、誰からともなく3人揃って紅茶を口にする。
うん、やはり彼女の淹れてくれた紅茶は美味い。
「さて、3人で話すとなると魔道具屋の件とポーションの件で良いだろうか?」
ギルマスがそう告げたが、俺としては、若干、首を傾げてしまう。
ポーションは俺とギルマス。
魔道具屋の件は俺とイルデパン。
そんな感じのはずだが⋯
そう言えば、以前にギルマスが魔道具屋に近付くなと言っていたことを思い出す。
けれども既に魔道具屋の主はイルデパンに捉えられている。
ここで3人で話すことだろうかと考えていると、イルデパンが口を開いた。
「ギルマス、イチノス殿に詐欺の件は話してありますが、その先は捜査中ですので明確に伝えておりません」
「そうか⋯ イル師匠がイチノス殿に話したであろう範囲となると、私も微妙な話しかできないか」
「⋯⋯」
「それに捜査中ですので、ウィリアム様とフェリス様、それとイチノス殿の警護に限った話が良いとかと思いますが?」
「そうだな」
「警護?」
ウィリアム叔父さんと母(フェリス)に並べるように俺の名が出てきた。
しかも『警護』という物騒な言葉を耳にして、思わず二人の会話に口を挟んでしまった。
そんな俺にギルマスが言葉を続ける。
「イチノス殿、ウィリアム様とフェリス様のお二人を良く思わない者が魔道具屋の後ろにいるんだよ」
「⋯⋯」
「イチノス殿、驚かれるのも無理はありませんが、現段階では納得していただくしかありません」
言葉を失った俺にイルデパンが追い討ちをかけてきた。
「イチノス殿、イル師匠の言葉のとおりに魔道具屋の後ろについては、今は詳しい話は出来ない。だが、ウィリアム様とフェリス様の警護については、リアルデイルの治安を預かるストークス家として最重要なことなんだ」
「うんうん」
ギルマスの言葉にイルデパンが頷くが、俺は気になることがある。
確かにリアルデイルの治安を維持しているのは街兵士の方々だ。
それにギルマスの実家であるストークス家が大きく関わっているのか?
イルデパンを訪ねた際に出会った東町の街兵士副長のパトリシアさんは、ギルマスの妹さんでストークス家の出身だ。
西町の街兵士副長は目の前にいるイルデパンだ。
あれ? 両方とも副長?
けれどもイルデパンはストークス家との繋がりが⋯ まさか?!
「すいません、ギルマス。ちょっと待ってください」
「「⋯⋯」」
「東町の街兵士副長はギルマスの妹さんと聞きましたが、イルデパンさんは⋯ もしかして⋯」
「ハハハ 話しておりませんでした。これは失礼しました。私はストークス子爵の騎士出身なのです」
「ククク イチノス殿、それだけじゃないぞ。リアルデイルの街兵士長官、イル師匠と妹のパトリシアの上司は私の兄なんだよ」
絶句である。
俺はそんなことは知らないし考えた事もなかった。
リアルデイルの街の治安を守る街兵士は、全てがストークス家の息が掛かっていたとは⋯
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