第2話 てぇてぇすぎるケモミミ幼女と同居することになった
手早く支度を整えて朝食を済ませた私は、葛葉ちゃんに冷食の食べ方やらトイレの場所やら生活してもらうのに必要なことを教える。
言うまでもないけど、朝食を食べる葛葉ちゃんはてぇてぇかったです、はい。
「それじゃあ、行ってくるね」
「いってらっしゃい。がんばってね! 葛葉、いい子でまってる!」
いやー、こうやってお見送りしてもらえるのいいな~。
私は頬を緩ませながら会社に向かう。
今日の仕事は過去一はかどりました。
◇◇◇◇
葛葉ちゃんは退屈そうにしていた。
レンチンした冷食を食べ、ぐっすり昼寝して、目を覚ましたところで呟いた。
「……ひまだなぁ。なにかできることないかな」
葛葉ちゃんは成瀬の真似をして腕を組みながら、「んー……」と頭をひねる。
「……はっ! そうだ!」
何かいい案をひらめいたようだ。
「なるせお姉ちゃんがかえってきたときにお部屋がきれいだったらよろこんでもらえるはず……!」
そこら辺にゴミが散らばった汚部屋を眺めながら、葛葉ちゃんはぐっと力こぶを作る。
そうと決まったら、さっそく行動に移さないとね。
「んーしょ、んーしょ。ゆかのおそうじを……できない!?」
葛葉ちゃんは水バケツと雑巾を用意したところで、拭き掃除よりも先に部屋に散らばるゴミを片付けたほうがいいことに気づく。
ちょっとポンコツ気味なところを成瀬が見たら、絶対にてぇてぇと言っていただろう。
「ごみさんをおかたづけ、おっかたづけ~」
その辺に散らばっているゴミを集めて、ゴミ箱に捨てようとする葛葉ちゃん。
しかし、ゴミ箱のサイズが大きかったため、身長の低い葛葉ちゃんでは捨てるのが難しかったようだ。
たくさんのゴミを抱えてバランスが不安定だったのも一因だろう。
結果、
「んーっしょ、んーっしょ……わわわきゃあっ!」
葛葉ちゃんはバランスを崩してこけてしまった。
反射的にゴミ箱の一部を掴んだため、ゴミ箱も一緒に倒れてしまう。
衝撃でふたが空き、中のゴミが一気にあふれ出た。
「いたた……って、わぁぁぁぁぁああああっ!?」
あたり一面に散らばった大量のゴミを見て葛葉ちゃんは慌てふためく。
「どうしようどうしよう!? ごみがいっぱいに……」
どうすればいいか分からず右往左往する葛葉ちゃんは、今度は近くに置いてあったバケツにぶつかった。
そのバケツは先ほど葛葉ちゃんが用意した、たっぷりと水が入ったもので……。
「ぎゃー!?」
またもやバランスを崩してこける葛葉ちゃん。
ついでにバケツも倒れ、中の水がばしゃぁぁんっ! と床にぶちまけられた。
「ばぁぁぁぁああああああっ!?」
葛葉ちゃんは大惨事に悲鳴を上げる。
自分のドジが引き起こした事態に、つい涙があふれてくる。
「うぅ……ぐすっ……うわぁぁぁぁん!」
涙はすぐに
しばらく大泣きしていた葛葉ちゃんだったが、不意に泣き止む。
「おかたづけ、しなきゃ……ちゃんと……」
葛葉ちゃんは何度も涙をぬぐいながら、再び片づけを始めるのだった。
◇◇◇◇
「社畜はつらいよぉ~」
仕事終わりの夜、私は泣き言を漏らしながら帰路を歩いていた。
今日はいつもより早く仕事が終わったけど、それでも時間は十時前。
定時? なにそれおいしいの? だよ、ホントもう。
それでも、私の足取りは軽かった。
家で葛葉ちゃんが待ってるからね。
早く帰っててぇてぇお姿に癒されたいです。
ようやく家に着いた私は、ドアを開ける。
「ただいま~」
なんの気なしにそう言ったら、奥から葛葉ちゃんがとたとた走ってきた。
「おかえりなさい、なるせお姉ちゃん!」
「ぐっふぅ!?」
「だいじょうぶ!?」
『なるせお姉ちゃん』という言葉に胸を貫かれた私は、血反吐を吐きながら膝をつく。
なんだこの破壊力ッ……! 危うく失血死するところだったわ。
そんなこんなで部屋に入った私の目に映ったのは、ピカピカになった部屋だった。
あれだけ散らかっていたゴミが、きれいさっぱり片付いている。
部屋の隅のほうには、大量のゴミが入ったゴミ袋がまとめられていた。
「これ……もしかして、葛葉ちゃんが片付けてくれたの?」
「えっへん!」
恐る恐る問いかけると、葛葉ちゃんは誇らしげに胸を張った。
ドヤ顔の葛葉ちゃんてぇてぇ。
「ありがとねー! 葛葉ちゃんのこと大好きだよぉー!」
「えへへ」
嬉しさのあまり私がそう言うと、葛葉ちゃんは照れたような笑顔を見せてくれた。
健気すぎる葛葉ちゃんてぇてぇ……!
「さて、それじゃあお
一息ついた後、私は葛葉ちゃんと一緒にこたつに入る。
お話の内容は、もちろん葛葉ちゃんの今後についてだ。
けど、その前に。
「葛葉ちゃんのことについて教えてくれるかな?」
「葛葉のこと……?」
「そうそう。まずは相手を知ることから始めないとね」
私が葛葉ちゃんについて知っているのは、行く当ても帰る場所もないということだけだ。
「葛葉ちゃんはなんで昨日の夜中にあんなところで泣いてたの?」
「……前まですんでたとこ、なくなった」
「どこに住んでたの?」
「“じんじゃ”ってよばれてるとこ」
神社、という単語でピンときた。
「……そういえば、二日くらい前に近くの神社が取り壊しになってたっけ」
「たぶんそれ、葛葉のおうちだとおもう。おうちがなくなってから、葛葉のちからもなくなった」
力がなくなったって、葛葉ちゃんは神もしくは神の使い的な存在だったのだろうか?
まあ、葛葉ちゃんの存在自体がファンタジーだから神だって言われても驚かないけどね。
そもそも神なんて日本だけで八百万人くらいいるし。
これで葛葉ちゃんについては大まかに分かったけど、今後どうするのかという大きな問題が残っている。
その解決策だけど……一つだけ、あるにはあるんだよね。
「もし葛葉ちゃんが良ければだけど、今後もうちで生活しない?」
そう、私が養っちゃえばいいのだ。
葛葉ちゃんがてぇてぇすぎて傍にいるだけで癒されるから、葛葉ちゃんさえよければこれからも一緒にいて欲しい。
「葛葉、なるせお姉ちゃんといっしょがいい。……けど、めいわくじゃない?」
「迷惑じゃないよ。葛葉ちゃんがいてくれるだけですごく楽しいの」
私がそう告げると、葛葉ちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。
「葛葉ここがいい!」
「そっか。じゃあ、決まりだね」
というわけで、私はてぇてぇすぎるケモミミ幼女と同居することになった。
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