第14話 オカルト研

 背中を強く打ち付けたせいか目を白黒させていた柳田先輩だけれども。声を掛けてきたのが私だと気づいたのか気安そうに片手を上げて挨拶をした。地面に倒れた姿勢のまま。残念な美少女である。


「やぁ、我らが親愛なる生徒会長じゃないか。とうとう『オカルト研』を正式な部活にしてくれる気になったのかな?」


「部活にしたかったら部室と五人以上の部員、そして顧問の先生を確保してから書面で申請してください」


「うむ、私、杏奈君、ハルカ君、佐那君、そしてそこの見慣れぬ美少女君でちょうど五人。部室は生徒会室で、顧問は学園長に任せよう。これで何の問題もないね」


「問題ありすぎです。生徒会役員と部活の両立なんて忙しすぎて嫌ですし、生徒会室にそんなスペースはありません。咲良ちゃんは……ノリノリで顧問をやりそうですね」


 懐中電灯を向けていると柳田先輩が眩しそうだったので廊下の電気を付ける。


「ひぃ!? 勝手に電気がついた!?」


 悲鳴を上げたリナがレスリングばりのタックルで私に抱きついてきた。ぐはっ。

 いや私がつけただけだから。なんかもう箸が転がっても恐がりそうなリナだった。


「む? 電気が通っていたのか? ならつければよかったか――いやそれではこっそり忍び込んだ意味がなくなるな」


 まぁ普通は旧校舎に電気なんて通ってないわよね。


「先輩はどうしてこんな夜中に旧校舎へ? また幽霊を捕まえに来ましたか?」


 電気をつけて分かったけど先輩の周りには怪しげな機材が散乱していた。ガイガーカウンターっぽいものからステレオっぽいものまで多種多様。よくもまぁこんなに持ち込めたものである。


 先輩はオカルト研の部長(部活ではない)なのに幽霊が見えず、科学の力を使って幽霊を解明しようとしているのだ。


「あぁ、昼間だと先生に見つかるかもしれないから夜に調べ物をしていたんだけどね。夜も以外と人がやって来るものだから、怖がらせれば逃げるだろうと思って赤ん坊の声を流していたのさ。いやぁ動画サイトで『これだ!』という赤ん坊の泣き声を探すのは苦労したよ」


 努力の方向を間違っています。


 あと、『夜も以外と人がやって来る』って、そんなはずは無いと思うのだけれども。なにせここは旧校舎。警備員の見回りも校舎の中までは入ってこないはずだし、季節外れなので舞弥ちゃんみたいな肝試しの生徒も滅多にやって来ないだろうから。


 もしかして幽霊なのでは?


 そんな感想はグッと飲み込んだ私だった。柳田先輩は怖がるどころか『何本当か!? さっそく調査しなければ! まずは電磁波の測定と写真の撮影、音紋も記憶しておきたいな!』と喜び勇んで様々な機材を持ち込むだろうから。


 夜の貴重な自由時間をこれ以上潰されるのはゴメンである。


「それで? 何を調べていたんです?」


「うむ、最近入手したこの本に面白い記述があったのでね」


 先輩が散乱した機材の間から和綴じの本を取り出した。


「東京大空襲の際、我が国は大半のB-29を撃墜したが帝都は火の海に包まれた。しかし、この本によればB-29を撃墜したのも、帝都を燃やし尽くしたのも、異世界からやって来たドラゴンだというのだよ!」


 ん~?

 なんだかファンタジーな話になってきたわね。

 もちろん歴史書には帝都防空隊の激戦が残されているし、ドラゴンが現れたなんて記述はない。この世界にドラゴンが出たらビックリよね実際。もっとたくさんの記録とか目撃情報が残っているわよね絶対。


 しかし真面目な指摘をしても先輩が聞き入れるはずがないのでテキトーに話を合わせる私である。


「はぁ、で、ドラゴンと旧校舎がどう繋がるんですか?」


「この本に記載されている地図と照らし合わせると、ドラゴンはここで打ち倒されたはずなんだ。そう考えるとこの学園を中心として妖怪の目撃情報が多い理由も説明できる。私はドラゴンの死体からあふれ出た未知の力――ここでは仮に魔力としよう。魔力の影響によって妖怪の行動が活発になっているに違いないと踏んでいるのだ」


 へー。

 すごーい。

 頭いいー。

 もう帰っていいですかー?


 微塵も興味が湧かない私。しかしこういう話の専門家(?)である佐那は興味津々だし、ハルカも意外と真剣に聞き入っている。ここで中断させるのはちょっと空気が読めていないかしらね。


 しょうがないから腰に抱きついているリナの頭を撫でて暇つぶしをする私であった。その後先輩の話は一時間ほど続いたとここに特記しておきましょう。貴重な自由時間が……。


 翌日。須賀先生に事の次第を報告すると柳田先輩は生徒指導室にドナドナされていった。ざまぁ。



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