第2話 親友二人





「――同性でもセクハラは成立するんやで?」


 登校後。今朝の出来事を語って聞かせると親友その一・ハルカが呆れたようにため息をついた。


 日本人にしては色素の薄い髪を後ろで一つに纏めていて、ちょっと垂れ気味の目やチラリと覗く八重歯が可愛らしい美少女だ。うん、胡散臭い関西弁(関西出身ではない)がなければ完璧な美少女なのにねぇ……。


 ハルカの残念美少女っぷりはいつものことなので、ここはセクハラ扱いに反論しましょうか。


「失礼な。セクハラじゃないわよ。遠くから私に会いに来てくれた感謝を行動で示しただけで」


 私が至極真っ当な反論をしていると、


「……杏奈ちゃんじゃなくて『待宵リナ』に会いに来たんでしょう? どさくさ紛れすぎませんか?」


 遠慮がちながらもズバッと言い切ったのは親友その二・佐那。今では創作の中でも中々お目にかかれない前髪目隠れっ子。烏の濡れ羽色をした後ろ髪も腰まで伸びているので、黒セーラー服も相まって全体的に真っ黒な印象の女の子だ。


 黒髪、敬語、目隠れと。特徴だけ見ればオドオドしていそうなものだけど実際はツッコミのキレが鋭かったりする。


 そんな親友二人に対して私は肩をすくめてみせた。


「ふふっ、あんなに可愛い子が向こうから寄ってくるのだから『待宵リナ』のそっくりさん扱いも許せる気がするわね」


「即物的やなぁ」


「普段はあんなに文句言っているのに。現金ですよねぇ」


「顔もつやつやしとるし」


「可愛い女の子から精気でも吸い取ったんじゃないですか?」


「杏奈ならやりかねんなぁ」


「杏奈ちゃんですしねぇ」


 親友二人から悪霊(?)扱いされてしまう私だった。……私たち、親友よね?


「そもそもなぁ、そっくりさん扱いが嫌ならその特徴的な“銀髪”を染めればいいだけやしな」


「髪色と髪型が違えばずいぶんと印象も変わるでしょうしね。それをしないのだからやはり寄ってくる美少女目当てなのでは?」


 なぜだか冷たい目で見られてしまう私。


 わかってない。

 わかってないわね親友。

 わかってない親友二人に説明するために私は立ち上がり、胸に片手を当てながら叫んだ。


「待宵リナのそっくりさんであるせいで一方的に迷惑を掛けられているのに! 私の方から髪を染めたら“負け”でしょう!」


「……いったい何の勝負をしとるんや?」


「負けず嫌いが変な方向に暴走してますよね」


 呆れの視線にめげることなく私は続ける。


「むしろ待宵リナの方が髪を染めるべきよね常識的に考えて!」


「お前さんの常識はどうなっとるんや?」


「まぁ、杏奈ちゃんに常識を求めてもしょうがないですし……」


 今日も佐那のツッコミのキレは抜群であった。泣いていいかしら?


「ま~杏奈がアホなのはいつものこととして、やな。昨日の『おしゃべり9』見たか?」


 おしゃべり9とは日曜夜9時からやっている人気番組だ。大御所お笑い芸人がゲストを招いての軽快なトークが好評である。らしい。


「見てないわねぇ」


「なんや、昨日は例の『待宵リナ』が出とったのに見てないんか?」


「だからこそよ」


 彼女、私でも自覚してしまうほどに『そっくり』なのだ。毎朝鏡で見ている顔がテレビに出ている違和感、ぜひとも理解してほしいところ。


「私は見ましたよ。泣けるお話でしたよねぇ特に生き別れになった双子の妹さんの話とか」


 じろじろ、じーろじろと私に視線を寄越す佐那。私がその『生き別れの双子』じゃないのかってこと?


 う~ん。

 私はちょっと特殊な人生送ってきたから可能性はゼロじゃないと思うけど……。

 ほら、あれじゃない? 世の中には似た顔が三人いるってヤツ。


「世にも珍しい“銀髪”で、しかも顔までそっくり。トドメとばかりに同い年。そんで双子じゃなかったらビックリやな」


「ふふふ、分かってないわねぇハルカ。この世には不思議なことがいっぱいあるものなのよ?」


「不思議の爆心地である杏奈が言うと説得力あるわぁ」


「爆心地って何よ爆心地って。こんな平凡で不思議要素の微塵もない私を捕まえて」


「……平凡ってのはな、普通の人間をさして言うもんなんやで? 杏奈は知らんのかもしれんけど」


「普通じゃないの。私なんてちょっとアイドルに似ててちょっと霊感があるだけの普通の女の子(ノーマルピーポー)なんだから」


「いやキャラ濃いわ。霊感がある時点で普通やないし」


「そもそも杏奈ちゃんの霊感は『ちょっと』どころじゃないですし」


 親友二人からの大合唱だった。まったく二人は冗談が下手ねぇ。


 私が肩をすくめていると先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。





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