第4話 イチゴ狩り
「葛葉ちゃん、準備はOK?」
「おっけー!」
今日は超久しぶりの休日だ。
ちょっと前までの私なら一日中寝てただろうけど、今は葛葉ちゃんがいるからね。
家で何もせず過ごすより、葛葉ちゃんにいろいろな体験をさせてあげたい。
というわけで、これから一緒にお出かけするところです。
行先はイチゴ農園。
もう五月だけど、調べたらそこそこ近くの農園でイチゴ狩りできるようだったから、葛葉ちゃんと一緒に楽しもうというわけである。
「葛葉ちゃんは助手席に座ってね」
「はーい」
助手席に葛葉ちゃんを座らせ、シートベルトで固定する。
初めて車に乗る葛葉ちゃんは、終始興奮した様子だった。
キョロキョロといろんなところを楽しげに眺めている。
「それじゃあ、出発進行!」
「しんこー!」
葛葉ちゃんが元気よく合図を出してくれたところで、私は車を動かす。
「すごいすごーい! うごいてるよ、なるせお姉ちゃん!」
いちご農園に到着するまで、葛葉ちゃんはずっと楽しそうにはしゃいでいた。
てぇてぇ。
「ふぅ、到着~」
「いっちごがり~いっちごがり~」
「たくさん採れるといいね」
私は葛葉ちゃんの手を引いて歩く。
ぷにぷにで柔らかいですありがとうございます。
「いよいよだね、イチゴ狩り」
「わくわく!」
いろいろな説明を聞いてから、私たちは農園に入る。
ワクワクが止まらない私たちを迎えたのは、赤く実ったおいしそうなイチゴたちだった。
「さーて、どれから採ろうかな」
「葛葉、いっぱいイチゴさん集める!」
葛葉ちゃんはそう宣言すると、イチゴのもとにとたとたと走っていく。
「んしょ、んしょ。……やっ!」
それから、私の元に戻ってきた。
手に握ったイチゴを嬉しそうな表情で見せてくる。
「イチゴさんとったぁ!」
「イチゴ採るの上手だね、葛葉ちゃん。おいしそうだね」
「でしょでしょ~。あとでいっしょに食べようね!」
「うん、そのためにもいっぱい集めないとね」
「だね! 葛葉、おいしそうなのいっぱいあつめる!」
葛葉ちゃんは元気よく返事すると、再びイチゴのもとにとたとた走る。
はしゃいでる葛葉ちゃんを見て、来てよかったなと実感する。
葛葉ちゃんの笑顔を見れただけで、私は満足だった。
「なるせお姉ちゃんもいっしょにあつめよーよ!」
「……うん、今行くよ」
私はクスリと笑ってから、葛葉ちゃんのもとに向かった。
隣で一緒に採取していく。
「わあ! みて、なるせお姉ちゃん。このイチゴさんすっごく大きいよ!」
そう言って葛葉ちゃんが見せてきたのは、通常サイズの倍ほどもある巨大なイチゴだった。
「すっご! 葛葉ちゃん、プロのイチゴハンターじゃん!」
「えへへ、これはなるせお姉ちゃんにぷれぜんとするね!」
「ありがとね。すごく嬉しいよ」
めっちゃ健気でいい子だ……!
てぇてぇ……。てぇてぇよ……っ!
それから数十分後。
私たちはカゴにどっさり入るほどのイチゴを集めることができた。
「ふ~、こんなもんかな」
「もうイチゴさん食べる?」
「うん、採れたて新鮮なうちに食べよっか。好きなの取っていいからね」
私がそう言うと、葛葉ちゃんはイチゴたちをじっと眺める。
いろいろと物色した後、葛葉ちゃんはカゴの中からイチゴを取り出した。
「はい、これ。なるせお姉ちゃんにあげる」
そう言って葛葉ちゃんが渡してきたのは、最初のほうに葛葉ちゃんがとった巨大イチゴだった。
「たべてたべて~」
葛葉ちゃんが健気すぎる……ッ!
ちょっと嬉しすぎて涙出てきたわ。
「おいしそうだね。では、いただきまーす」
葛葉ちゃんから受け取ったイチゴを口の中に運ぶ。
一口噛めば、甘酸っぱい果汁が口の中にあふれてきた。
「どう?」
「すっごくおいしいよ。ありがとね、私にくれて」
「えへへ、どういたしまして。じゃあ、葛葉もイチゴさんもらうね」
「好きなだけ食べていいからね」
「はーい。あむ」
イチゴを口に運ぶ葛葉ちゃん。
お気に召したようで、ほっぺを押さえながら目を細めてもぐもぐする。
「ん~、おいし~。つぎは……これにしよっと!」
次に葛葉ちゃんが選んだのは、比較的小ぶりなサイズのイチゴだった。
「あむっ。……っ!」
イチゴをもぐもぐしていた葛葉ちゃんが、急に顔をしかめる。
酸っぱいイチゴに当たっちゃったのだろう。
プルプル震えてる葛葉ちゃんてぇてぇ。
「大丈夫?」
「ちゅっぱい……!」
「あはは、残念だったね」
「むぅ」
口をとがらせてしまった葛葉ちゃんの頭を撫でてあげたら、葛葉ちゃんはすぐに笑顔になった。
うん、チョロ可愛いね。
そんな感じでイチゴ狩りを終えた私たちは帰路につく。
もちろん戦利品のイチゴたちを抱えて。
「葛葉ちゃん、イチゴ狩りは楽しかった?」
「すごくたのしかった! またなるせお姉ちゃんとあそびに行きたいな」
「ふふっ、私もすごく楽しかったよ。お盆になったら三日ぐらい休みがあると思うから、遠くに旅行するのもいいかもね」
「りょこー!? なにそれたのしそう!」
行きと同様、帰りの車内でもはしゃいでいた葛葉ちゃんだったが、疲れが出てきたのかすぐに眠ってしまった。
「よかった。いい思い出になったみたいだね」
静かになった車内で、私はぽつりと呟く。
初めてのお出かけは、大成功に終わった。
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