第12話 生徒会室で

 なにやら教室は騒がしかったので生徒会室でお昼をとることにする。メンバーは私とハルカ、佐那といういつものメンバーとリナ。そして委員長と、委員長の仲良しさんである麻美ちゃんだ。


 委員長と麻美ちゃんはよく人員不足な生徒会を手伝ってくれるので一緒にご飯を食べることも多いのだ。


 私としてはもう生徒会に入って欲しいのだけれども。学級委員長は生徒会と兼任できないらしいので委員長(美代ちゃん)はダメで……麻美ちゃんは『この空間は顔が良い人が多すぎてダメです! 毎日だと過剰摂取で死んでしまいます!』という理由でダメらしい。


 まぁ確かにハルカや佐那、委員長は美少女であることはもちろん顔面偏差値も高めで顔が良い人が多いという感想には納得できるのだけれども……。ふつう美少女がいっぱいいたら幸せな気持ちになるんじゃないのかしら?


「女たらしの発想やなぁ」


「ハーレム気質ですよね」


「生徒会ハーレム……もしや私も頭数に入っているのかしら?」


「うぅ、皆さん顔がいい……目が潰れそう……生きていてごめんなさい……」


 ハルカと佐那、委員長の反応にはツッコミを入れたかったけれども、麻美ちゃんがガクガク震え始めたのでそちらへの対応を優先することにする。


「麻美ちゃん。そんなに自分を卑下してはダメよ?」


 麻美ちゃんの隣に座り、彼女の両手を優しく包んだ。


「自信を持って? あなたはとても魅力的な女性なのだから。たしかにハルカたちみたいな見た目の派手さはないかもしれない。でも、あなたにはあなたにしかない魅力があるのだから」


「はわ、はわわわわ……!?」


 椅子を引いて逃げようとしたので麻美ちゃんの腰に手を回して引き寄せる。

 必然、お互いの息がかかるくらいの近距離で麻美ちゃんの瞳を見つめた。


「特に、この瞳。自分よりも他人を優先することができる優しい色。自信がなさそうに揺れることが多いけれど、それでも、いざというときには強い意志を宿すあなたの瞳が――私は大好きよ?」


「…………、……か、」


「か?」


「顔が良い……」


 がくりと気を失う麻美ちゃんだった。口から魂(エクトプラズム)出ちゃってるのは気のせいかしら? 一応押し戻しておきましょう。ぐいぐいっと。


「女たらし」


「女たらし」


「……リナちゃん。あなたの妹はこうして立派な女たらしに成長しちゃったのよ」


「うぅ、私がもっと早く杏奈を見つけていればこんな女たらしには……天国のお母さん、ごめんなさい……」


 怒濤の四連女たらし扱いはまぁいつものこととして。顔もおぼろげなお母さんを持ち出すのは止めてもらえませんか? 罪悪感が半端ないので。


 とりあえず魂を押し戻しておいた麻美ちゃんはすごくいい顔で気絶しているから生徒会室備え付けのアウトドアベッド(前の生徒会長の私物)で寝かせておきましょう。


「あ、女たらしと言えば」


 どこか演技っぽく委員長が両手を胸の前で打ち鳴らした。


「杏奈ちゃんはよく『女の子はみんな美少女』とかほざいているけど、実際問題としてあまり可愛くない子もいるわよね? そこのところはどうなの?」


 純粋な疑問――というよりは確認かしら? 転校してきたばかりのリナに対して、私はこんな人間ですよ~と端的に教えるための。


 ハルカや佐那は色々頼りになる親友だけれども、こういうフォローはあまりしてくれないからね。委員長の気遣いに全力で乗っかることにする。


「ふふん、わかってないわね委員長。人間どこかしら可愛いところがあるものなのよ? 顔はもちろんのこと性格とか、声とか、指先とか」


「指先でもオッケーなら何でもありやん」


「女の子褒めなきゃ死ぬ病気なんですか?」


「なんでこんな女たらしになっちゃったかなー?」


 なんだかいつものツッコミにリナが加わってしまった。親友二人にも劣らない親しさを感じられるわね。

 ふっふっふっ、こうして私が道化になることで10年近く途絶えていた姉妹の絆が大復活するって寸法な訳よ。


 私がきらりーんっと目を輝かせていると委員長は逆にとても冷たい目を向けてきた。


「はいはい。でも、とてもじゃないけど可愛いとは言えない子もいるわよね。容姿はまぁ杏奈に何言っても無駄だろうから省くけど……性格が悪い子もいるでしょう? イジメをしていたり、榛名坂高校では援助交際している子もいたみたいだし」


 ちょっと前に近くの榛名坂高校の教師が援助交際してクビになり、実は教え子にも手を出していたんじゃないかと噂になったのだ。


 うん、たしかにそういうことをする子は可愛くはないわね。

 でも委員長は勘違いしているわ。


「そういうのは『女の子』じゃなくて『ダメ人間』とか『人間のクズ』とか言うのよ? つまりはノーカウントね」


「都合良すぎない?」


「私の趣味嗜好を決められるのは私だけよ!」


「はいはい」


「自分から聞いてきたくせにこの興味のなさ。さすがは委員長(ドS)である」


「人の名前に変なルビ振るの止めてもらえない?」


 委員長といつも通りいちゃいちゃしていると、



「――会長! やっと会えました!」



 勢いよく扉が開き、生徒会室に入ってきたのは後輩の舞弥ちゃんだった。今日も元気にポニーテールが踊っている。


 やっと会えたって、昨日も会わなかったかしら?


「もう! 朝一番で教室に向かったらいないですし! 休み時間は人がいっぱいで近づけないですし! どうなっているんですか今日は!?」


 朝は学園長室でアホなやり取りをしていたし、休み時間はリナ目当ての生徒でごった返していたものね。そう考えるとやっと会えたと愚痴りたくなる気持ちも分かるわ。


「舞弥ちゃんそんなに私に合いたかったの? まぁでもしょうがないわよね。私ってばアイドル級の美少女だし。心は瀬戸内海より広いもの。毎日毎時間会いたくなってしまう気持ちも分かるわ」


「自分でアイドル級言い出したでコイツ」


「瀬戸内海ってところが自信あるのかないのか微妙なところですよね」


 ハルカと佐那のツッコミをBGMのように無視して舞弥ちゃんが詰め寄ってくる。


「会長! 出たんですよ! オバケですよオバケ!」


「あ~、オバケねぇ。そりゃあ元墓地なんだから出るんじゃない?」


 もう幽霊関係の相談が来すぎて感覚が麻痺しつつある私だった。


「墓地に立っているんですかこの学校!?」


 一年生である舞弥ちゃんは知らなかったみたいだ。この学校が元墓地で古戦場でついでにいえば旧軍の人体実験施設があった系の噂話があることもご存じないのかしら?


「ひ、ひえぇええ……」


 なんだか舞弥ちゃんの反応が面白かったので、意味深な目線を彼女の背後に移す私。


「……あ、舞弥ちゃんの後ろに……」


「後ろに!? 後ろに何がいるんですか会長!?」


 ガクガクぶるぶると震え出す舞弥ちゃんだった。ちょっと癖になりそうね。


「よくもまぁ人のことをドSとか言えたものね」


 委員長から冷たい目で見られてしまった。ちょっと癖になりそうね。





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