第3話 葛葉ちゃんの歓迎会

 今日も今日とて社畜業に励んだ私は、帰宅途中にスーパーに寄る。

 冷食などを補充するためというのもあるけど、一番の目的は食材の買い出しだ。


「えーっと……調味料は確か料理酒がなくなりそうだったはず……」


 いつもは冷食エブリデイな私だけど、今日は久しぶりに自炊をしようと思う。

 自分一人なら、めんどくさくて絶対にしないんだけどね。

 今日は葛葉ちゃんの歓迎会をする予定だから、こういう時くらいはちゃんとした料理を食べてもらいたい。


 ってなわけで買い物を済ませてから家に帰る。

 ドアを開けると、葛葉ちゃんが嬉しそうに出迎えてくれた。


「おかえり、なるせお姉ちゃん!」


 ふぉぉぉ! これだけで疲れがすべて吹き飛んだよ。


 やはり癒し……!

 癒しはすべてを解決する……!


「ただいま。大丈夫だった?」


「葛葉、きょうもいい子にしてた!」


「そっか~。葛葉ちゃん偉い偉い」


「えへへ」


 褒めてあげると、葛葉ちゃんは嬉しそうにはにかんだ。

 うん、てぇてぇ。


 葛葉ちゃんとたわむれて英気を養った私は、さっそく料理に取り掛かる。

 歓迎会だから料理は豪華なほうがいいよねってなわけで、今日は贅沢に揚げ物を作っていく。

 葛葉ちゃんに見守られながら作業すること一時間ちょっと。


「じゃーん! 完成です!」


 テーブルの上に並ぶのは、彩鮮やかなサラダとカリカリのから揚げたち。

 私のできる範囲で作った結果こうなりました。

 もちろん、から揚げは二度揚げしてます。


「わぁ、おいしそう! なるせお姉ちゃんすごーい!」


「お気に召したようでよかったよ」


 目を輝かせてキャッキャとはしゃぐ葛葉ちゃんを見て、私は頬を緩ませた。


 ……誰かのために頑張ってよかったって思ったのはいつぶりかしら?

