後日談 誰が為の紅葉狩り(シリアス成分僅か)

 すったもんださったもんだ(?)あったあと、互いに好きと告白し、思いを確認しあった法泉紅葉と渡辺春花。色々諸々あったあとから数日後。和風の談話室で桜の少女は悩んでいた。その悩みを幼馴染み兼親友の志村恵美子にぶつける。


「……紅葉さんに避けられてる気がする」


 黙って恵美子は瞬きした。ここ最近春花は紅葉から避けられている。春花は腕を組んで考えた。


「なんでかな。私と紅葉さんはお互いに好きだって言ったのに、好きな人と居て避ける理由はあるかな? 恵美子ちゃん」

「……私に聞かれても困るわよ」


 紅葉本人でないため、恵美子は困った。彼女は恋愛話は好きだが、経験は少ない方である。だが、困っている幼馴染みを恵美子は見過ごせない。溜め息を吐きながらも相談に乗った。


「でも、あの人が春花を避けるなんて、照れる程のことをしたからとかじゃないの?」


 親友の指摘に春花は数回瞬きした後、頬に赤みが増す。段々と赤みが増していき、桜の少女は顔を逸らす。しばらく見て恵美子は察していき、表情を崩した。鋭さがある意味仇となった瞬間である。


「はっ……はぁ!? あんた、紅葉さんと何したの!?」


 驚く彼女に、恥ずかしそうに春花は両手で頬を押さえた。


「な、なにって……その……ね……その、ね……」


 大声で言えないことらしく、恵美子に手招きをする。春花に誘われて、近寄って耳を立てた。小声で教え、幼馴染みの頬を一気に赤く染め上げる。恵美子は顔を勢いよく離し、言葉を失って汗を流した。もじもじと照れる春花。彼女の様子を見て、恵美子は諸々を察して頬をつく。


「……っそれは、法泉さんも避けるわ……」


 春花は顔を俯かせて、瞳を潤ませる。


「……でも……避けられるのは辛いよ。少しでいいから、好きな人と一緒に居たいな。……それでも紅葉さんは駄目なのかな……」


 純粋に悲しんでいる親友の様子を見た後、恵美子は目を閉じる。

 春花は見た目性格よしで天然な部分がある女の子。言い方を変えると、魔性の女の属性を持つ。

 何故魔性に該当のかと言うと、幼い頃数人の男の子に告白された過去がある春花。その男の子の親とその子の目の前で『友達として大好きです(原文ママ)』と本人悪気なしの脈なし発言で玉砕させていった過去がある。その男の子達と親は彼女に縁談を持ちかけることはなかったと言う。他にもあるが彼女の過去と今の姿と諸々を思い出して、恵美子は苦笑する。


「……なんか、春花があの人の娘だって言うの納得できる……」

「恵美子ちゃん。何か言った?」

「え、何も言ってないよー」


 誤魔化して、恵美子は談話室の天井を見た。

 恵美子の人生の相棒の植田龍之介は紅葉と共におり、同じ組織にいる。同じような相談を受けているのではないかと恵美子は考え、息を吐いた。






 整理整頓された龍之介の部屋で、紅葉は椅子の上で膝を抱えてうずくまっていた。未来の言葉で言えば体育座りである。


「龍之介。僕どうしよう」


 龍之介はベッドの上で白樺という文芸と美術の雑誌を座りながら見ていた。暗い影を背負っている相方に彼はあきれる。


「どうもこうもないだろ。お前が責任を取るって言ったんだから取れよ。もみじ」

「そうだけどさ……そうだけどさ……」


 ぶつぶつ言い続ける。全てが終わり、春花の体調が戻ってきた瞬間に紅葉は彼女を避けだした。理由『乙女の純情を手順を踏まずにいただきましたまる』である。彼は羞恥心や責任の諸々の心情が沸き出して避けたのだ。呟き続ける紅葉の声で雑誌を読むのに集中できず、彼は雑誌を閉じて話しかける。


「紅葉、合意の上でやったんだろ? なら、いいじゃないか」


 龍之介の言葉に顔をあげて、赤い頬で話す。


「……あのね、龍さん。合意とは言えど、女の子なりの心情と流れを大切にしてなかった。恋人じゃない状態で抱いて、接吻をしたんだよ……? それにあの子は初めてだったし……」

