第19話 駆除 後編
引き返して指揮車両をみたとき、そこは修羅場と化していた。
白い化け物はスリエルを従え、作戦支部つまり兵の輸送車を襲ってきたのである。
「作戦中止!作戦中止!
作戦中止を訴える神田曹長の声が、銃声と化け物の
俺達は輸送車両へと退避する。
救助隊は血のついた担架で弾の飛び交う中、走りまわり救護していた。
俺は担架の上の軍曹をみた。半裸になった軍曹の肌から、血管が黒ずんで浮かび上がっていた。多分、毒だ。車両の中に搬送されていく。
何かできないか。
俺は単発に切り替えると、射撃している部隊の近くに寄り、化け物を狙い撃った。
軍曹がやられただけでD小隊はまだ健在だ。
脇線や小道からこっちへ全力疾走する部隊の必死な顔がみえる。
「D班!
「了解!」
無事だった隊員が、俺の命令に従う。
俺と部下たちは広がって人間のラインをつくった。
「まだ撃つな!味方にあたる!」
「こっちだ!急げ!」
俺達と逃げてきた部隊がすれ違う。
「撃て!」
俺と部下だけでなく、逃げてきた隊員まで一部が振り向き殿の部隊に入って斉射する。
ひきつけて撃ったフルオートのシャワーを浴びて、赤と白の血しぶきが飛ぶ。
「今だ、
俺達は頃合いを見計らって輸送車に飛び乗った。
俺は
もう遅い。あれでは助からない。
いや、平気な様子で立ち尽くしている。
将官の制服…?
見たのは一瞬だったので、俺にはよく分からなかった。
輸送車で逃げれたのは奇跡だ。
車内は血と消毒薬の臭いがした。
救助隊が周りに悔しそうに歯と歯の間から漏らすに、死傷した兵の一部は担いで逃げることが出来なかったらしい。真っ先にやられたG班らは後で『回収』されるだろう。
興奮して命令外で輸送車の窓から乗り出し発砲する者もいたが、それを止める者はいなかった。
生きてるぞ、くそったれ!
俺は興奮していた。震えは後からきた。
…
輸送車で揺られているとき、行きは長かったが帰りは早く感じた。
「痛ぇ…。」
「しっかりしろ。大丈夫だ。」
負傷した兵のうめきと励ます医官らの声が聞こえる。
「飲み物です。伍長殿もどうぞ。」
「ああ。ありがとう。」
気を利かせた隊員から差し出された水筒のカップに口をつける。
お茶の味がした。
「うまいな。何茶だ?」
「流行りのルイボスティーです。」
へへっと笑う上等兵の顔を間近で見て、ふと見覚えがあった。仕事以外で、だ。
「上等兵。えと、」
「梶原です。」
「梶原上等兵。夜、映画館で君の顔をみたな。」
「もしかして、伍長殿もアニメを?」
「たまたま観ただけだがな。」
そうだ、アニメ観て泣いてたオタクの一人が、こんな顔をしていた。顔が一致して俺は驚いた。
「そうでしたか。」
俺が飲み干したカップを梶原に返すと、梶原の手が震えていた。
「俺達はベストをつくした。後は上の判断にまかせよう。」
「了解です。伍長殿。」
梶原の手の震えはとまり、タフな映画俳優みたいに白い歯をみせた。
色白のニキビ面には似合わない笑顔だった。
作戦本部であるテンジンの駅に帰還したとき、俺達と同様あの白い化け物に襲われた地区があったらしく、トーチカ部隊から『地上部隊』の人員まで動員しての大規模作戦になっているらしかった。
「見ろよ、地上のパワードスーツ部隊だ。」
「
好奇心から俺は窓の外を見回す。
人体を拡張する人型装甲。ライトに照らされて緑色に輝いていた。
テレビが消えて、代わりにレンタルビデオ店が流行っているのだが、その頃に見た宇宙刑事ものみたいなデザインをしている。
もっと実用的でダサく作れるだろうが、志願者を増やすため意図的にヒーローっぽく設計されていた。
SMTOGとはSpecial Mission Team On Groundのことだ。陸上特殊作戦部隊、略してスマトッグという。
地上部隊の中でも攻性の組織で、最前線として地下とは一線を隠す。
スマトッグは略称をはじめはスムトッグと呼んでいたのだが、厭戦家や戦争反対のマイルド左翼が、戦争で最前線をいく彼らを戦争の犬にかけて『住むドッグ』と犬小屋にいる犬を描いて揶揄した。
しかし、洒落好きな江戸っ子ならぬ河童っ子の大将がこれを気に入り、「いつか地上に住めるように」と地上部隊の記章を犬とホームマークにした。
本当にあった話だ。
一悶着あって、揶揄して聞こえるスムトッグをマスコミがスマトッグと呼び方を変えることで馴染んでいき、今は犬が消えてホームマークの記章になっている。
はじめは特殊部隊として創設されたが、あれもやるこれもやると拡張していき、スマトッグと地上部隊は2つの車輪とまで言われるようになった。
異次元の出世と死亡率を誇る地上の部隊にいる奴らはどんな化け物か知らないが、グリーンのパワードスーツにより一際デカく見える。
これよりデカいのがキャタピラ戦車に多脚戦車で、もっとデカいのが人型戦車だ。ちなみに、人型戦車を通称ホワイトライダーとか言ったりもする。
テンジンは天使出没地点から離れていたことと、大都市で人が多く住んでいたため、突如現れたバルディエルはミサイルの防空圏からは近すぎ、スマトッグや地上部隊は別の天使に対処中だった。
その結果、手持ちの対空砲とトーチカしか撃てなかった。被害は軍にとっての大きな痛手であり、バルディエル戦から教訓をえて通話国会では安全とされた市街地上空が増強されることとなった。
俺が太郎を引っ張っていたら、彼は生きていただろうか。
終わったことだ。女々しいぞ、俺。
俺が首をふる。
「総員降車。怪我人の搬送からだ。」
駅にいた兵士が輸送車のドアを開けてきた。
「担架手伝います。」
俺や仲間が手を上げた。
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