 まだ出会って間もないけど、葛葉ちゃんが私の心の支えになっているのは確かだった。


「ねーねー、はやく食べようよ!」


「……そだね。パーティーは明るく楽しまないとね!」


 私は思考を切り替える。


 今が楽しい。

 ただ、それだけでいいんだ。


「それじゃあ、手を合わせて」


「はーい」


「いただきます」


「いただきまぁす! あむ」


 さっそくから揚げを頬張る葛葉ちゃん。

 一生懸命もぐもぐする姿が相変わらずてぇてぇ。


「どう? 味は大丈夫?」


「ん、おいひい!」


「そっか。ありがとね」


 葛葉ちゃんの姿を見ながら、私も料理を口に運ぶ。

 うん、久しぶりの料理にしては悪くない出来ね。

 特にから揚げ。

 外はカリカリ、中はジューシーに仕上がっている。


 やっぱり二度揚げとてぇてぇは正義ね。

 相乗効果で料理がよりおいしくなってるわ。


「ん~、サラダもおいしい!」


「ちゃんと野菜も食べて偉いね~」


「葛葉、いい子だからすききらいしないよ」


「葛葉ちゃんすご~い!」


「えっへん!」


 そんなこんなで楽しい食事を終えた私たちは、お腹をさすりながらソファに寄りかかる。

 葛葉ちゃんにたっぷり癒されたから満足感がすごいけど、歓迎会はまだ終わりじゃない。

 お遊びの時間が残っているからね。


「次はゲームの時間だよ、葛葉ちゃん」


「げーむ……?」


 葛葉ちゃんは不思議そうに首をかしげる。


「今回やるのはビンゴゲームだよ。勝ったほうには景品があるからね!」


「けーひん? どんな?」


「それは勝ってからのお楽しみだよ」


 そう返すと、葛葉ちゃんはワクワクしてきたのか両手をしゃかしゃか振り始めた。

 私はビンゴゲームについて葛葉ちゃんに説明していく。


「──ってな感じのゲームなんだけど、わかった?」


「うん! 葛葉、まけないようにがんばる!」


「それじゃあ、始めよっか」


 即席で作った二十五マスの数字が書かれた紙を配ったら、さっそく開始。

 数字のほうはスマホアプリを使って完全ランダムで出てくるようにしている。


「最初の数字は23だね。私のほうはないか~残念。葛葉ちゃんは?」


「23……23……23…………あった!」


「葛葉ちゃん、それは23じゃなくて32だよ」


「ふぁっ!?」


 間違いに気づいた葛葉ちゃんは顔を真っ赤にする。

 はい、てぇてぇポイントいただきました。


「あっ、でも23あるよ。ほら、ここに」


「わっ、ほんとだ。やった~!」


 さっきまでの恥ずかしさはどこへやら、葛葉ちゃんは嬉しそうにはしゃぎ出す。


 それから何回か数字が出た後、ついに私はリーチになった。

 それに対して、葛葉ちゃんは一番ビンゴに近いところでも三つしか並んでいない。


「ふっふっふ。このままだと私が勝ってしまいますな~」


「むー、なるせお姉ちゃんつよーい」


「どれどれ、次は47だよ」


 私のほうは……あるにはあったけど関係ないところだわ。

 葛葉ちゃんは……。


「ない……」


「ふっ、勝ちが見えてきた」


 それから数回数字が出た後。


「これでトリプルリーチ!」


 ……いや、おかしい。

 肝心なところが全く当たらず、リーチばっかり増えていくんですけど……。

 勝ちが見えたはずでは?


「……次は72だね。わお、これでファイブリーチだ。なんでぇ……?」


「やった~! みてみて、なるせお姉ちゃん! 葛葉もリーチだよ!」


「ホントだ、すごーい! でも、確率的には私のほうが勝率高いからね。私を超えることができるかな?」


 私は全身全霊でスマホをタップする。

 しかし、出てきた数字は二人とも外れだった。


 ま、まあ、これはあれよ。

 あっさり決まったらつまらないから、運命神が場を盛り上げるために気を遣ってくれたのよ、きっと。


「……いくわよ」


 私も葛葉ちゃんも、真剣な表情でビンゴカードを見つめる。

 私は指に気合を込めながら、勢いよくスマホをタップした。


「うおー! きたー!」


「なるせお姉ちゃん、まさか……!?」


 私の反応を見て慌てだした葛葉ちゃんに、私はドヤ顔で宣言した。


「セブンリーチよ!」


「よかったぁ……」


 葛葉ちゃんは安堵したように胸をなでおろしてから、自身のカードを眺める。

 次の瞬間、ぱぁぁっと目を輝かせた。


「ま、まさか──」


「みてみて、ほら! 葛葉、ビンゴだよ!」


「くっ、私の完敗です……っ! おめでとう、葛葉ちゃん」


「やったー! やったー! やったぁ~!」


 嬉しそうに万歳する葛葉ちゃんてぇてぇなぁ。

 負けたのはちょっと悔しいけど、葛葉ちゃんの笑顔が見れたから実質私の勝ちってことでいいね、うん。


「それじゃあ、優勝した葛葉ちゃんには景品をあげちゃいます。まずはこちら! お菓子の詰め合わせです!」


「おいしそうなおかしがいっぱい……っ! 葛葉だけじゃ食べきれないから、なるせお姉ちゃんにもわけてあげるね!」


「ホントに!? ありがとう、葛葉ちゃんは優しいね」


 葛葉ちゃんの頭を撫でてから、私はもう一つの景品を袋から取り出す。

 こちらは昨日の昼休憩中におもちゃ屋さんで買ってきたものだ。


「じゃじゃーん! 大きいキツネのぬいぐるみですっ!」


「かわいいキツネさんだぁ……!」


「葛葉ちゃんなら喜んでくれると思ったよ」


 キツネのぬいぐるみを嬉しそうに受け取った葛葉ちゃんを見て、私はうんうんと頷く。

 葛葉ちゃんはキツネのぬいぐるみを抱きしめながら、最高の笑顔を浮かべてくれた。



「なるせお姉ちゃん、ありがとう」



 喜んでもらえてよかった。

 私は心の底からそう思うのだった。

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