「まあ、確かに女の都合はあるにはある。が、あの時は状況が状況だったはずだ。誠意を込めて謝れば、渡辺春花は許してくれると思うぜ」


 頼れる相方の言う通りである。龍之介の若気の至りのお陰か妙な説得力がある。紅葉は顔の半分を埋め、彼は呆れた。


「つうか、女々しいぞ。紅葉。しっかりしろ」

「……わかっている。わかっているさ。……でも、あの人の件もあるから色々考えちゃって。……あの人、物凄く怒ってたし」


 あの人と聞き、龍之介は苦笑いをするしかない。諸事情を考慮すると、紅葉が避けたくなる気持ちもわかるからだ。再びぶつぶつ言い続ける彼に、仕方なく龍之介は口を出す。


「けど、今の彼女を守れるのはお前だけだ。そして、認められているお前だけが倒せる。後はどうするか、一番自分がわかっているだろ」


 間違いない。紅葉は耳にいれて、顔をあげる。赤みが引いており、切なそうに窓の外を見た。


「……龍之介の言う通りだよ。僕が何をすべきなのか、一番わかっている」


 立ち上がり、窓の前に立つ。紅葉はガラスにさわり、外を見据える。


「僕は、あの人から春花ちゃんを守らなくてはいけない。あの人を倒さなくてはならない。……例え、昔お世話になったとしても昔は昔だ」


 窓に映る紅葉の真剣な表情に、龍之介は口許を緩める。


「……けど、あんまり考えすぎるな。恵美子から聞いたけど、お前を連れ戻すときの行為、あの子はあまり気にしてなかったみたいだぜ?」


 教えた瞬間、紅葉は振り返り赤い顔のまま抗議する。


「あのねっ、龍さん! それはそれ、これはこれだからっ!

春花ちゃんが気にしなくても僕は気にするからねっ!?

お、思い出すと、は、恥ずかしくて顔すらも見れないんだから!!」

「おめぇ、初体験をした童貞でもねぇ癖に何言ってんだよ!?

恥ずかしくて顔見れないって乙女かっ!?」


 龍之介は立ち上がって的確に突っ込みを入れるが、二人は若造り三百歳越えの爺(じじい)である。紅葉が諸々の理由で避けている最大の要因が羞恥心であるとしり、龍之介は呆れた。


「諸々理由で避けてるかと思いきや、恥ずかしくて会えないってお前本当に昔のあいつの思い人かよ?」


 照れながら両手の人差し指をつつき合いながら、紅葉は視線を逸らす。


「……だって、何年も連れ添ってる訳じゃないし、春花ちゃんは前世を覚えている訳じゃないんだよ? 龍さん。

……その、昔とはいえ、同じように初めてが貰えたのは嬉しいと言うかなんと言うか。照れ臭いと言うか、有頂天と言うか。彼女も前と変わらないのが驚きと言うか、同じで違うのに初めてていうのがなんか嬉しくて恥ずかしくて……むしろ春花ちゃんの初めてで良かったと言うか」

「うわぁ……」


 聞いてドン引いた龍之介。紅葉の言っていることは『昔も今も同じ人に初めてを貰えて照れ臭くて嬉しい。しかも、体も変わってないなんて驚きだ。春花ちゃんが僕の初めてでよかったなぁ』である。冷静に聞いたら引く。紅葉は目を丸くして彼に怒った。


「き、聞いたのは龍之介の方だろ!? 昔は花街でドン引くほど遊んでたくせにその反応はないだろっ!」

「ちょ……昔の事は掘りおこすなっ!」


 慌てる彼を余所に、部屋のドアにノックの音が聞こえてくる。龍之介は気付いて、声をかけた。


「あっ、だ、誰だ?」

「私よ、龍。春花もいるけどね」


 恵美子の声に龍之介は表情を柔らかくする。春花の名前を聞いた瞬間に紅葉は硬直した。龍之介は固まった彼に目線を送る。


「ったく、避けるより恥ずかしがりながらも話した方がまだマシだぞ。おーい、二人とも入っていいぞー」

 

 声をかけ、扉が開く。ドアの開き具合で紅葉の表情に赤みが増していき、春花の姿が見えた。紅葉がいることに、桜の少女は表情が華やぐ。


「あっ、紅葉さんっ!」

 

 キラキラと輝く微笑みに少し頬が赤い彼女。嬉しそうな春花の表情を見た瞬間──勢いよく紅葉は部屋の窓を突き破って外へと出た。ガラス片と窓枠など共に、紅葉は宙へと身を舞わせる。


「紅葉───!!!?」


 窓を突き破る音の後に龍之介の呼び声が響く。因みに、龍之介の部屋は二階。まさにダイナミック逃走。紅葉は綺麗に着地をして、春花の視線を逃れるように走って逃げていった。壊れた窓から龍之介は覗き、二人の少女は唖然とする。部屋の主である彼は床に膝をつけ、頭を抱える。


「……あそこまで重症だったのかよっ……。紅葉」


 部屋の一部が壊れたこと、己の相方が春花に拗ねている現状に龍之介は踞っていたかった。


 このあと、第二回紅葉狩りが始まったとかなんとか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る