第43話 ビーストキリング 後編
「作戦開始。」
施設から銃声と悲鳴、爆発音がする。作戦が始まったのだが、俺達はそれどころではない。
風間を取り押さえたが、奴はまだ喋った。
「スマトッグだ。血も涙もない奴らにまかせて、俺達は帰ろうぜ、なぁ!」
俺と同じ伍長の石見はすべての感情が欠落した顔をして、銃を抜いた。
スマートリンク・アクティブ
俺は素早く照準した。
「
「営倉?監獄?この俺が?」
石見は自分の拳銃を眺めた。
「こいつと一緒に地獄行きだ。」
石見が拳銃で風間を狙うのと、俺が風間の肩を撃つのは同時だった。
石見は前からキレると必要以上に暴力的になる性格だった。
石見が銃を落とし、皆が取り囲んで引き倒した。
何かを喚く石見を皆で取り押さえた。
「手錠、手錠はないか!」
「スカーフをこんな風につかうとはね。」
誰かの首に巻かれていた赤いスカーフで石見の手首をぐるぐるに巻く。
「何やってんだ!お前ら!」
雷のような声で近藤軍曹が叫んだ。
「風間は無気力、伍長は風間を撃とうとしました。」
「俺が馬鹿2人を後方に移動させる。お前達は作戦を速やかに開始しろ!」
「了解!」
俺の目には近藤軍曹の存在は違和感でしかなかった。
「近藤軍曹!我々はB地点にいますよね?」
「それがどうした?平野。」
「軍曹はC地点にいるはずでしょう?パワードスーツも着ないで何やってるんです?」
ついでにオーラ視した。
アメフラシのひだのような紫のオーラ。青をベースとした赤い成分は、おそらく血のエネルギーだ。
「切人雷蔵!」
俺がガラティンを構えると切人が姿を戻し、紫のオーラが吹きだした。
「どういうことだ?」
「この俺はついに、河童を超え古代の
突然変化した切人に銃弾が浴びせられるが、すべての弾が切人をよけて通り抜けていった。
「撃つな!味方に当たる!」
「獣よ!」
切人が獣を呼ぶ。
7つの頭と十本角をもつヒョウが、ドムスから走ってきた。
エメラルドグリーンの最新鋭パワードスーツに身を包んだスマトッグ隊が獣を追いかけるように外にでる。
切人のオーラが仲間を捕らえ、空中で血を啜り上げた。
「うわぁぁぁ!」
その光景は、俺が幻視した内ゲバの光景と同じだった。
「俺は不死の存在に限りなく近づいた!貴様らの血と生命をもって、また新たな教団を創らせてもらうぞ。」
切人の瞳が赤く燃える。完全に化け物になったようだ。
ふと近くを見ると、水筒のカップを手にした梶原がウンディーネを呼んでいた。
ウンディーネが紫のオーラをかき分け襲われた仲間を助け出す。
「ほぉ?」
切人の攻撃的オーラが俺と梶原を食い尽くそうと襲う。
俺は尻子玉に気合を入れて、緑のオーラを発した。
梶原が一歩前にでた。
夏に吹く濃いグリーンと澄んだオーシャンブルー、そして毒物を思わせるバイオレットが重なり、現実の世界で火花を散らす。
「僕が相手だ。」
「どなたかな?」
「鉄道警ら隊の
「俺も相手だ、切人。」
俺はガラティンを置いてナイフを手に進んだ。
「ここで決着をつけてやる。」
「二対一とはまるで卑怯くさいな、平野。」
切人は余裕の笑みを浮かべる。
「そうかな。化け物になったてめーより正々堂々としてるぜ。」
「減らず口の好きな男だ。」
来る!
切人がオーラを打ち込んできた。
俺が風のオーラで対抗するが、貫通して梶原のオーラまで食い散らした。
「くっ。」
梶原が力を行使し、ウンディーネが水の槍を持つ。
ウンディーネが槍を投げた。
切人のオーラを切り裂いたが、オーラは分厚く槍を受け止めた。
「ふん。」
切人が金杯を取り出すと、金杯の中身が血で一杯になり、血が刃に変わった。
「おら!」
俺が加護したナイフで刃をふるう。
「この!」
梶原はコップを握りしめると、水を刃に変えて切人に斬り込んだ。
ナイフと澄んだ水がドロリとした血液とぶつかり合い、水流により弾き合う。
切り結び合いになった。血液に気をつけながら、切人の急所を狙う。
仲間たちはこちらへやってくる獣に銃撃していた。
スマトッグの隊員の1人が宙を飛んで獣に取り付く。
獣は身をよじりながら向かってくる。案の定、銃があまり効いていない。
切り合いから距離があいて、俺は叫んだ。
「梶原!獣を頼む!俺は切人を討つ!」
「了解!」
梶原が踵を返した。
「そうはさせん。」
切人が梶原へオーラの牙を飛ばした。
俺はオーラで牙を囲むように受け止める。
「おっと、お前の相手は俺だ。」
「貴様。」
切人が尖った歯を剥いて苛立った。
「言ったろ。決着をつけると。」
俺は気を練ることに集中した。
風のオーラが俺の中を吹き荒れる。
「エア!」
緑の塊であるエアを召喚する。
「デイゴン!」
切人は魚人の体に熊の手。ライオンの頭。背中にイソギンチャクの触手を生やした新たな悪魔を召喚した。
まだこんなものを出せるのか。
「貴様に死をくれてやる!」
「要らないね!」
「なに、殺さずにおいてくれた礼だ。遠慮なく受け取り給え。」
