第23話 魔人
「全員、降車!」
皆で駆け出す。
「っしゃ!」
誰かが気合を入れていた。通信的にパワードスーツ隊の誰かだ。
スーツ起動。
スーツ適合率、92%
オールグリーン
マッスルブースト、アクティベート
俺はガラティンを軽々と担いだ。
「頼みますよ、伍長殿。」
また梶原上等兵のいる隊だ。
俺は頷いた。
皆でバーっと整列し、無線確認を行うと、暗がりへ向かう。
俺は胸やヘルメットから最新導入された発光ダイオード、LEDのライトをつけた。
明るい。電球と比較して物凄く明るい。
「こら、ライトだけでもうちに欲しいわぁ。」
お国訛りが聞こえる。京都弁だろうか。
「小隊、前進。」
頼もしい仲間を得たり、と門倉軍曹が鼻息を荒くした。
俺が前に出て、その周りで隊列を組み、地下を
白いLEDライトがスリエルを睨めつけた。
「射撃開始!」
ガラティンが火を吹き、転射をしたのだが、あっという間に肉塊が出来た。
「すげぇ。」
マイクが誰かの呟きを拾った。
「小隊、前進。」
自信が出たのか、意気揚々と前進する。
アバドンもどこかにいるはずだ。
そういう狙いは外れて、スリエルばかりがいた。
悪戯に弾切れをおこすわけにはいかない。
スマートリンクを起動して精密射撃で片付けていく。
「E班、スリエル発見!交戦開始!」
「H班、スリエル発見!交戦開始!」
「F班、スリエル発見!交戦開始!」
次々に入る交戦報告を聞きながら、俺は視線だけ動かして赤外線を起動する。
遠くに赤い生物反応。
「スリエルを発見した。点射で狙う。」
ヘルメットのスピーカーが俺のボイスを響かせ、遠くから射撃する。
当たった。
沈黙した。
「敵影は見当たらず。」
「小隊、前進駆け足だ。」
門倉軍曹が号令し、俺達は最奥へたどり着く。
赤外線は脇線の終点近くの小道に別の群れ、いや、集団を映していた。
「軍曹。人らしい集団を視認しました。」
「どこだ。」
「ライトあてます。」
ライトをあてると、いきなり発砲してきた。
ライトで分かった軍服。赤軍連邦だ。
将官がいた。赤軍連邦ではなく、十字模様の赤い軍服。終末十字軍だ。
写真が撮れたら、とんだスキャンダルだ。犬猿の仲だった2つの組織が、一緒に行動している。
俺がスペックと装甲にまかせて応射し、小隊が物陰に隠れて応戦する。その時、ケープを羽織った十字軍将官が、そっぽを向いた。
「エロヒムイッシーム、エロヒムイッシーム。炎の神よ。」
マイクが将官の言葉を増幅する。
「奈落の王とその尖兵を、主の名において喚び起こさん!」
将官が斜めに十字を切ると、どこの暗闇から来たのか、何体ものアバドンが姿を現した。
…こいつ、アバドンを呼び出した…?
鏡見軍曹が言ってた何かやってるとはこれか!
俺はガラティンを構えると、アバドンめがけてトリガーを引いた。
リコイルを感じながら、アバドンが白い体液を撒き散らして死んでいく。
絶好のチャンスだ。ここでテロリストどもを生け捕りにしたら、天使や化け物の詳しい情報が聞き出せるかも知れない。
将官と兵士は闇に逃げようとした。
「にがすかぁ!」
俺は雄叫びをあげ、壁に蹴りつき天井をスレスレに飛びながら、アクロバティックに動いて銃撃をかわし、ライトで敵を捉えた。
ガラティンの弾丸が敵近くの地面をえぐった。
「ここまでだ。動けばあてる。」
俺の声はマイクを通じて響いた。
「やるではないか。」
「
は?何かゴチャゴチャ言いだした。
「鉄道警ら隊の平野三平伍長だ。わかったら銃を捨てて、両手を上げろ。」
「貴様の名、覚えたぞ。」
仲間が駆けつける。
「捕縛しろ。」
軍曹の命で捕縛にかかる。
「水よ。」
切人が人差し指と小指を立てて呼びかけると、地面から黒い水が滝を逆さにしたように吹き出した。
「!!!」
あっという間に吹き出た水が消え、そこにいたはずの切人と赤軍連邦の兵が消えた。
「あ!」
「な、なに!?」
「アーメンでない者たちよ。主の呪いをうけよ。」
何がアーメンだ。テメーらはアンチキリストじゃねえか。
俺の毒づきが周囲に漏れる。
波のようにアバドンやスリエルの反応が増えていく。
