6-8 詐欺の件でイルデパンを訪ねる
カレー屋を後にして冒険者ギルドに向かう。
再びリアルデイルの街を東西に走る大通りを越える際に、ふと西側の西町市場方面に目が行った。
教会に向かう際には、敢えて見ないようしていたのだが、そちらに行けば、イルデパンが居るであろう西町幹部駐兵署だ。
う~ん。
教会も終わったので、後は冒険者ギルドに行ってヘルヤさんへの伝令を出して、ギルマスとの話だけだから⋯
なぜか、イルデパンと会うのに気が引けている自分を感じる。
〉魔道具屋の主(あるじ)の件で⋯
〉お時間のあるときに⋯
〉西町幹部駐兵署への訪問を⋯
教会長が詐欺の件で事情聴取を受けてるし、その付近の話も交えて聞けるだろうか?
魔道具屋の主(あるじ)の件は関わりたくないが、詐欺の件は俺の商売に関わりが出てくるかも知れない。
そこまで考え、俺は意を決してイルデパンを訪ねることにした。
斜め掛けにしたカバンに入れたイルデパンからの手紙を確認し、思い切って西町幹部駐兵署に向かうことにした。
東西に走る大通りを西市場方面に向かいながら歩くと、コンクリート造りで通りに面した全面に蔦の絡まる4階建ての建物が見えてくる。
リアルデイルの街で4階建ての建物は、東西に走る大通りと南北に走る大通りに関しては珍しくはない。
むしろ、大通りに面しては全てが規制最大の4階に揃えられて建てられているぐらいだ。
そんな外観の建物が続く中で、西町幹部駐兵署は特に目立つ感じだ。
外壁は青々と蔦が絡まっていて、歴史を感じさせる立派なたたずまいを見せている。
大通りの歩道から緩やかなスロープを上がると、街兵士2名が出入口の両脇で立ち番をしている。
半年前、店を開く申請を出しに来た時には、この立ち番の街兵士は寒さを凌ぐため外套を着込んでいた。
そんな立ち番の街兵士も、夏前の今日は、額に若干の汗を滲ませ暑そうな感じだ。
そんな立ち番の街兵士に会釈して建物に入り、受付に座る女性職員に聞いてみる。
「すいません」
「はい。何でしょう?」
「こうした物をいただいたのですが、副長はお手隙でしょうか?」
そう告げてイルデパンからの手紙を広げて見せる。
受付の女性職員が手紙を受け取り一読すると、待合席に座るように案内された。
待合席に座り受付の様子を眺めていると、先程、手紙を受け取った女性職員が受付後方に座る、若干、偉そうな街兵士と話をしている。
すると偉そうな街兵士が席を立ち上がり、周囲の数名に指示を出し始めた。
指示を出された方々が席を立ち、バタバタとした感じで散って行く。
その様子を眺めて、先触れを出すべきだったかと少しだけ反省していると、一人の街兵士が寄ってきた。
「イチノス殿、お待たせしました。4階の副長室へ案内をさせていただきます」
その声に従い街兵士の後に続いて4階への階段を昇って行く。
4階に辿り着くと、長い廊下の先に二人の街兵士が扉の前で仁王立ちしているのが見えた。
案内をしてくれる街兵士が、仁王立ちの街兵士の前で止まると、王国式の敬礼をする。
それに答えて仁王立ちの二人が敬礼で応える。
「イチノス殿をお連れした。副長への訪問だ」
「了解した」
俺は街兵士同士の会話を聞き、ここが副長室だと理解した。
3人の街兵士が敬礼を解くと一人が扉をノックし部屋の中へと消えて行く。
普段から二人も街兵士に護衛をさせるなんて、街兵士の副長という役職の大きさを感じる。
するとと扉が開き部屋の中に入った街兵士が敬礼をしてきた。
案内をしてくれた街兵士が敬礼し、それを解くと俺に告げてきた。
「どうぞ、イチノス殿」
「うむ」
俺は思わず頷いて、街兵士が押さえる扉を抜け副長室に足を踏み入れた。
副長室へ足を踏み入れると、応接からイルデパンが立ち上がり俺に歩み寄ってくる。
イルデパンは魔道具屋の主(あるじ)が逮捕された時と同じく、街兵士の管理職らしき制服姿で俺に右手を差し出してくる。
「イチノス殿、よくぞ来てくれた」
「いえいえ、先触れを出さずに申し訳ない」
差し出された右手に応えて握手をすれば、イルデパンが着席を勧めてくる。
「さあ、座ってください」
勧められた応接に目をやれば、先客の女性が居た。
その女性を見て、俺は思わず驚いてしまった。
えっ?! 母(フェリス)さん?
いや違う。
金髪のショートカットから見える耳が尖っていない。
よくよく見れば母のフェリスとは顔の作りも違っている。
だが、一瞬、見た感じが母のフェリスと間違うほどに似ていたのだ。
その女性はイルデパンと同じく、街兵士の管理職らしき制服姿で背筋を伸ばして応接に座っている。
肩の階級章を見比べれば、イルデパンと同じだ。
すると応接に座した女性が口を開いた。
「イル師匠、紹介してくれないのか?」
「そうだな⋯ 紹介が必要か?(ククク」
「まったくっ!」
イルデパンが笑うと、そう口にした母(フェリス)に似た感じの女性が立ち上がり、右手を差し出してきた。
「イチノス殿だな? 東町を担当しているパトリシア・ストークスだ」
「はじめまして、イチノスです」
差し出された右手に応えつつ、俺は失礼にならない程度に、パトリシアさんを観察して行く。
背丈は俺に近い、顔をよく見れば目も鼻筋も口元も、母(フェリス)とは違っていた。
それにしても随分と母(フェリス)と感じが似ている。
先ほども感じたが、ぱっと見た感じが母(フェリス)にかなり似ているのだ。
年齢は⋯ 母(フェリス)もそうだが、やはり年齢がわかり辛い女性だ。
先ほどカレー屋の女店主でも感じたが、どうも俺は女性の年齢を何処で見るかに疎いようだ。
ん? パトリシア・ストークス?
もしかして、冒険者ギルドのギルマス、ベンジャミン・ストークスの血縁か?
「なんとお呼びすれば良いですか?」
「パトリシアでかまわんが?」
「(ククク)」
それとなく聞いてみれば、パトリシアさんはさも当然のように呼び捨てで良いと答えてくる。
パトリシアさんの答えにイルデパンを見れば、若干、笑いを堪えている感じだ。
「では、私も『イチノス』と呼び捨てで⋯」
「フフフ⋯ フェリス様のご子息を呼び捨てにはできんな。『イチノス殿』で我慢してくれ(笑」
「では、『パトリシアさん』で我慢してください(笑」
「フフフ」
俺がパトリシアさんの呼び名を決めると、握手していた手に力を込めてきた。
少々、握手にしては長いし力が入ってる気がする。
あのぉ~ パトリシアさん。
そろそろ手を解放してくれませんか?
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