旦那様、味は分かりますか?

鈴ノ木 鈴ノ子

だんなさま、あじはわかりますか?


 きっとあなたに夢中になるはず!


 なんて書かれた料理雑誌を読みながら、私はキッチンに立ちました。


 冷蔵庫からお肉を取り出して、下拵えを始めます。新鮮な肉はついさっき材料と一緒に取ってきたのです。


 畑で育てた自慢の人参を小さめにカットして、玉ねぎをカットして、ついでに私も少しカットして、ミキサーに放り込みます。


 赤いワインと少しの血をまぜこんで、一気に撹拌したら特製ミンチの出来上がりです。


 フライパンに油を敷いて、じっくり焼き上げたそれを、千切りキャベツと一緒に白いお皿にもりつけて、甘いソースをかければ、ハンバーグのできあがり。


 帰宅した旦那様がスマホで少し慌てながらメールをしている姿が愛おしいです。


「あなた、ご飯できたわよ?」


 私は普段あまり話すことのない寡黙な旦那様に声をかけました。午前様で帰宅して冷たいご飯ばかり食べていることが多いから、早く帰宅した日にくらいは、ゆっくり温かいものを食べさせてあげたいと思ったので、本当に腕を振るい死に物狂いになって用意したんです。


「味はどう?」


「ああ、おいしいよ」


 旦那様は少し戸惑ったよう笑いながらそう言って喜んでいます。


 それはそうでしょう。

 その体で愛しんで慣れた味なんですもの。でも、その味がしっかり分からないのは旦那様が鈍感な証拠です。


 まったく、可哀想な人、私がやっぱりきちんとお世話しないとね。


 ご飯の後は旦那様と久しぶりにお風呂に入って、そのままベッドへ、新婚夫婦みたいに素敵な時間を過ごしました。


 翌朝、私は燃やすゴミを出す為に朝早く起きます。昨日使ったベッド脇のゴミ箱から順番に各部屋のを集めて回り、キッチン裏の勝手口へと足を進めました。

外にも昨日のうちに増えたゴミ袋が数袋ほど置いてあります。普段より生ごみが少し多めに出てしまったので、少し困りましたが、出さないことには腐ってしまうので、何回かに分けて捨てにいきました。


 ご近所さんとすれ違いざまに挨拶をしながら、時より立ち話をしたりして、何度も捨てに行くのは疲れますね。


 生ごみはきちんと新聞紙で包んでありますから、周りの方々の迷惑にらならないようにしてあります。


気遣いもできないとダメですからね。


 戻ると旦那様は朝からスマホを見て、悲壮な表情を浮かべていましたが、私を見ると優しく抱きしめてくれました。


 年甲斐もなく恥ずかしい。もう、あまり無茶はしないでくださいね。


 さぁ、朝ごはんを作らないと。


 旦那様が、普段から真夜中まで夢中になって愛しんだ、その、素敵な味を召し上がれ。

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旦那様、味は分かりますか? 鈴ノ木 鈴ノ子 @suzunokisuzunoki

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