第34話 逮捕
鉄道警ら隊のパワードスーツは貴重な戦力だ。
結局、俺もかり出された。出番というわけだ。
俺の手には銃剣つきの308バトルライフルが握られている。
ダタラ社は他にも45口径が15発も撃てるダタラ45ハイパワーモデルをくれた。サブウェポンで腰の後ろのホルスターにおさめてある。
ふう。大丈夫。
俺は萎える自分に言い聞かせる。
大丈夫。きっと大丈夫。
水道管がある秘密のトンネルへ現着した。
言うまでもなく、水道はライフラインとして重要だ。
水道管については大まかにしか知られていないし、地下だけでなく地上にもあるという水道局では常に厳戒態勢をしいている。
警備が厳重な所にわざわざ毒を流しに行くのか?
俺は疑問に思った。
誰もが疑問に思うところに油断がある。
にがよもぎ計画は警備の弱い箇所を狙ったものらしかった。
俺とパワードスーツ部隊が電気トラックから降りる。地下で大気汚染は危険なため、電気自動車が普及している。
ちなみに
オーラ視する。切人は感じない。
白く輝くオーラをちらほら感じる。
スリエルだ。
奴らは魔術的に紛れもなく天使の一種と分かった。
警備の緊急通報によって、終末十字軍兵士との即時交戦が予想されるとした事前の慌ただしい
「会敵なし。」
植松曹長が首を傾げる。
「
近藤軍曹が通信したとき、いきなり轟音と共に煙を上げて何かが飛んできた。
ズンッ
爆発する。ロケットランチャーが発射されたのだ。
慌てて銃口を向けたそばから銃撃された。
終末十字軍だ。
連中の足元を見ると、警備の兵士の死体があった。
無線で戦闘を偽装し、俺達を狙って強襲する。
そういうことか、畜生!
「ハレルヤ!」
頭の茹で上がった信者らが銃撃してきた。
スマートリング・アクティブ
素早く照準し、引き金を引いた。
「天の国へ!」
信者の1人が突撃し、玉砕と引き換えに自爆した。
爆発と粉塵に巻き込まれ、パワードスーツ隊が体制を立て直そうと後ろへ下がる。
俺達は兎に角、遮蔽物に隠れた。
スマートリンクの照準を合わせ、命中させる。
できれば殺さず確保したい。
青い水のオーラ。切人が来た。
「エロヒムイッシームエロヒムイッシーム…」
呪文を唱え、切人が天使を召喚する。
アバドンを引き連れたアバドンレークスがあらわれた。こいつらも天使だった。
アバドンレークスが獅子の咆哮を上げた。
スリエルが咆哮にブルっと震え、大群でやってくる。
なるほどアバドンレークス、アバドン、スリエルの順で天使の格の上下があるらしい。
俺は銃剣を外し、左手に逆手持ちした。
射撃しながらオーラを放つ。
力ある風を呼ぶには立ち止まって戦うことになる。それはマズい。ここは召喚だ。
「来たれ大気の霊よ。エアよ。」
俺は銃を撃つのをやめ、左手で風の五芒星を描く。
パワードスーツからでも浮かび上がる腕の輝きにまかせて、五芒星の中心に腕を突っ込んだ。
緑の
「まさか、
拡張された五感が切人の音声をとらえ、怒りで髪の毛どころか産毛まで立った。アドレナリンで瞳孔が開く。
銃撃戦のなか、俺と切人が歩きあう。
ビビったら負けだ。
「何をやっている!伍長!伍長!」
俺は無線を切った。
ずんずん歩く。
手榴弾が飛び交い、銃撃と爆発が起きる。
ずんずん歩く。
化け物が風のオーラを発する俺を無視した。
ずんずん歩く。
とうとう睨み合うくらい俺と切人は接近した。
「この俺の邪魔ばかりしおって。貴様だけは許さん。」
「許さないのはこっちだ。天の国とやらの前に、俺が地獄に送ってやる。」
切人が青いゴブレットを手にした。
「魔術的にも肉体的にも、貴様はこの俺の手で始末する。」
「今度は逃げるなよ、カエル野郎。」
俺は小銃を背中に吊るし、銃剣を握った。
「ゴオログル!」
「頼むぞ、エア!」
悪魔と精霊がそれぞれの傍らに召喚される。
妖気が限界まで満ち、魔術戦が始まる。
「取り込め!」
「切り裂け!」
下から噴出した黒い水が俺の身体を這い回り、切人が見えない刃に軍服を切り裂かれた。
俺がオーラで黒い水を吹き飛ばし、構えた切人に銃剣を向ける。
ゴオログルがエアの緑の体をイソギンチャクの触手で絡めとった。
エアは大気を振動させ、触手をはねのけ拮抗する。
切人がゴブレットの中の液体に命じて刃をつくると、俺に斬りかかる。
俺はそれを緑に光る銃剣で受け、蹴りを放った。
俺はオーラで切人のオーラを横殴りにあおいだ。
生贄により切人のオーラは膨れ上がっており、俺の一撃を正面から受け止める。
オーラが物理干渉を起こしながら放電した。
イオンの匂いのする攻撃的オーラがアバドンやスリエルにあたった。
霊的存在でもある彼らはオーラの力を浴びて耐えきれず、内側から破裂した。
ここまで互角かそれ以上の戦闘を展開しても、長期戦になると俺には不利だ。
風の霊では凶暴な悪魔には勝てない。霊的には俺は負け、感覚や正気を失う可能性がある。
だが、やるしかない。
悲壮な覚悟と裏腹に、俺の生命力は尻子玉から竜巻のように身体を駆け巡っていた。
「教祖様が危ない!」
俺は撃たれた。
だが、弾丸は俺を避けていく。
「教祖様と、同じ力だと!?」
ビビったら負けだ。
「どうする?お前の信者が失望してマインドコントロールが解けちまうぜ?」
恐怖を抑え込んで切人を煽る。
「ほざけ!ゴイログル!そいつらを食って受肉せよ!」
ゴイログルがエアを攻撃するのをやめ、終末十字軍の信者に嘴を開いて食らいついた。
現実では信者の上半身と下半身が突然泣き別れして、代わりにゴイログルが出現した様に見えるはずだ。
こいつ、信者を物としか思っていない。
俺はホルスターを抜き、新品同然のダタラ45でゴイログルを撃った。肉に弾が突き刺さるもダメージがない。
受肉したことで力が倍加する上、ゴイログルには銃が効かないようだった。
「ゴイログルよ、水に交わり毒となれ!」
切人の命令に俺は戦慄した。
ゴイログルの身体自体が毒なのだ。
こいつを水道管の中に入れてはいけない!
