1-5 マイクの婚約


 母(フェリス)が話を続ける。


「ランドルが戦地に行く前にウィリアムは継承権を放棄したでしょ?」

「その話はウィリアム叔父さんから聞いたよ。父さんが戦死すると叔父さんに侯爵の継承権が発生するんだろ?」


「ウィリアムが国王に進言したのも聞いてるわよね?」

「『ランドルの後は息子のマイクに継がせるべきだ』そう国王に進言した話でしょ?」


 この話もこの街では有名な話だ。

 また、ウィリアム叔父さんの評判を大いに高めた話でもある。

 

「マイクも半年後には成人だから侯爵になるわよね。その後に私とウィリアムの婚約を発表する予定よ」


「なるほど、マイクの侯爵叙爵に続けてウィリアム叔父さんと母さんの婚約発表でケユール家の安泰を唱うんだね?」

「いえ、それだけではありません」


 俺の考えを話したところでコンラッドが割り込んできた。


「マイクね、侯爵の叙爵と一緒に婚約発表するのよぉ~」

「えっ! マイクが?!」


「はい。現在の王国ではケユール家の侯爵は特別に空位を認められておりました。それもマイク様が成人を迎えれば叙爵して解決しますが跡継ぎが不安視されます」

「それでマイクが婚約?」


「ええ、マイク様が結婚されれば、跡継ぎに関しては生めよ増やせよで世間から希望が生まれます」


「そうなればウィリアムが放棄した継承権、それの復活を持ち出す輩を完全に排除できるでしょ」

「フェリス様の仰有るとおりです」


「そこで私とウィリアムが一緒になれば、ウィリアムの継承権の復活を望む連中も殲滅でしょ?」


 『完全に排除』とか『殲滅』とか、かなり過激な言葉が出てくるけど大丈夫か?


 んん?


「えっ? ちょっと待って。母さんはウィリアム叔父さんに側室で入るんじゃないの?」

「あら、ウィリアムは独身よ。イチノスは何を寝ぼけたことを言ってるの?」


 考えてみれば、そもそも母(フェリス)はウィリアム叔父さんの正妻として嫁ぐ予定だった。

 その予定を愚かな貴族連中の、愚かな具申で、侯爵である父(ランドル)の側室に納まったのだ。


 その父(ランドル)を戦地に向かわせ戦死させたのも、愚かな貴族連中だろう。

 そうした愚かな貴族連中の思惑を、全て壊す異母弟(マイク)の侯爵叙爵。

 追い討ちを掛けて、マイクの婚約発表。

 止めを刺すように母(フェリス)とウィリアム叔父さんの結婚と続けば、戦死した父(ランドル)も、墓の中で愚かな貴族連中の愚かな企みを全て覆せる思いだろう。


 当人達としても、父(ランドル)の正妻(ダイアン)は無事に自分の息子が侯爵になる。

 ウィリアム叔父さんは、ようやく母(フェリス)を正妻に迎えられる。

 マイクは些かこれからが大変そうだが、彼ならそつなくこなせる気がする。


 皆が当初の思いというか、本来望む道をこれからは進めそうな感じだ。


「ウィリアム叔父さんと母さんの再婚の話はわかった。マイクの叙爵もわかった。マイクの婚約の話は驚いたけどね」

「あなたが理解してくれてよかったわ」


「わかったけど⋯ あれ? 何か気になるな⋯」

「フフフ」「ニヤニヤ」


 母(フェリス)とコンラッドが何故かニヤつく。


「そうだ! ウィリアム叔父さんの跡継ぎは?!」

「イチノス、もうすぐウィリアムお義父さんよ。今から練習しなさい(笑」


 冗談めかして答えた母(フェリス)はハーブティーに口を着けつつ答えた。


「まさか母さん、産むつもり?」

「もちろんよ。彼が望むなら産むわよ」


 おいおい、母(フェリス)さん。

 年齢を考えてくれ。


「その、伯爵であるウィリアム叔父さんの跡継ぎが、俺みたいなハーフエルフでも問題ないの?」

「その件ですが、まもなく根回しが終わります。王国議会で採決されれば、国王の承認も得られるでしょう」

「うんうん」


 コンラッドが割り込んで答え、母(フェリス)が頷いている。

 何となくだが貴族の世界、王国議会の流れが大きく変わってきているのを感じる。


「わかった。それなら母さんとウィリアム叔父⋯ 義父さん⋯ あれ? 結婚前だから叔父さんで呼ぶよ。二人の結婚を改めて祝福するよ」

「ありがとう♪」


 母(フェリス)が明るく礼を言う。


「そうだな。結婚祝いは何が良い? 高い物以外で希望がある?」


 俺の言葉に、母(フェリス)とコンラッドが顔を見合わせる。


「あるわよ。結婚祝いでウィリアムも私も欲しいものがあるの」

「何かな? 言ってみて」


「『勇者の魔石』よ」

「えっ?!」


「出来れば二つ欲しいの」

「二つ? 『勇者の魔石』を?」


「そう、私とウィリアムの分。それに⋯」

「わかった! マイクの分で2つだ!」

「イチノス様、勘が冴えて来ましたね(笑」


 再びコンラッドが話に割り込み、冗談を含めた言葉で俺を称える。


 それにしても『勇者の魔石』を欲しがるとは⋯

 お母さん、あなた子供を、しかも男の子を生む気マンマンですね。

 しかもその『勇者の魔石』を息子である俺に要望するとは⋯


 いや待てよ。


 実際は異母弟(マイク)への婚約祝いが主体じゃないのか?


 『勇者の魔石』は、確実に男の子を授かれると言われている代物だ。

 例えば俺が『勇者の魔石』を手に入れたとする。

 母(フェリス)はそれを、俺から異母弟(マイク)に『婚約祝いで贈りなさい』と諭しているのでは?


「なるほど。『勇者の魔石』か⋯」

「イチノス様は、国内でも屈指の魔道師であり『魔石造りの名手』です」


 おいおい、コンラッド。

 むず痒くなるほど誉めてくるじゃないか。


「確かにマイクの婚約祝いに、俺から『勇者の魔石』を贈るのは、一番良い選択だね」

「あらイチノス。私の結婚祝いじゃないの?(笑」


 こういう時にこそ、目を細めた笑顔を作れば良いのだろうかと、俺は悩んでしまった。

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