6-11 詐欺行為の主犯にされそうでした
「実はですね、あの逮捕された魔道具屋の主(あるじ)と、詐欺師に繋がりが出てきたのです」
イルデパンが直ぐには理解できない言葉を口にする。
あの逮捕された魔道具屋の主(あるじ)と、詐欺師に繋がりがあるというのだ。
う~ん。
正直に言って魔道具屋の主(あるじ)に関わる件については、たとえイルデパンからでも聞きたくないのが本音だ。
「イチノス殿、話を続けて良いですか?」
「えっ、どうぞ続けてください」
しまった。顔色に出ていたのか?
「先ほどのパトリシア殿からの知らせなのですが、詐欺師から得られた供述では、魔道具屋の主(あるじ)が主犯で、詐欺師は指示に従っただけの共犯だと言うのです」
「ほぉ~」
詐欺行為に主犯とか共犯とかあるのか?
そう思いながらもイルデパンの話に俺は耳を傾ける。
「それでですね、魔道具屋の主(あるじ)を問い詰めたところ、イチノス殿の名が出てきたのです」
「はい? なぜ俺の名が出てくるんです?」
イルデパンの言葉には驚かされる。
いや、イルデパンの言葉じゃなくて魔道具屋の主(あるじ)の言葉か。
なぜ、詐欺行為の主犯や共犯の取り調べで、魔道具屋の主(あるじ)は俺の名を出すんだ?
「やはりイチノス殿には心当たりの無い話なのですね?」
「心当たりも何も、まったく迷惑な話ですね。私は詐欺師からはそのチラシを受け取っただけですし、魔道具屋の主(あるじ)とは⋯」
そこまで口にして、俺は続く言葉を探った。
イルデパンに魔道具屋の主(あるじ)と『魔石』への魔素充填に関わる『いざこざ』を話すべきか⋯
それに、奴が逮捕された時の暴言について話すべきか⋯
「イチノス殿、話せることと話せないことがあるのは理解しております」
「⋯⋯」
「話せることだけでよいのです。魔道具屋の主(あるじ)と、イチノス殿にどんな関わりがあるのかを話していただけませんか?」
「話しましょう。私としても、イルデパンさんから変な嫌疑を受けるのは本意ではありませんからね」
「⋯⋯ ありがとうございます」
イルデパンの言葉に応えて、俺はまずは魔道具屋の主(あるじ)との『魔石』への魔素充填に関わる『いざこざ』の話をした。
◆
「酷い話だ。魔道具屋の主(あるじ)とそんなことがあったのですか」
魔道具屋の主(あるじ)との『いざこざ』の話を終えれば、イルデパンが感想を述べてきた。
イルデパンの言うように酷い話である。
そもそも『魔石』への魔素充填は、魔素を扱える魔導師の能力や技量を表すもので、いわば魔導師の『格(かく)』を示すものだ。
『魔石』への魔素充填を行える魔導師もいれば、魔素充填を行えないが魔導師を名乗る者もいる。
そうした魔導師の在り方に土足で踏み込んで、
〉俺が充填を仕切ってるから
〉お前は下請けになれ
〉そうすれば充填の仕事は回してやる
仕切るも何もない。
魔素充填を行えるならば引き受ければ良い。
出来ないならば、魔導師としてそうした技量を高める努力をすれば良い。
俺は『魔石』に魔素充填が必要な理由は、希薄だと考えている。
そもそも『魔石』の魔素が空になったのならば、新たな『魔石』を手に入れて使えば良い。
どうしても『空の魔石』を使い続ける必要など、俺から言わせればさらさら感じられない。
けれどもヘルヤさんのように、親族の形見ならば思い入れもあるので理解できる。
それにあれは早々には手に入らない『魔鉱石(まこうせき)』⇒『エルフの魔石』だからだ。
それでも魔素充填の為には、元になる『魔鉱石(まこうせき)』や、大量の『魔石』が必要になるだろう。
残る魔素充填が必要な理由は、新たな『魔石』が手に入らないとかぐらいしか思い付かない。
一つの『魔石』に魔素を集めるための魔素充填。
俺が母(フェリス)から鍛えられたように、魔素が少ないと思われる『魔石』から、一つの『魔石』に魔素をかき集める。
そうした行為でしかない魔素充填を生業にしている魔導師に『俺が充填を仕切ってるから⋯』などと口にするのは、魔素充填の何たるかを知らない馬鹿の戯れ言だ。
俺のような魔導師から金銭を掠め取ろうとするだけの破落戸(ゴロツキ)だ。
ん? 待てよ。
俺が有能な魔導師と見込んで、それを顎で使いたいだけの愚かな考えだったのか?(笑
そんな事を考えていると、イルデパンが話を続ける。
「イチノス殿、今も嫌がらせは続いているのですか?」
「いえ、お話した時期にあっただけで、それ以降は無いですね」
「そうですか、今後もそうした嫌がらせとか何かがありましたら、直ぐに通報してください」
「いやいや、何かがあってからでは遅いでしょ(笑」
「「ハハハ」」
俺の返す冗談にイルデパンと共に笑ってしまった。
「イチノス殿、ここから先は気を落ち着けてお聞きください」
笑いを終えたイルデパンが神妙な口調で喋りだした。
「先程、魔道具屋の主(あるじ)がイチノス殿の名を口にしたと言うのは、奴が言うには詐欺行為の主犯がイチノス殿だと言うのです」
「⋯⋯」
俺は絶句した。
「詐欺行為により東町の魔道具屋の名が落ちれば、それで利益が上がるのはイチノス殿の店だと言い始めたのです」
「⋯⋯」
「我々としては、それはあり得ないと考えています」
「ククク 魔道具屋の主(あるじ)がその戯れ言を口にしたのですか? ククク」
俺は呆れた笑いしか出なかった。
そして魔道具屋の主(あるじ)の思惑が見えてきた。
「ククク まったく愚かな奴だ ククク」
「⋯⋯」
俺の呆れた言葉と笑いに、今度はイルデパンが押し黙った。
「イルデパンさん。笑ってしまって、すいません」
「いえ、イチノス殿がおっしゃるとおりに奴は愚かな人間です」
「勝手に私に恨みを抱き、そんな事を口にするとは、愚かな⋯」
イルデパンを真似た言葉を口にしようとして、俺は止まってしまった。
イルデパンが口にした『愚かな人間』の言葉に違和感を覚えたからだ。
もしかして、イルデパンは意図して『愚かな人間』と口にしたのか?
この王国には多数の人種が暮らしている。
人間、エルフ、ドワーフやその他の種族が雑多に集まる王国で、そうした考えや表現をするのは望まし事ではない。
国王の英断で人種を問わず門戸を開き、人種差別を撤廃しようとする魔法学校で学んだ俺だ。
王国の貴族連中にこそ、そうした『人種差別をしない』意識が浸透するべきなのに、差別される側の『ハーフエルフ』で貴族の出である俺が『愚かな人間』と言うのは、口にするべき言葉ではない。
「イルデパンさんの言うとおりに、魔道具屋の主(あるじ)は愚かな人物ですね」
俺は言葉を選んでイルデパンに答え直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます