2-3 両親の承諾
「サノスは『魔力切れ』を何回か経験してるんだな(笑」
「えぇ、あれは辛いです。けど『魔石』を着けてると⋯ 『魔力切れ』は起きづらいです」
俺は『何回か』と言ったのだが、サノスは否定をしない。
その口ぶりからサノスの『魔力切れ』の体験は1度や2度じゃないと知ることができる。
「何回か『魔力切れ』を経験してるのか?」
「『魔石』が空になると起きやすいです」
ああ⋯ 何となくだがわかってきた。
サノスの実力を知るには『魔力切れ』の経験と、どんな時に『魔石』が空になったかを整理するのが早そうだ。
俺は席を立ち上がり、棚からメモ用紙と鉛筆を取り出してサノスの前に置いた。
「魔道師としての修行を始めるに際して、これから大事なことを話す。忘れたくないならメモを取れ」
そう告げるとサノスはメモ用紙と鉛筆を手に取った。
「まずは守って欲しいことがある」
「守って欲しいこと? 師匠、何ですか?」
「サノスは自分一人で色々と試しているだろ? それをこれからは禁止する。一人での実験は禁止だ。『魔力切れ』したら大変だからな」
「えぇ~ ダメですかぁ~」
「ダメだ。『魔力切れ』は『回復魔法』でも回復できずに死ぬことがある。一人で試して『魔力切れ』で昏倒してみろ⋯ 誰も助けてくれない。後は死ぬだけだ」
そこまで話しても、サノスは納得していない顔をしている。
これは『魔力切れ』で死ぬことを理解していない感じだ。
俺は使い方が正しいかわからないが、目を細めた顔を作ってサノスに向けてみた。
俺の顔を見た途端に、サノスがビクリとして固まったのがハッキリとわかった。
「一人で試して『魔力切れ』を起こして昏倒して⋯ 誰も助けてくれず」
「⋯⋯」
「発見されるのは次の日の朝か? そうなったら『回復魔法』でも回復できず、教会に運ばれても蘇生できず、首を横に振られて終わりだ」
「⋯⋯」
「サノスは、たった一人で寂しく死んで行きたいのか?」
(ブルブル)
サノスが少し震えて椅子に座り直した。
ちょっと脅しすぎたか?
だがこの先、本格的にサノスに知識を与えて行くと、サノスは一人で色々と試して『魔力切れ』を起こす可能性が高い。
「もし一人で試して『魔力切れ』したとわかったら破門だ」
「破門?! そ、それって⋯ クビって事ですか?」
「あぁ、クビだ。店への出入りも禁じる」
「⋯⋯」
サノスが黙り込んだ。
ようやく、俺の意見を真剣に受け止めてくれるようだ。
「実験を禁止する訳じゃない。何か試したくなったら、まずは俺に相談しろ。俺がサポートに着いて試せば、サノスが『魔力切れ』を起こしても『回復魔法』で助けられるだろ?」
「コクコク」
サノスが頷き始めた。
これなら真面目に話を聞いてくれそうだ。
「そういえばサノスは『回復魔法』は使えるのか?」
「ブンブン」
勢いよくサノスが首を横に振る。
なるほど『回復魔法』は使えないんだな。
「さて次だ。サノスが今まで経験した『魔力切れ』を紙に書いて提出しろ。いつどこで何をやろうとして『魔力切れ』になったかを紙に書き出すんだ。それを元にサノスの今の実力を調べる。全てじゃなくて良い。思い出せる範囲で『魔力切れ』の経験を紙に書いて提出してくれ」
「コクコク」
これにもサノスは頷いてくれた。
しかもメモを書き始めた。
この様子なら素直にやってくれるだろう。
「『魔力切れ』だけじゃなくて、『魔石』の『魔素』を空にしたのも提出しろ。何をやろうとして『魔石』の『魔素』を空にしたかでサノスの苦手な事もわかってくる。できれば空になった『魔石』も提出して欲しい」
「コクコク」
よしよし。
一所懸命にメモを書いてる。
しかもサノスの目は真剣な感じだ。
その様子から、俺の言葉を聞き漏らすまいという意気込みが伝わってくる。
サノスのメモを書く手が止まったので、声をかける。
「メモを読んでみろ」
「えっ、は、はい」
そしてサノスは自分で書いたメモを読み上げた。
「
1.一人での実験は禁止。やったら破門でクビ。
2.実験する前に相談。実験するときは師匠が立ち会う。
3.『魔力切れ』の提出。
4.『魔石』を空にしたのも提出。
こうメモに書きました
」
サノスにしては、書けている方だと思うことにしよう。
「よし。そのメモを持って、ワイアットとオリビアさんに説明して承諾を貰って来い。サノスは未成年だから魔道師としての修行を始めるなら両親の承諾が必要だろ?」
「えっ、このメモを持ってですか?」
「ああ、そのメモで良いよ。きちんと二人が承諾したのなら、魔道師としての修行を始めよう」
「あのぉ⋯」
サノスが何やら困った顔をする。
この条件ではダメだったか?
「このメモ、字が汚いんで書き直しても良いですか? 汚い字だと母さんに叱られるんです⋯」
「そ、そうか⋯ 好きなだけ書き直しなさい」
◆
あの後、サノスは一所懸命にメモを書き直して、両手鍋を持って大衆食堂に向かった。
昼前の時間なら、オリビアもワイアットも大衆食堂にいる筈だと急ぎ足で店を出ていった⋯ 両手鍋を持って。
どうせなら、昼御飯にスープか何かも買ってきて貰うための両手鍋だ。
昼御飯の確保にも目処がたった俺は、店舗兼自宅の2階に上がり書斎にしている部屋に足を踏み入れた。
『水魔法分析論』に続く、サノスに与える知識を考えなくてはならない。
今後、サノスが『魔法』に関する知識に接する機会を、どう増やして行くかを俺は本気で考えなくてはならない。
ふっ(笑
何かが俺の肩に乗った気がするな。
(カランコロン)
数札の本を抱えて階段を降りようとすると、店の戸を開ける鐘が鳴る音がした。
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