第22話 着装

 俺は自宅で名刺を前に考えるふりをした。

 結論はでている、俺は、死にたくない。

 パワードスーツは兵士を従える尉官が着るものだったが、最近は量産がすすんで一般兵でも着れるようになり、生存率は上がったとされる。


 だからなんだ。


 生存率が上がっても死ぬ時は死ぬ。地上で太く短く華々しく散るより地下でヨボヨボになって死にたい。


 巨大な敵には巨大兵器を、そうして出来た人型戦車でも生存率は低いらしい。車体は破損ですんでも中のパイロットが耐えられないとかあるらしいのだ。人体も妖怪の体も血と肉の詰まった革袋である。限界はあるということだ。



 職場に行く。

 どこか皆、俺に暖かい。

 どういうこと?

「伍長殿。噂聞きましたよ。」

 仲良くなった梶原上等兵が笑顔でやってくる。

「SMTOG《スマトッグ》にスカウトされたんですってね。それを、地下には戦友がいるから蹴ったと。伍長殿もにくい振る舞いをなさいますね。」

 尾ひれがついたらしい。そういうことか。

「まぁ、地下生物には借りもあるからな。借りは返さないと。」

「流石です。」

 ちゃっかり既成事実にする俺と感心する梶原の会話が耳に入ったのか、鏡見軍曹がやってきた。

「平野、パワードスーツの件、お前が装着者そうちゃくしゃの一人になったから。頑張れよ。」

 激励に肩をパンと叩かれる。

「了解です!」

 調子よく返事をする。

 俺は地下と地上を天秤にかけていたが、バルディエルみたいなやつには対抗手段がない。対して、地下生物はまだ銃が効く。

 つまり、地下の方が生きやすいと思ったのだ。


 第二次地下生物駆除作戦では、パワードスーツと武装車両と兵による一掃作戦の予算が下りた。

 トーチカ部隊がバックアップにまわり、ボロカービン銃ではなく、在庫をさらって83式が支給された。

 同時に、83式でない場合、ボロカービン銃の弾をフルオートで撃てるモデル、カカMark2を手にする者もいた。

 中には銃の弾を威力の低い.30カービン弾からより凶暴な7.62x39ミリのライフル弾を使用したAKのコピー品のコピー品、市井に出回るKBかじがばばあ48なるものを振り回す愚連隊みたいな兵士もおり、上官の頭を悩ませたが、小銃は小銃だ。

 そんな民間小銃の弾の官品はない。弾の補給はできないぞといったら自腹で買い込んでくる始末だったらしい。その辺の思い切りと切符の良さは尻子玉スピリッツを感じた。自分で自分のケツをふくのだ。


 俺はパワードスーツの訓練に参加し、人間離れした動きに舌を巻く教官を尻目にパワードスーツの習熟に苦心した。

 雨村少佐がスマトッグなら、教官は地上部隊の出だ。

 スカウトされたが、「スマトッグからも誘われましたが、自分の居場所は地下ですので」と断ったら通じた。スマトッグにとられるよりマシなのだと漏らす。

 スマトッグと地上部隊。仲が良いわけではなさそうだ。うまく活用させて貰おう。にしても、人がどれだけ足りてないんだよ。

 少佐ほどではないが教官は残念そうに俺にハードコースを仕込んできた。ちょっとした腹いせだ。

 だが、パワードスーツのサポートが俺に合っていたのかクリアしていくと、俺のパワードスーツの評価にスペシャルのSがついた。



 上沼軍曹たちの敵討ちだ。



 そういう思いも、ちょっとあった。



 満を持して、第二次駆除作戦が開始された。

 パワードスーツを着装し、マシンガンを持つ俺みたいな鉄道警らパワードスーツ隊もいる。

 そのほか、分隊火機として5.56mm弾を撃てる軽機関銃が導入された。訓練過程を受けている上等兵が持つことになり、ショルダー無線は通信兵として一等兵が使うことになった。

 ショルダー無線を使うのは地下ぐらいで、地上では手のひら以下の小型無線になりつつある。

 パワードスーツは装着者の脳波や仕草を探知して、無線の傍受も行える他、周囲の音は耳で聞くより鮮明に聞き取れるように出来ていて、慣れると人体を拡張して気配を察することも出来た。

 これだけの技術、民間に回せたらいいのに。特に通信技術。

 俺は作業服でなくタイツみたいなパイロットスーツを着て、パワードスーツを着装した。頭につけるパイロットコイフには電極みたいな網目があり、脳波を読み取れるのだとか。21世紀の技術すぎて胡散臭い。

 待機モードにしてサポートを沈黙させると、動かすにも一苦労する。着たことはないが、まるで中世の全身甲冑だ。

 マシンガンはD&Kダタラアンドカジカ50キャリバーで、またの名をガラティンという。

 装甲車両で固定機銃としても使う大きな銃を、個人が持つのだ。

 一人で持ってみると、間違って足にでも落としたら銃の形に足がめり込んで折れるんじゃないかという重さをしていた。とてもじゃないが、サポートなしで振り回すなんてものではない。

 押金トリガーといって最後方のトリガーを押すのだが、引き金を引いてトリガーを押し弾を発射させる補助具がついており、銃を抱えて撃てるようになっていた。

 マッスルブーストをオンにして構えてみると、前に見た安上がりのアクション映画じゃないが、やったれ!といった物々しい感じになる。

 給弾ベルトに100発。泣く子も黙る12.7ミリ弾採用であり、ヘリの支援火器としても搭載されていた。


 これだけ大仰な装備でも、俺は不安を覚えていた。


 死にかける経験をすると、それを忌避するようになる。生存本能として当然だ。

 死地だ。また死地に行くのだ。

 何のために?

 作戦を成功させて、何がしたいのか?

「日光浴だ。」

 俺は独り言をいった。

「終わったら、皆でのんびり日光浴だ。」

 決意を固める。


「いいねぇ、それ。」

「応。」

「緑の肌が赤くなるまで焼きたいです。」


 …無線をオープンにしていたらしい。


「終わったら日光浴。了解。」


 指揮車両まで無線で悪ノリする。

 意外だが、尾身曹長の声だった。


 武装車両は俺をイジりながら、地獄へ向かって線路を進めていった。

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