2-6 ワイアットの心配
「コンラッド殿からの届け物、しかと受け取った。その旨、伝達を頼む」
「はっ!」
青年騎士(アイザック)が王国式の敬礼を俺にするので、それに応えて俺も王国式の敬礼を返す。
俺が礼を解くと、青年騎士(アイザック)が踵を使って綺麗なターンを見せてきた。
挙動の一つ一つがキビキビした印象で、さすがは騎士学校を卒業したばかりと感じさせるものだ。
青年騎士(アイザック)の後ろに立っていたワイアットが、慌てたように入り口の戸を開ける。
カランコロン
青年騎士(アイザック)が先に店の外に出て、続けてワイアットも出て行った。
コロンカラン
店の出入り口の戸が閉まり、ガラス越しに二人が店の外で何かを話しているのを眺めると、青年騎士(アイザック)がワイアットに何かを渡した。
受け取ったワイアットの様子からして、青年騎士(アイザック)が渡したのは、冒険者ギルドの任務完了書だろう。
青年騎士(アイザック)が馬車に乗り込み、それをワイアットが頭を下げて見送る。
馬車が離れたのかワイアットが頭を上げると、何処に隠れていたのかヴァスコとアベルがワイアットに近寄って来た。
もしかして、ヴァスコとアベルは隠れてワイアットの到着を待っていたのか?
「師匠、父さんは?」
「あぁ、直ぐに来ると思うぞ」
そんな様子を眺めていると、サノスが作業場から顔を出し声を掛けてきた。
カランコロン
店の戸を開けて、再びワイアットが入ってきた。
ワイアットが開け放つ店の入り口から垣間見(かいまみ)えたのは、ヴァスコとアベルだった。
俺と目線が合ったヴァスコが慌ててアベルの腕を掴み、俺から見えない位置に移動しようとする。
その様子が、何だか笑える。
「イチノス、おっと。イチノス様? イチノス殿?」
「ワイアット『さん』、お疲れ様です(笑」
「やめてくれ! 殿も様も『さん』も無しで頼む!」
「「ハハハハ」」
互いに顔を合わせて、笑ってしまった。
「イチノス、お願いだから先に教えてくれ! もう少しまともな格好で警護に着くから」
「俺の店に来るのに、ワイアットがまともな格好?」
「「ハハハハ」」
俺とワイアットがバカ笑いする様子を、キョトンとした顔で眺めるサノスに声をかける。
「サノス、奥で話をする。すまんがワイアットを案内して、お茶を淹れてくれるか?」
「は、はい」
サノスがカウンターの脇から奥の作業場にワイアットを案内した。
俺は店のカウンターに置いた小箱を片手に二人の後に続く。
作業場では、サノスが作業机の自分の席にワイアットを座らせていた。
「すまんが、これを置いてくる」
俺は二人に告げて階段を上がり、先程、本を探した書斎に向かう。
書斎に入り書斎机に小箱を置いて蓋を開けてみると、俺を睨み付けるような『魔石光』を放つそれが見えた。
このままこれを観察鑑定したいが、階下でワイアットが待っている。
俺は自分の好奇心をグッと押さえ込み、急いで書斎を出る。
急ぎ書斎を出るが、忘れずにドアに描いた『魔法円』に『魔素』を流す。
ガチン
音がして『魔法鍵』が掛かったのがわかるが、念のために2回程、取っ手を持ってドアを押し引きするが、ガタガタと音はするがドアは開かない。
俺は階段を降りて、ワイアットとサノスのもとに向かった。
ワイアットの反対側、いつも俺が座っている席に座り、サノスが淹れてくれたハーブティーを口にする。
「さて、ワイアット。ヴァスコとアベルだが⋯」
「待ってくれ⋯」
ヴァスコとアベルの話をしようと俺が切り出すと、ワイアットが制してきた。
「あの二人の話しの前に⋯ その⋯ 俺達、冒険者は護衛で知ったことは口外しないのが慣わしだが、どうしてもイチノスに聞きたいことがある」
「待って父さん。長い話しなら私が先よ。さっき話したでしょ!」
話し始めたワイアットを今度はサノスが制してきた。
どうやら俺が2階に行ってる間に、親子で何らかの話があったようだ。
「いや、サノス。お前のためにもイチノスに聞きたいんだ」
「父さん、私が先だってさっき話したじゃない。父さんは私が魔道師になるのに反対なの?」
サノス、ちょっと待とうか。
ワイアットにも考えがある筈だ。
「それには反対しない。さっきも言ったが、お前が魔道師を目指すなら応援するだけだ」
「やったー! 師匠、これで父も母も賛成しました。修行を始めれるんですね?」
俺がワイアットを見ると、娘の言動や行動をどうしたものかと困っているような顔をする。
ワイアットを困り顔から救うため、俺はサノスに頼むように声をかける。
「サノス、すまんが店の外にヴァスコとアベルがいる。二人に俺が怒っていないと話してくれるか?」
「えっ? 二人が来てるの?」
「ああ、店の外に来てるが入れないみたいだ。相手をしてやってくれ。但し、俺が言うまで店には入れるな」
「はい、わかりました」
そう言ってサノスが作業場から店に出ていった。
(カランコロン)と店の戸が開く音がしたので、サノスが店の外に出たと判断してワイアットに問い掛ける。
「ワイアットが聞きたいのは、俺の事か?」
「そうだ、イチノス。さっきも言ったが、俺達のような冒険者は、護衛で知ったことは口外しない。だが、敢えて聞く。お前は貴族なのか?」
「何を心配してる」
「う~ん⋯ 悪かった。俺が変な心配をしていたのかも知れん。すまん」
急にワイアットが頭を下げてきた。
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