6-18 再び女性に腕を掴まれました
「イチノスさん! 店のポーション全部だして!」
俺を見つけるなり走り寄ってきたキャンディスが捲し立ててきた。
「待て待て、店にあるのは⋯ 10個ぐらいだぞ?」
「足りないです! 直ぐに作って! 明日の朝までに作って! 作れるだけ作って!」
「⋯⋯」
「いやいや、無理だって。さっきも婆さんと話してたけど、俺のポーションは一晩じゃ作れないんだよ」
「まったく!」
「⋯⋯」
『まったく』って言われてもねぇ~
俺の店のポーションを欲しがるのは嬉しいけど、明日の朝までに出せるのは在庫分だけなのは理解して欲しい。
「今から作るにしても、俺の店に薬草の在庫は無いぞ。もしかしてギルドに在庫があるのか?」
「あるにはあるけど⋯」
「⋯⋯」
ほらほら、キャンディスの剣幕に驚いて、見習い冒険者の少年が絶句してるぞ(笑
キャンディスが、ギルドの薬草在庫を考え始めて少し落ち着いたところで、給仕頭の婆さんが厨房から出てきた。
厨房まで彼女の声が聞こえたのだろう。
「キャンディス、どうしたんだい?」
「あぁ オバさん」
「まったく騒がしいね。何があったんだい?」
「明日からの討伐だけど、ギルドにポーションを売ってくれって、何人も来てるの。ギルドも在庫が無くなって⋯」
「ほら、イチノス。さっきも言っただろ。呑んだくれてないで、店に戻ってポーション作りな」
その言葉に今度は俺が『まったく』と言いたいんですけど?
「いやいや、だから間に合わないし薬草が無いんだってば⋯」
待てよ⋯
そこまで言って、俺はとあることを思いついた。
俺は席を立ち、厨房でオオバの選別を続けるオリビアさんに声を掛ける。
「オリビアさん、ちょっと良いかな?」
「なんですか?」
オオバの選別の手を止めて、オリビアさんが厨房から出てきてくてた。
「サノスが作ったポーションって残ってる?」
「サノスが作ったポーション?」
「えっ! サノスさんが作ったポーションがあるの?!」
キャンディスが割り込んでくるが、それを俺はそっと制する。
「オリビアさん、月始めにサノスが作ったと聞いたんだけど?」
「あぁ、あれね。あの苦いやつね(笑」
「ワイアットが使ってオリビアさんも飲んでるって聞いたけど?」
「ごめんなさい。私には苦くて⋯」
オリビアさん安心して。
誰が飲んでもポーションは苦いから(笑
「それって残ってるかな?」
「残ってるわよ。家の冷蔵倉を占めてて捨てろって言ってもワイアットもサノスも捨てないの」
ハハハ。わかるわかる。
教科書通りに作ると、かなりの量になるよね。
魔法学校時代、授業で作ったのを使いきるのに苦労した思いが甦ってくるよ。
1ヶ月頑張ったけど、俺も最後は捨てたんだよね(笑
「その、残ってる量が知りたいんだ。どのぐらい残ってるかな?」
「このぐらいの小樽かなぁ⋯」
そう言ってオリビアさんが一抱えぐらいの大きさを示してくる。
そんなオリビアさんの仕草で、サノスが教科書通りに作ったのが理解できる。
「イチノスさん、サノスさんがポーションを作ってるの?」
堪えきれなくなったのか、ポーションが手に入りそうな予感を察したのか、キャンディスが口を挟んできた。
「キャンディスさん、サノスが初めて作ったポーション⋯ ポーションの元と言うか原液があるかも知れないんだ」
「ポーションの原液? それがあればポーションを作れるの?」
「いやいや、待って待って。どんな状態かわからないし、残ってる量もわからない。それにサノスが作ったやつだよ?」
「わかった。オリビアさん、正確な量が知りたいから、オリビアさんの家まで誰か行かせる」
キャンディスが、オリビアさんの家からポーションの原液を運び出す算段を始めた。
「イチノスさん、それがあれば明日の朝までにポーションが作れるんだね?」
「多分だが作れると思う。状態にもよるがサノスかワイアットからどんな状態で保管してるかも聞きたい」
「じゃあ、その小樽とワイアットさんとサノスさんが必要ってことね」
「あぁ、手配してくれるか?」
「直ぐに手配する。イチノスさんの店に全部集めれば良いの?」
「いや、ギルドに集めよう。その方が人も物も集めやすい」
そこまでキャンディスと話していると、見習い冒険者の少年が割り込んできた。
「あのぉ~ 俺がサノスさんに伝えれば良いですか? これからイチノスさんの店に戻るんですけど⋯」
「そうか、メモを書くからサノスに渡してくれるか?」
俺はカバンからメモとペンを取り出し、皆が見ている前でサノスへの伝言を書き始めた。
─
ギルドの依頼でポーションが必要になった。
裏庭の整備を即時中断し
店を直ぐに閉め
以下の物をギルドに届けて欲しい
・店にある在庫のポーションを全て
・サノスの家に置いてあるサノスの作ったポーションの原液
・『ポーション作りの基礎』
・『水出しの魔法円』
・『湯沸かしの魔法円』
・『オークの魔石』を1個
これで良いかな? 他に無いよな?
そう考えてペンを止めていると、キャンディスがメモを取り上げて見習い冒険者の少年に手渡した。
「これをサノスさんに渡して。頼んだよ」
「わかりました。じゃあ行ってきます」
キャンディスの言葉を受けて、見習い冒険者の少年がカゴを背負い店の外へと小走りに向かって行く。
「イチノスさん、後はワイアットね。そっちはギルドで捕まえるから」
「そうだな。頼めるか?」
「任せて。そうだ! オバさんお願いがあるの。オリビアさんも」
キャンディスが給仕頭の婆さんとオリビアさんを連れて、少し離れたところでヒソヒソ話を始めた。
そんな3人を眺めながら、俺はこの後の事を考えて行く。
明日の朝に必要な分のポーションは、まずは店の在庫を放出する。
加えてサノスが作ったポーションの原液に、俺が回復魔法を施して間に合わせる。
さらに必要な分はギルドの在庫の薬草でこれから作って行く。
多分、明日の昼ぐらいには出来上がるだろう。
これでキャンディスが求める分は何とかなるだろう。
そう考えをまとめ、俺は受け取ったが封を切っていないギルマスが出した伝令を開け、中の手紙を取り出して読んで行く。
─
大魔導師イチノス殿へ
西方と南方でギルドより緊急の討伐依頼を発した。
ついては貴殿店舗で在庫にしているポーションを全てギルドで買い取りたい。
加えてポーションの増産をギルドより依頼する。
[リアルデイル冒険者ギルド]
[ベンジャミン・ストークス]
─
はいはい。
ギルマスの依頼は全てこなせそうですよ。
そう思って、お代わりしたエールを飲もうとした俺の手を、いきなりキャンディスに掴まれた。
「イチノスさん、そこまで!」
「えっ?」
「さあ、ギルドに行きましょう!」
「えっ? まだ俺のエールが⋯」
「さあ、行くわよ!」
キャンディスに急かされて、俺はエールを飲み残したままでギルドへと連行されました。
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