山田太郎、
戦死した仲間が、俺に取り憑いた気がした。
いいだろう。かかってこいよ。
こっちは平和主義者から鞍替えしそうなほど、気も腹も立ってんだ。
「おい、伍長!熱くなるな!一旦引くぞ。」
軍曹の声で、俺はハッとした。
口に出していたらしい。
銃の弾薬は数発しか残ってはいなかった。
「了解!」
俺は最後の弾を打ち尽くす。
梶原上等兵が節約していた軽機関銃のトリガーを引き、俺は銃を肩に担いで逃げ出す。
銃は弾が無ければただの鈍器と化す。俺はライトで照らすだけの役立たずになった。
振り向いて頭部ライトで、敵を照らす。
うじゃうじゃいる。
梶原上等兵や隊員たちが銃を撃って足止めを試みるが、数が数だ。
「梶原!無茶するな!」
「分かってます!」
梶原が遅れている。
「銃を寄越せ!」
俺は梶原から軽機関銃を奪うと、片手でフルオート射撃を行った。
「走れ!」
梶原は全速力で逃げ出した。
俺は二丁マシンガンの格好で軽機関銃ライトニングから弾をばらまきながら、ステップを踏んで後ろに後退した。反動はほとんどない。
万能感と独特の高揚感を感じながら、俺は武器を両手に走り出す。
サポート機能が少ない労力で惚れ惚れする走りを実現し、部隊に追いつけ追い越せをしつつ、所々立ち止まっては後方を撃つを繰り返した。
両方とも弾切れになり、上半身でWの字を保ちながら、指揮車両まで走り抜ける。
通信兵が連絡してくれていたらしく、出口には既に兵士が銃を構えていた。
俺は膝の上に手をあてた梶原に軽機関銃を返すと、補給班が抱えてきたマシンガンの弾帯を入れた箱マガジンを交換した。
100発の弾が並んだ弾帯の最初を挟むようにセットし、レバーをスライドさせて装填した。
「くたばれ!」
月並みな文句でフルオートする。
スマートリンクに沿って、素直に撃った。
音速からマッハの弾丸が、スリエルの波を蹴散らし、アバドンを蜂の巣にしていく。
いける、いけるぞ。俺はやれる。
そう思ったのもつかの間、スリエルやアバドンで溢れる向こうから、仲間を飲み込みながらオリゴエルが口を開き、うねりながらやって来た。
おびただしい薬莢を地面にバラまきながら、夢中で射撃を続ける。
殺傷能力の高い50口径を喰らい続けたオリゴエルはしかし、脇線を飲み込みながらこちらに迫ってくる。
「くそっ。」
とうとう指揮車両のある主戦に顔を出したオリゴエルは、兵士と列車の重機関砲を合わせての集中射撃の前に、ついに動かなくなった。
「止まった…。」
無線では
掃討戦は成功に終わるようだった。第一次の時のニの轍を踏まない作戦が功を奏したらしい。
部隊が小休止にはいり、俺がヘルメットをオープンフェイスさせて汗を拭き水分補給をしていると、尾身曹長がやってきた。
「この調子なら、朝になる前に終わりそうだね。」
「ハハ、すみません。行きでは余計なことを口走ってしまって。」
尾身曹長は、いやあれが良かった、と呟いて周囲を見回した。
「第一次の駆除作戦では、犠牲者、いや戦死者を出したからな。敵討ちに燃える皆が肩肘張って暴走して任務に支障をきたす恐れがあった。ナイスジョークだったよ。平野。」
「天使さえいなくなれば、冗談ではなくなりますけどね。」
何気なく言った言葉に、尾身曹長がふと笑みを浮かべた。
「君は下士官選抜の時に、面接官にも似たようなことを漏らしたそうだね。陽向教でもないのに、日光浴がどうとか。」
あの野郎。記録していたか。
「はい。日光浴できる平和で自由な社会に向けて頑張るが当座の目標です。」
「それは、鉄道警ら隊の範疇を超えてるよ。地上部隊やスマトッグにいくつもりかね。」
尾身曹長は眼鏡に息をあてて曇りを
「地上のことは、地上の面倒を見れる奴にまかせて、俺は眼の前の地下生物の駆除に邁進ですよ。小休止終わります。」
「頑張りたまえ。」
曹長はそういって立ち去った。何がしたかったのかは、俺からは分からなかった。
雑談したかったのかな?
俺はよいしょと立ち上がった。
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