後日談 紅葉狩り成功(シリアスではありません) 完

 おはようございます。こんにちは、こんばんは。

 第二回目の紅葉もみじ狩りの開幕。部屋の窓を壊した紅葉こうようを龍之介が捕まえるようとしている。なお、紅葉と出てきたら「こうよう」と読んでほしい。その協力を恵美子と春花に頼まれた。はっきり言って、人間である少女達に相手が勤まるわけない。誰か協力をしてもらおうと、相手を探して廊下を歩いている最中だ。

 外は龍之介と紅葉の声で騒がしい。

 覚悟を決めろ。もう少しだけ時間がほしい。腹を括れ。待って本当に待って。

 誰がいっているかわかる。攻撃しあっている訳ではないのでまだましだ。恵美子は歩きながら春花に話す。


「紅葉さん達は長く生きているから、経験はあるはずなのに……春花はどう思う?」

「複雑ではあるけど恥ずかしがってくれるのは嬉しいと思うよ」


 照れながらにこやかに言う。純粋な笑顔に恵美子はため息をはく。今でもモテる春花。町中でも組織の中でも声をかけられたこともあり、紅葉が対応をして追い払っている記憶は新しい。その彼は今逃げている。この天然魔性属性を持つ春花も悪いと言えば悪い。

 歩いていると近くのドアが開く。


「ったく……騒がしいな……おや?」


 少女二人は気付いてドアの方に顔を向け、頬を赤く染めた。


「志村さんと渡辺さんか。どうした?」


 一葉だ。ドアの入り口に寄りかかって、気だるげに微笑している。珍しくシャツを少し肌けて着ており、少し乱れた髪を紫色の髪紐で簡単に結んでいた。眉目秀麗である彼が珍しく変に色気を醸し出している。見ていて彼女達は恥ずかしくなって、恵美子は視線をそらしながら話す。


「実はー……紅葉さんが龍之介とおいかけっこをしてまして」


 彼は瞬きをし、おかしそうに笑う。


「あははっ、何だか面白そうなことをしているじゃないか。それで、志村さん達は何をしに行こうとしていたんだ?」

「実は紅葉さんを捕まえるのに協力してくれる人を探しているのです。貴方は……無理そうですね」


 話しにくそうに恵美子はいいながら、一葉は申し訳なく頷く。


「ああ、申し訳ない。私は今水を取りに行こうと思ったいた所だ。さっき起きたばかりで、喉が乾いているんだ」


 彼を見ているだけで情報量が多い。だが、一葉の言葉で察して恵美子は苦笑する。


「……そうなのですか、わざわざすみません」


 去ろうとする前に、一葉が思い付く。


「そうだ。紅葉を捕まえるために、鉄の処女とファラリスの雄牛とか貸してやろうか?」


 よい提案だと微笑む彼に、二人の少女は顔色を真っ青にして何度も首を横に振る。二人は一葉の言う物を知らないが確実に良い予感はしなかった。ちなみに鉄の処女とファラリスの雄牛は拷問器具である。「冗談だ」と笑う一葉に、春花は親友で彼の恋人の山崎理葉を朝から見かけない事に気付く。


「あの、一葉さん。理葉ちゃんが朝から見かけないのですが、一体何処ふごっ!」


 聞こうとして恵美子から口を塞がれる。


「本当、すみません! では、私達は別の方にいきますね!」

 

