第18話 駆除 前編
市の地下生物対策課の課長が、現場の者に訓示を述べる。どこか履き違えたシビリアンコントロールだ。
「今回の駆除は極めて危険を伴い(略)皆さん怪我のないように、ご武運を祈ります。」
拍手をする。
現場にきてご武運をお祈りする。これで市側の軍への協力という大義名分は果たされた。茶番だ。
「下谷課長、ありがとうございました。では、これより地下生物駆除を行う。総員乗車!」
現場を代表して、尾身曹長が命令する。
今回のミッションは掃討作戦であり、市鉄の主線路、脇線、小道に至るまで徹底的にスリエルを駆除するというものだ。
作戦時間は夜中に行われる。なお、民間鉄道側の駆除は市としては民間組織、つまり警備員という傭兵にお任せという形をとっている。
多分政治があったのだろう。その辺はよく知らない。
市鉄に乗車する。
交戦記録から、隊員に接近戦のための銃剣の着剣がされた。銃剣なんて今までどこにあったのか。
それぞれのポイントに各小隊が派遣される。
俺は偶然か、はたまた神の試練なのか、オリゴエルのいたタヌシマル方面に派遣された。
全員無言、緊張している。当たり前だ。スリエルの脅威を知れば、誰でもそうなる。
「総員降車!」
車両を降りて線路に部隊を展開させる。
ここまでは予定通りだ。
輸送車からライトが組み立てられ、眩しいほど目一杯光った。輸送車両がそのまま作戦支部になる。本部はテンジン市の駅だ。
「無線よし。」
上等兵がショルダー無線で通信確認する。
「移動開始。」
俺達は暗がりへ銃を構えた。
俺達は作戦区域8担当のD小隊の第2分隊だ。今回は小隊規模で移動する。
銃を構えながら練り歩くように、銃口で指先確認するようにキビキビと移動する。
「F班、駆除対象あり。交戦開始。」
「C班、交戦開始」
無線からリアルタイムに交戦開始の連絡が流れる。
スリエルがいた。立ち上がり、臭いをかぐような鼠の動作をする。
「D班、駆除対象あり。交戦開始。」
「第一分隊、射撃開始!」
上沼軍曹の勇ましい声と共に、第1分隊が射撃する。
不意をつかれたようにスリエルが銃弾の嵐を受けて絶命した。
俺達が射撃終わった第1分隊と入れ替わる。
「交代。」
俺達は銃を構えて緊張する。
「警戒。」
警戒するまでもなくスリエルは全滅していた。
「小隊前進!」
「D班、駆除よし。前進する。」
上等兵の無線連絡が響く。
その後も入れ替わりしながら、俺達は泥臭く銃弾のシャワーを発見したスリエルに浴びせた。
絨毯作戦だ。
………
「前進。」
「D班、脇線終着。折り返す。」
「こちら
ありったけの弾倉が入る弾薬ベストで鳩胸になった小隊は、脇線の小道裏道までわざわざ追求することなく、作戦区域までスリエルの死体を越えて引き返した。探索すればきりがないからだ。
ベースに戻ると、弾数確認をした。
83式の弾倉には小さな穴が空いており、弾が穴を塞ぐことで弾数をある程度確認することができる。
撃たなかった弾倉は、ベースへの帰投後に余った弾をまとめて弾倉にこめる作業を行う。弾込め作業とその確認は補給班に任せられる。
使用して弾が残っている弾倉や空弾倉を区別して補給班に渡して弾倉を貰うと、俺達は余力あり、で次に向かう。
ぶっちゃけ銃を使ってはいるが、地味な作業になる。ルーチンワークで作戦が
数にまかせたスリエルを一斉射で片付けていく。
「G班、対象外の巨大地下生物を確認。指示求む。」
耳慣れない言葉がでてくる。対象外?
「こちらベース、G班。巨大生物とは何か?」
「G班支援求む。」
「こちらベース、G班。状況を…」
「G班、救援求む!ベース!ベース!」
無線が沈黙する。
「こちらベース。G班、応答願う。こちらベース。」
「E班、巨大生物確認。交戦す。」
「C班、交戦す。」
無線のチャンネルが混乱を始めた。交戦す、とは交戦開始と違って襲われたことを意味する。
「A班、持ち場(の探索)を中止し、C班の援護にあたれ。D班、持ち場を中止し、E班の援護にあたれ。」
「A班、了解。」
「D班、了解。」
小道を引き返し、脇線を探索していたE班の元へ駆け足する。
そこかしこで銃声が木霊し、戦闘が苛烈になっているのが耳でわかった。
E班の元へ駆けつける。
そこにいたのは、体長2メートル以上はあるサソリに似た化け物で、尾が2つもあり、バッタの節のある胴体とカニの様な鋭い爪とヒアリの頭をしていた。
こいつも翼持ちなのだろうか。2匹もいる。
E班はほとんどが倒れており、一人が壁に倒れてうめいていた。全滅らしい。
「D班、交戦開始!」
上等兵が上沼軍曹の握りこぶしをみて、通信する。
「第1、射撃開始!」
ここでも絨毯作戦のルーティンをやろうとして第1分隊が発砲した。
フルオートで化け物に撃ちまくる。
「交代、撃て!」
入れ替わりをしながら、間髪入れず銃撃するが、白いキチン質の殻から汁を出しながら突進してきた。
「!!!」
小銃のリロードももどかしく、軍曹が小銃から自動拳銃に持ち替えて撃つ。
軍曹に敵の注目が集中し、尾の先端の太い2本の針が、軍曹を突き刺した。
「軍曹殿!」
俺は叫ぶと、軍曹を刺した化け物の頭を銃剣で突き刺して、フルオートで射撃した。
液体と甲殻を撒き散らし、化け物が力尽きる。俺が軍曹を抱える頃には、部隊はもう1匹を片付けていた。
「軍曹!上沼軍曹!」
俺が呼びかけるが、軍曹は応えない。
「自分が抱えます。」
藤田一等兵が軍曹を抱える。
どうする?俺は自分を抑えた。
「無線で連絡だ。」
「了解!」
上等兵が無線でまくしたてると、ベースから救援と待機の旨があった。
「よし。後退するまでここを確保する。」
俺は倒れたE班隊員の襟首を2つ引きずりながらも引き寄せ、その場を死守するつもりで再装填した。
くたばった化け物を見れば見るほど、地獄の
後方から担架を抱えた救助部隊がやってきた。
前方からスリエルまでやってきた。
畜生!
「並べ。スリエルに向かって一斉射する。」
倒れた隊員らをかばうように、残ったD小隊は横並びで前に出て、俺の合図で斉射した。
担架で軍曹やE班が運ばれていく。
「黙示録、奈落の王アバドン、もう死ぬ、皆死ぬ。」
E班の男がブツブツ呟いていたのが、印象に残った。
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