俺はエアに命じた。
「エアよ!お前の力を我が刃に与えん!」
風の
俺はゴイログルを突いた。
焼けた鉄板に生肉がのったようなジュッという音をたててゴイログルが苦しむ。
ここで俺のオーラの力がガス欠を起こした。
そんな、嘘だろ…。
切人が逆十字を切った。
それに呼応するように、ゴイログルが嘴をひらく。
負けるか!ここで負けてたまるか!
俺は精神力を振り絞る。
「死ね!」
切人が勝利の笑いをもらす。
金の入れ墨を輝かせ、俺は刀身をかろうじて光らせ思い切りゴイログルを切り裂いた。
ゴイログルが俺に頭突き、いや体当りする。
とんでもない力で俺はふっとばされた。
俺の身体が宙に浮き、壁にぶち当たる。
「うう。」
装甲、ダメージ
駆動系、低下
背中から壁に亀裂が走るほど叩きつけられて俺はうめいた。ヒビの入っていた肋骨が完全に折れた嫌な感じがした。
腕の金色だけが普遍のものであるかのように輝く。
奴のオーラの力は個人がもてる最大限まで高まっている。
対して、俺のオーラはもうすぐ出なくなるだろう。疲労困憊だ。
悪魔ゴイログルは水道管のあるほうへ浮いていっている。
コンクリートや水道管を破裂させて中に入り込むつもりだ。
どうする?
息をするのも痛みが走るなか、俺は逆転の発想にでた。
「風の加護よ。」
俺はありったけの加護の力を、切人に集中させた。
切人の莫大なオーラが一気に膨れ上がる。
「敵を
「こうするんだよ!」
金の隠し入れ墨の力をありったけ流しこむ。
力を限界まで加速させた。
「なんだ?…オーラを、魔術を保てない。」
切人が困惑する。
デカいオーラに振り回され、切人に過大な負荷がかかる。
受肉したゴイログルがコントロールを失い地に落ちた。
アバドンレークスか切人の命令を離れてキョトンとするのを植松曹長らが見逃さず撃ち倒した。
風と水で陰陽印を描き、ぐるぐると混ざり合うように動かす。
小さい風のオーラが水のオーラを吸い込んで、2つの力が一気に対消滅を起こした。
俺と切人のオーラが爆発を起こして瞬時に消し飛び、2人とも霊的に無防備になった。
現実世界で優位だった水のオーラが物理化し、霧と雲が発生したのち、地下に雨が降った。
悪魔ゴイログルが雨に融解してみるみる沈みこみ、骨も皮も残らず水の中に溶けていった。
雨の溜まったところは苦くなり、飲めば人が死ぬ毒水になったのだろう。
危ないところだった。
「まさか、2つの力を相手に与えてオーラのコントロールを暴走させるとは。」
「これで魔術も使えないだろ。」
パワードスーツが雨をはじく。俺は息を浅くした。またヒビが入ったのか、肋骨が猛烈に痛い。
気力でダタラ45を切人に向ける。
殺そうとしたが、咲月の言葉が浮かんだ。
奴を逮捕して、法の裁きを受けさせる。
確かにそういった。
俺の良心の声かもしれない。
奴を殺すべきか、捕まえるべきか。
生殺与奪を握って、一瞬銃口が惑う。
俺は切人の足を撃った。
弾が当たって切人が膝を折る。
切人が悲鳴をあげた。
「ここで殺しはしない。てめえには妖怪神国の法の裁きを受けてもらう。捕まるか死ぬか、どっちか選べ。」
「下らん。」
撃たれた膝を押さえて切人が歯を食いしばって笑う。ヒヒヒと聞こえた。
「そんなことにこだわるとは。俺を殺さん限り、戦いは終わらんぞ。」
「てめーを殺したい気持ちは人一倍強いんだがな。ケジメをつけて明るい人生を歩いてもらいたい人がいるもんでね。」
「あんな女ごときに気兼ねするとは。馬鹿な奴だ。」
「馬鹿で結構。オーラも消し飛んだ今、もう逃げられないぞ。」
「逃げるつもりはないな。逮捕されてやるよ。どうせ俺のために信者が動いてくれる。無駄な逮捕だな。」
「どうだかな。」
天使を倒し信者を拘束したパワードスーツ隊員が、俺達の所へくる。
切人はあっさり身元を拘束された。薄ら笑いを浮かべていたが、これでいいと思った。
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