 言わせるかと勢いで謝り、春花を引っ張って彼女は一葉の前から去る。彼はにこやかに二人を見送った。

 ──一葉の部屋の前から去ったあと、理葉が何処にいるのかを、恵美子が簡単に教える。春花は顔を赤くした。ラブラブなの良いことである。

 二人は紅葉を捕まえられる適任者探し、もしくは方法を考えていた。潤一郎は任務に出ており、節は加織とデート。藤村は喫茶店で仕事をしている。


「……やっぱり、私が捕まえないとダメだよ。恵美子ちゃん。私が餌になって紅葉さんを引き付けるとか……」

「凄いこと言うわね。春花……」


 だが、春花の言っている内容は正解である。押して駄目なら引き付けてみろ。何処か言葉は違う。二人の会話を聞いたのか、背後から声をかけるものがいた。


「そんなに紅葉を捕まえたいなら協力しようか?」


 二人は振り返る。後ろには桜花の上司小野篁がおり、春花は驚いた。


「篁さん。どうしてここに?」

「休憩さ。上司足るもの、休息も必要なのだ」


 桜花の上司かつ地獄の冥官小野篁張本人。奔放な性格で部下から慕われてはいるが、命も狙われている。つまり性格良し悪しのろくでなしだ。いい人なのは間違いないんだけど……と言われるタイプである。そんな上司は楽しそうに笑う。


「……さて、話の経緯は聞いている。紅葉を捕まえて話したいのだろう?」

 

 何処から聞いたのだろうか。この上司は仕事はできるが、部下を振り回す癖がある。篁は春花を見つめて親指をたてる。


「ちなみに。春花さんの言う方法はとても効果的だ。私も手伝おう」


 春花は瞬きをして、恵美子は紅葉を哀れんだ。




 中庭。紅葉のおいかけっこで騒がしかったがいない。二人は場所を変えたようだ。建物から桜花の人々の声しか聞こえておらず、篁と春の二人はは対面をする。恵美子は横で見守っていた。


「さて、春花さん。準備は良いかな?」

「は、はい」


 頷く彼女に、彼は何処からともなくひとえをだす。生絹すずしぎぬという薄い生地で作られた着物であり、平安時代の夏服だ。彼は楽しそうに笑って。


「春花さんにこの単をあげよう。私は当時を生きた平安の人間だ。きっと似合うと思う。早速ここで試着をしてみようか」


 ちなみに、篁の持つ単は薄い。肌が見えるほど薄い代物だ。着させようと迫る作戦である。篁は単を春花に近付けて微笑む。


「さあ、着てみよう。春花さん。きっと君に似合う。さあ、さあ、さあ!」


 近付けて行こうとした瞬間に、桜の香しい匂いな漂い少女達は驚く。篁の後頭部に銃口を当てられる。紅葉は変化した状態で銃を向けており、怒りを瞳に宿して見据えていた。篁は振り反って不敵に微笑む。


「来たか。紅葉」

「……故意に煽るの止めてくれませんか。篁さん。彼女が困ってます」

「言っておくが、春花さんと恵美子さんの同意の上でやったんだぞ?」

 

 紅葉は目を見張ると、篁がにこやかに笑ってぱちんと指を鳴らす。紅葉の後ろに衝撃が起こる。首を後ろに向けると、春花が頬を赤くしたまま困惑していた。今、春花が紅葉を後ろから抱き締めている状態である。抱き締められている張本人は口をあんぐりとさせて、手にしている銃を落とした。彼の全身を真っ赤になった途端に、篁は単を消して笑い声をあげる。


「あっはっはっ! 私が考えもなく二人に声をかけるわけないだろ。お前を引き付けるための作戦に協力したんだ。恥ずかしがらずに男気を見せろ!」


 ばしばしと紅葉の背中を叩いて笑いながら、篁は建物の中に戻っていった。春花は慌てて、離れようとする。


「こ、紅葉さん。ごめんなさい! すぐにはな……あれ?」

 

 春花は腕を離そうにも強く紅葉を抱き締めていた。篁が仕掛けたのは間違いない。ちなみに抱き締められている本人は顔を赤くしたまま硬直している。後に龍之介が空から舞い降りてきて、状況に困惑。立ったまま気絶しているらしく、仕方なく紅葉の部屋に連れていった。

 


 

