第42話 ビーストキリング 前編

 俺は夢をみた。

 これで何度目だろう。未来予知ヴィジョンだ。

 地下より更に地の底。

 つまり、赤軍連邦のアジトに切人がいた。

 赤軍連邦の赤い旗。その下半分を青くした新たな国旗が示される。

「革命の戦士諸君。我々の理想たる社会主義国、妖怪人民連邦樹立の思いを同じくするため、我々は信仰を捨てた。十字架を踏み、毒である宗教を捨てて革命のために君たちの不屈の意思と我々の力とを今ここに合わせ、力強く邁進する。神聖十字軍の誕生である!」

 切人が歌うように演説した。

「どうだかな。宗教にかぶれたプチブルの戯言たわごとにしか聞こえないね。」

 切人の次に発する言葉を遮るように、片目に傷のある河童が刀を手に前に出た。

 妖怪神国指名手配犯、古奈可歳三こなかさいぞう。他にも赤軍連邦主要メンバーつまり指名手配犯のオンパレードで揃っていた。

「君たちは最後まで神聖十字軍の発足に賛成ではなかったね。」

 切人が獲物をみて唇を舐めた。

「当たり前だ!赤軍のセの時もないじゃないか。」

「内ゲバはこの手の華だと知っている。君はいかなる総括も恐れない。自己批判もやらない。そうだったね?」

「ああ。ビビるものは何もねえ!」

「結構。今宵の我々の生贄になっていただこう。」

「何っ!?」

「古奈可たち旧赤軍連邦1派の死をもって、我々の新たなる世界の夜明けとする!御旗を崇めよ!」

 革命万歳!革命万歳!革命万歳!

 古奈可が宙にうく。オーラ世界では切人の増長したオーラが古奈可を捉えていた。

「ギャアアアア!」

 古奈可の皮膚という皮膚が裂け、血液が赤い霧にかわった。霧は切人のオーラがヒルのように啜り込み、ヘモグロビンがヘモシアニンの青い色となって、魔人切人の霊的エネルギーに吸収された。

「ひぃ。」

 1派と言われた妖怪たちが銃を発砲するが、切人には当たらなかった。

 1人、また1人と古奈可と同じく切人の生贄になった。オーラによる踊り食いだった。

 すべてが終わった時、革命万歳の声はいつの間にかハレルヤ切人、ハレルヤ雷蔵、ハレルヤ神聖十字軍という文句に変わっていた。

「来い、我が宿敵。気の弱い小市民のお前には、最早この俺は殺せん。トオノセントラル駅の近く、我らが家で待っているぞ。」

 切人が今度こそ俺の目を見てニタリと笑った。


 場所は見当がついた。

 俺は咲月を起こし、事の経緯を語った。

「本当に奴はそこにいるといったのね。」

「ああ。トオノのセントラル駅近く。そこに奴らのアジトがある。」

「分かったわ。上に報告しないと。」

「俺は、行かなければならない。奴と決着をつけねば。」

「奴を殺すか貴方が死ぬか、どっちも貴方には起きてほしくない。奴は捕まえて絞首台に送るべきよ。」

「獣だけじゃない、奴は生贄によって莫大な妖力を手に入れたようだ。殺らなきゃ殺られる。」

「なんで貴方がそんな罪を背負わなきゃいけないの?」

「守りたいものを守りたいからだ。」

 俺は咲月の手をとった。

「咲月さんを、家族を、世の中を守りたい。碌でもない俺だが、殺人のバチが当たるなら俺1人で十分だろ。」

「ヒーロー気取りはやめて。せめて、時間を頂戴。裏がとれれば、軍との共同作戦というのもきっとあるから。」

「…。」

 俺は答えられずに沈黙した。やがて、沈黙が答えになった。



 咲月はそれから裏取りをやった

 俺は夢でみたアジトの詳細を伝え、咲月はその情報を土台に場所の特定や人の出入りなどを調査していく。

 家に帰らない日もあった。

 ようやく目処がたつと、公安の上司らが重い腰を上げた。

 切人や指名手配犯の一斉検挙と獣の排除。

 警察力だけでは対処しきれないだろう大規模な抵抗が考えられる。

 そこて、公安警察と軍による共同作戦が立案された。


 赤軍連邦のやり方にも終末十字軍の狂気にも反発しておいて、粛清されてなかった者が内通者となって具体的な情報が引き出された。

 施設の規模、人数、武器、その他諸々。


 そして、作戦は立案された。


 妖怪神国最高機密かつ地下世界最大の攻撃軍事作戦、ビーストキリング作戦が行われようとしていた。


 ブリーフィングではこうだ。

 ラテン語で家という意味のドムスと呼ばれる宗教施設が、今回のターゲットだ。

 その中に赤軍連邦の幹部と終末十字軍が垣根を超えて寝泊まりしている。武装した40人から50人の神聖十字軍の他にも非武装の信者も含めるとちょっとした集落になっていた。

 基本的に逮捕するのが望ましかったが、武装せずとも怪物に変化する可能性がある。


 故に、全員を排除する。


 目標は切人を含む全員の無力化、及び巨大生物の殲滅。

 要は、皆殺しということだ。

 1人たりとも生かすな、という指示に隊員の空気が重くなった。


 俺はパワードスーツを着て、ガラティンを持ち、ダタラ45と水筒を腰に納め、銃剣でなく大型ナイフを太ももに下げた。

 輸送車両でのトオノへの道のりは、どこか遠く感じた。

 誰もが無言。レールのゴトンゴトンという音だけが響く。


「スマトッグが動くらしい。」

 どこからともなく誰かが話す。

「なら俺達が出張らなくてもいいよな。」

 別の声がため息を漏らす。

「萎えること言うなよ。いつものようにやるだけだろ。」

「そうだな。テロリストをいつものように排除する。それにあたって逮捕しないだけ。それだけだよな。」

 匿名の声は最後は独り言になり消えた。


 本当は誰もが同族殺しなんてしたくないのだ。

 相手はテロリストだ。天使と同じ脅威だ。

 そう思ってないとやってけない。


 トオノの駅についた。

「全員降車!」

「よしっ!」

 俺は気合を入れた。

 降車した後は作戦だけを考える。

「ノロノロするな!」

 珍しく声が上がる。

 兵士の一部が、スローモーションのような動きを見せ、歩く者や牛歩する者が出た。

 興奮した下士官の石見が不良兵士を殴った。

 不良兵はそれすら無視する。

 何度も執拗にビンタを受けていたが、不良兵が下士官を銃の床で殴り返した。

「何だ何だ!?」

 慌てて2人の喧嘩を止める。

「風間!貴様は営倉行きだ!」

「無抵抗な奴を殺しにいくよりマシだ!」

「何だと!?」

「俺は天使も化け物も武装したテロリストも殺せるが、無抵抗な市民を殺す真似は出来ない!」

「お前!いい加減にしろ!」


 その時、ターゲットのトオノセントラル駅の脇線にある施設から、銃声と爆発が響いた。

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