デイゴンに先駆けて、エアが指向性衝撃波を放った。
デイゴンはオーラの世界で咆哮をあげると、衝撃波が掻き消える。
「せい!」
オーラを付与したナイフでデイゴンを切り裂く。
ナイフと鱗がガラスを引っ掻いた音を立てた。
「おおお!」
力を込める俺の背後から切人が刃で背中を切った。
身をひねってかわそうとしたが、装甲が貫通して綺麗に切られた。俺は宙を飛び跳ねて距離をとった。
背中が痛い。拍動とともに血が抜けていく感じさえする。
現実世界ではナイフは宙に浮いていた。デイゴンに刺さったままだ。
俺はダタラ45を抜いて弾に風の魔力を込めた。トリガーを絞る。
切人がデイゴンを庇うように前に出た。切人のオーラは俺の放った弾丸はコースをずらされて、あらぬ方向へと飛ぶ。
「無駄だ。姑息な策も無かろう。」
そうだよ、畜生。ダタラ45をしまうと風の五芒星を描いてナイフに魔力を賦活させた。
「くらえ!」
梶原が叫ぶ。
ウンディーネの投げやりが獣の体に深々と突き刺さる。
獣がよろけた所を、思い思いの武器で攻撃した。
最後は鋭い独鈷杵を手にした宇梶が獣の胸にあいた穴に突き刺すと、獣は全身を弛緩させて死んだ。
「平野伍長を助けよう!」
梶原が叫ぶ。
「馬鹿な、獣を倒すだと!?」
「うちの軍のビーストスレイヤー梶原を舐めるなよ。」
俺は適当な事を言いながら、銃を構えた。
「エア!切り裂け!」
「デイゴン!殺れ!」
エアが大気を操作して、かまいたちを起こす。
砂粒が音速で舞うが、切人には効かない。
「無駄な真似を!」
俺は土煙に紛れて宙を蹴り飛び、切人の背後におりた。
「ぬっ?」
マッスルブースト・アクティブ
俺は思い切り切人の顔面を殴り飛ばした。
下顎骨が折れるほどの一撃。
更に、ディゴンに刺さっていたナイフを引き抜き、切人の胸に突き刺そうとした。
金の杯の刃がナイフを受け止めた。
「うおおおぉ!」
俺は満身の力を呼び起こし、全力で突く。
「ぬうううぅ!」
刃と刃が火花を散らす。
マッスルブーストされた俺の筋力に切人が恐ろしい膂力で返してきた。
「やれ!梶原!」
「ウンディーネよ、お前の投げ槍を!」
ウンディーネが水の槍を切人に投げた。
切人がオーラで槍を防御しようとする。
今だけは奴のオーラが手薄になった。
俺は今度こそダタラ45を切人の腹に押し付けた。
「何!」
トリガーを引く。1発2発3発。
「ぐふっ。」
切人は撃たれるたびにずれ落ちていき、倒れた。
「この程度では、俺は、死なん。」
「風よ。」
俺は切人を加護し、オーラを混ぜて対消滅させた。
赤い雨が降った。雨からは鉄の味がした。
「これで終わりだ。オーラを失えば、お前もただの河童だからな。」
「ふざけるな、水虎はこの程度では死な…」
バババババッ!
銃声がした。スマトッグだ。
切人の身体は銃声の度に痙攣し、倒れて動かなくなった。
切人は死んだ。あっけなく。
そして、デイゴンが切人の身体を、あっという間に飲み込んだ。
そのまま血の雨の中に溶けて消えていく。
死体は残らなかった。
悪魔と契約していた者が、魂をとられたのだ。
「き、消えた。」
スマドッグの隊員たちが絶句し、俺は呆気にとられていた。
やがて、スマトッグの隊員が俺の所へやってきた。
「よくやった、貴官の名は?」
女の声がした。
「平野三平伍長です。」
「ほう。鉄道警らで少佐が言ってた逸材はお前だな。それと、そこのお前の名前もおさえておこうか。」
「僕は梶原樹上等兵です。」
「貴官たちが一番動けていた。オーラ使いなのもわかっている。貴官らはスマトッグに来るべきだ。」
「俺達は鉄道警ら隊なので、その、」
「鉄道警らか。どうせ地上部隊と合併される。」
俺達は驚いた。
「地下の安全を担保するために合併吸収され、近く再編成を受ける。平野と梶原は地上部隊に置くのはおしい人材だ。スマトッグに入れば、それなりの給料と地位が保証される。考えておいてくれ。」
スマトッグ隊が手を振る。
「ススス、スマトッグに、に、入隊とか凄すぎる。」
梶原が興奮して吃音になる。
「落ち着け。」
「どっちみち再編成でバラバラになるんだったら、僕らスマトッグにかけてみませんか?」
「後でゆっくり決めよう。」
俺はため息をついた。全てに疲労していた。悪夢は終わったのだ。
切人は死んだ。
世界の危機を救ったわけだが、脆弱な法の裁きよりも銃がものをいう結末だった。
咲月に事の顛末をすべて正直に喋れず、俺は切人のオーラが弱った所でスマトッグがトドメを刺した。とだけ言った。
彼女は感情が溢れ出して、泣いた。俺は彼女を抱きしめた。俺は咲月の本当の恋人になった。
俺はスマトッグにいくことを決意した。
梶原は最後まで考えた挙げ句、尻込みしながらスマトッグ入隊を決意した。
地上。
天使と人型戦車が戦うバトルフィールドで、俺達に何が待つのか。
それは神のみぞ知るところだった。
完
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