 二人を寝台へと横にさせた。恵美子から事情を聞いて龍之介は厄介そうに頭を抱えた。


「っ~……よりによって、協力してくれたのが篁さんっ。姉貴や漱石先生、他の皆もいたのにあの人が首を突っ込んできたかぁ……」


 寝台に寝ている二人。紅葉は変化した状態で横になって眠っており、春花は困っていた。


「あの、これはどうすれば……」


 龍之介に聞くと片手で頭を押さえる。


「あの人が経緯を知っているなら、今の状態を解除できる条件があるだろ。時限制じゃないようだし、考えるに『紅葉が春花を避けようと思わない』のが条件だろう。……まあ、半分は紅葉の自業自得なもんだな」


 確かにと恵美子は頷く。恥ずかしがる理由はわかるが、避けすぎているような気もする。龍之介は紅葉を一瞥したのち、恵美子の背中に手を回してドアの入り口まで共に歩いていく。


「じゃ、恵美子。行こうか」

「えっ、でも、春花を一人には……」


 戸惑う彼女に、龍之介はあきれて寝台に声をかける。


「だぁれが、春花を一人にさせるもんか。そんなの紅葉自身が許すわけないだろ。なっ、もみじくん」


 恵美子は驚いて、寝台に目を向けた。紅葉の髪から見える耳が赤くなっていた。「いくぞ」と龍之介は彼女を連れて部屋を出た。





 春花は二人が出たあと、抱き締めている彼に声をかける。


「あの、紅葉さん。……本当に起きているのですか?」


 紅葉の体が震えて、ため息を吐く。

 

「……うん、この部屋に来てから起きているよ」

 

 弱々しく声を出して、間をおいて話し出す。

 

「春花ちゃん。女々しい理由で君を避けてしまってごめんね。……僕はとんでもない意気地無しだ」

「そんなことありませんよ。紅葉さんは素敵な殿方です」


 自信満々に言う春花に「そんなことないよ」と紅葉は苦笑した。見栄を張っているだけだと、彼は自分で理解している。だが、謙遜だけをしてこれ以上の否定はしない。

 二人は沈黙をする。

 春花は彼の背中に耳を当てる。心音が聞こえた。彼がいる証拠に春花は嬉しく抱き締める力を強くした。

 彼女の行動で顔が赤くなった紅葉。他の女性は普通であるが、春花だけには恥ずかしさを感じてしまう。色んな意味で、熱を感じてしまう。背後にいる春花の顔をみたいが見るのが恥ずかしい。

 眉尻を下げて両手で顔を隠した。今すぐに逃げたく隠れたい気持ちで一杯であり、春花は彼の気持ちを知らないですりよる。

 

「……紅葉さん」


 親愛を込めて呼ばれ、紅葉は更に顔を赤くし奥の熱を隠せなくなった。


「大好きです」


 聞こえないように春花は呟いたつもりだろうが、人より聴覚のよい彼らには意味ないもの。

 心地よく愛しさを含んだ幸せそうな声色に、紅葉は目を丸くする。

 

 ぷつんっと何処か切れた音がした。

 

 春花も聞こえたような気がしたのか、周囲を見回す。気のせいかと手を動かすと、指がほどけて両手が自由になる。自由になったことを伝えようとする前に、紅葉が立ち上がった。

 ドアの前に行き、立ち止まる。また避けようとしているのかと考えて、彼女は起き上がった。


「紅葉さんっ!」


 がちゃり。

 ドアの鍵が閉められる音がし、春花は呆けた。紅葉はドアに手を触れると小さく呟く。外からの音が聞こえなくなった。彼は春花に顔を向けて微笑む。


「どうしたんだい? 春花ちゃん」


 彼のいつもの穏やかな表情。だが、何処か怖じ気づくものを感じ彼女は震えた。

 さっきの紅葉の雰囲気と違う。春花は硬直し、彼のゆっくりと歩み寄る姿を見続ける。靴を脱いで紅葉は少女の体を優しく押した。倒れると、彼は覆い被さってくる。柔らかな寝台の上で春花は瞬きをして混乱する。


