第11話 赤軍連邦

 しばらく小道を進む。

 ギャルの、ねぇ、という呼びかけから雑談が始まった。

「私は森山サチ。おにいさんは?」

「俺は平野三平だ。」

「三平ってことはお兄さんいるの?」

「まぁな。長男の一平と次男の平次がいる。」

「一平と平次と三平か。普通だね。ウケる。」

 普通の何がいけないのか、あるいは気にいったのか。よくわからないがウケたようだった。

「仕事はどこ?」

「トーチカ勤めだったが、今は鉄道警ら隊だ。」

「マジ!?鉄道警らってエリートじゃん。」

「配属されたからやってるだけだよ。森山さんはどこの高校?」

「森山さんはやめて。何かおじさんから呼ばれてるみたい。」

 森山はケタケタ笑った。

「私のことはサチって呼んで。」

「サチさんはどこの高校?」

「私はツチブチ東高校だよ。」

「ツチブチってテンジンの北じゃないか。なんで真反対の南の下りに乗っていたんだ?」

「友達がヤハタにいて、会いに行ってるの。三平さんは?」

「俺は祖母が亡くなって実家のタヌシマルに葬式に。」

「そうなんだ。お悔やみします。」

「ありがとうございます。」

 お悔やみ申し上げますなのだが、気持ちは伝わった。

 会話は散文的になりながらも互いに何か喋らないと正気が保てないらしく、ラジキンの話題を出したらサチは食いついてくれた。

「ラジキンは公開録音まで駆けつけて、リアルに見たことがあるんだけど、格好良いかなと思ってたけど太っててマジ幻滅したわー。」

「そうなのか。」

「眼鏡かけててさ。顔はいいの。でもデブは好きじゃなくてさ。デブって闇市とかからでも食料買いまくって食べてるイメージあるじゃない?」

「そうかもな。」

 懐中電灯の明かりを頼りに小道を進むと、やがて別の広い線路群につながった。

「それで、やっぱ男は細くてマッチョなイケメンに限ると思うわけ。軍人さんでも士官とか格好良く…」

「シッ。ちょっと静かに。」

 俺が自分の唇に指を当てると、耳をすませた。

「やだ。また何かくるの?」

 怯えるサチを無視して神経を集中させた。

 ここは民間の路線らしく市鉄は来ないだろうと思われる。

 だが、遠くから破裂音が聞こえた。

タタタタタタ…

「銃声だ。」

「もうやだ。こっち行こうよ。」

 銃声と逆の方を進もうとするサチを手で制す。

「何か来る。」

 小さくゴトンゴトンとレールの上を走るトロッコの音が銃声側から聞こえてきた。

 線路の上はまずい。

 俺とサチは線路脇の窪みに隠れた。

 懐中電灯まで消して様子をうかがっていると電気モーターで走るタイプの大型トロッコに武装した軍服姿の河童たちが乗ってやってきた。

 止まるよう声を出そうとするサチの口を塞ぐ。

 赤い電飾と電灯の下であるものを見てしまったからだ。

 通過するトロッコを身をかがめてやり過ごす。

 彼らは軍服を着ていた。だが、妖怪神国のものではない。

 神国のオリーブでなく茶の迷彩軍服の平兵士に、黒い軍服の将官。どちらも袖に赤い矢印をつけている。

 反政府主義。赤軍連邦の奴らだ。

 赤軍連邦は自らをチェルノボグとも称し、妖怪神国に代わって共産主義国家の樹立をたくらむ極左系テロリスト集団で、ヴォジャノーイと呼ばれる構成員が、市と鉄道に破壊工作を行っている。

 当然、鉄道警ら隊や公安の不倶戴天の敵であり、見つかったり、まして声をかけようものならサチ共々ともども殺害されていただろう。

 赤軍連邦のトロッコはタヌシマル方面へ向かっていった。スリエルの次は赤軍連邦。


 ついてない。本当についてない。


 サチは俺の様子をみて何かを悟ったようだ。

「どうするの?三平さん。」

 よくよく考えた結果、俺たちは通報することに決めた。

 トロッコの行く先を追って会うのを避け、タヌシマルと逆の方向へ行くことにした。

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