「えっ……と、紅葉さん。これは……?」


 聞くが答えない。ただ、紅葉は口許を緩める。


「……あーあ、あーあ……そうだよね。そうだよね……」


 彼女の頬をさわって擦り、手つきを変えて体に沿って腰を撫でる。その撫で方がむず痒く、春花はやらしい声を出す。その声を聞き、紅葉は目を細めた。彼は自分の上半身の服に触れると、桜の花びらとなって散り消える。服の上からではわからないほど、鍛えられた上半身を見て春花は悟る。これからの行為に頬を赤く染めて目を丸くした。

 紅葉は蕩けた顔で笑う。


「恥ずかしがるくらいなら慣れちゃえばいいんだよ」


 吐息には艶があった。




 龍之介達は廊下を歩いていると、身を整えた一葉と会う。


「おや、龍之介と志村さん。その様子を見るに、もみじ狩りは成功したようだな」


 声をかけられて、龍之介はげんなりとしたように恵美子に話しかける。


「……恵美子。お前、一葉に話したのかよ。変なものを押し付けられなかったか?」

「心外だな。龍之介。私はしてはない。そのときはする時ではなかったからな」


 わざとらしく落ち込む一葉に、龍之介は溜め息を吐く。押し付けられそうになったが、言わずに恵美子は黙る。一葉の目の前で変な事を言わない方がいいのは、理葉の行動を見て学習している。龍之介は彼の顔を見て、気まずそうに納得した。


「あー……なるほど。押し付けてないのはわかったよ。一葉」

「……ふふっ、察してくれて助かるよ」


 美しく笑う一葉。龍之介は何となくわかったらしい。長年の付き合いでわかることもあるのだろう。一葉は「おや」と二人の後ろを見て、龍之介は目を丸くして振り返る。恵美子は何が起きたのだろうと振り返ると、横から。


「……あ、あー……」


 龍之介の哀れみと呆れの声が聞こえ、恵美子は顔をあげて聞く。


「龍。どうしたの?」

「……あ、恵美子。……その……春花。明後日まで会えないと思え。多分、篁さん。これも予想してああいう風にしたと思うから、その日に春花に会ったら労ってやれ」

「……はっ?」


 目を点にする恵美子に、一葉は面白おかしそうに笑う。


「っははっ、私と同じけだものじゃあないか。紅葉。あいつの方が、私達の中で一番夜がヤバイからなぁ?」


 彼の言葉を聞いた途端に、恵美子は間抜けな声をあげる。


「えっ!? それ、どういう事!?」


 二人に向けて声をあげると、龍之介は。


「お前も聞いてんだろ。

前世の春花と紅葉の関係がどういう関係か。

昔、あいつ『三日三晩した後の彼女の労いをどうすればいいのか』とか、ドン引く相談を俺にして来たことがあるんだよ。……いくら昔やんちゃしてたとはいえ、あそこまで俺はしない」


 と目をそらしながら恵美子に教える。とんでもない真実を知り、彼女は言葉を失っていると。


「三日三晩は普通の人は持たない。紅葉は相手に生命力を分け与えてやってるのと噂で聞いたことあるが……実際どうなのだろうな」


 と、一葉が追い討ちをかけた。

 助けに乱入したいが、恵美子は二人の中を邪魔したくはない。しかし、よくよく考えると春花と紅葉の問題であり、事の原因は二人にあるわけで。

 恵美子は合掌する。

 

「ごめん。春花……! 頑張って!」


 武運 (?)を祈った。




 ──龍之介の言葉通り。明後日に、恵美子は春花は腰を痛めた姿を見て労う。

 また桜花の廊下では『教育的指導中』と看板をぶら下げた紅葉が正座をしていた。彼は頬を赤くして、申し訳なさそうに頭を下げている。その姿を見て一葉は爆笑し、龍之介は呆れていた。

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