一之七 彼らの仲間

 叫んだ後、黒丸は飛びながら舌打ちをした。


「ちっ、やっぱり、あいつは趣味の悪い!」


 黒丸は悶える様に翼をばさばさと揺らす。春花は気になって声をかける。


「な、何が趣味悪いのですか? 黒丸さん」

「俺らの同僚だ。一人は鈍間野郎。もう一人は趣味が悪い!」


 春花に吐き捨てるように言うと、髪飾りも揺れた。


《うん、もう一人は趣味が悪いんだよ》


 悟った声からして、その趣味悪い人に相当苦労したようだ。黒丸は恵美子の肩に乗り、片羽で器用に頭を押さえた。


「……ともかく、趣味の悪い奴と馬鹿野郎が来るんだよ」


 嘴から嫌々に吐き捨てた時。


「誰が馬鹿野郎だ。鳥頭とりあたま


 別の声が入る。二人は振り返った。いつの間にか、二人の男性が悪霊の前にいる。鎧の男性が低く落ち着いた声をだす。


「やっぱり気付いてやがったか」


 彼はがっちりとした体格を持つ。体の部分に白と黒の鎧、蛇を象った腕輪を付けて槍を持っていた。黒髪は肩まであり、頭の左側に氷のような黒い結晶が生え、両耳には水のイヤリング。中国の神獣玄武を現しているように見えた。その相手を黒丸は鼻で笑う。


「はっ、出遅れるなんて相当な鈍間野郎だ。亀」

「──お前たち、言い合いは今は止せ」


 黒丸の声を冷静な声が遮る。その声を掛けた男性は緋色、黒、白に青の色彩豊かな貴族の服を着ていた。袖は和服の着物のようで、牡丹と桜の刺繍がはいっている。

 皮のブーツで鎧の彼に近づき、落ち着くように話している。歩く際に、腰、片耳、左側の頭にある羽飾りが揺れる。腰まである綺麗な青紫の髪はさらさらとなびいた。この男性は神獣の朱雀と鳳凰を表現している格好だ。

 二人の恰好は和洋折衷。少女達に首を向く。

 玄武の男は整った顔立ちではあるが、老けているように見える。もう一人の朱雀の男性は、蒼白の肌で眉目秀麗の言葉が似合っていた。黒丸は深いため息を吐く。


「ったく、遅いんだよ。阿呆亀」


 玄武の男は鼻で笑う。


「はっ、逃げ回っている間はカァーカァー喚いていたくせに、よくでかい口叩けるよな? バカラス」

「亀のようにのろのろ登場してくる奴には言われたくないな」


 男と烏の間には火花が散っている。朱雀の男性は溜息を吐き、春花達に微笑んだ。


「お嬢さん方、大丈夫ですか?」

「え、あ、はい」


 思わず頬を赤く染めて、春花は見惚れる。


《見惚れる場合じゃないよ》

「あっ」


 髪飾りに言われ、春花は声を出す。

 悪霊はいきなり現れた二人に驚いていた。朱雀の男性は悪霊を探るように見据え、目を見開き伏せた。


「人間を核にこいつは動いている」


 一瞬だが目を丸くし、玄武の男性は沈痛の表情になる。二人の反応からして、もう生きて戻れないと少女達は確信した。朱雀の男性が一歩前に踏み出す。


「せめて魂は天に返し、遺体は供養をしよう」


 悪霊は危険だと判断し、後退しようとする。水の輪に捕らえられて、身動きを封じられていた。


水輪すいりん。逃がさねぇよ」


 悪霊を捕らえていたのは玄武の男。その間、翼をもつ彼は手の平から緋色の火の玉を出した。


炎々歌えんえんか


 悪霊を捕らえている間、朱雀の男性が火の玉を送る。火の玉が悪霊の目の前に来た。玉が激しく燃え上がり、悪霊を呑み込む。


[ぎぃやぁぁぁぁっ!]


 悪霊は悲鳴を上げる。無駄な抵抗が無いよう玄武の男が手をぐっと握り締め、水の輪で更に締め付ける。悪霊に朱雀の男性は優しく笑った。


「安心しろ。これは煉獄の炎。悪魔さえも浄化する。好きで悪霊になったわけではないだろう。大丈夫だ。楽にしてやる」


 朱雀の男性に言われて、悪霊の赤い目は驚いているように見えた。玄武の男は拳を握るのを止め、水の輪が消える。悪霊は抗うのを止め、ゆっくりと炎に身を委ねた。

 炎々と燃え盛る中、黒い体は段々と剥がれていく。剥がれていく中、無数の蛍のような光の玉が見えた。


「あの光の玉は魂だ。生物の魂って、透き通って綺麗なんだ」


 黒丸が悲しそうに言う。蛍は剥がれ落ちていく黒い体から出て、夜空の闇の中へ昇天して行く。その光景は幻想的で、少女達はその光景にうっとりとして見ていた。黒い体が剥がれ落ちていく中、仲井が見えた。


「先生!」


 恵美子は叫ぶと仲井の体から、二つの蛍が出てくる。一つは白い蛍。もう一つは黒に染まっていたが、炎によって白くなっていく。


[……ありがとう]


 悪霊の声は恐ろしいものではなく、淡い女性の声。二匹の蛍が天に昇っていく。炎が消えると仲井の体だけが残った。


「仲井先生!」

「先生!」


 二人は仲井の元に駆け出して、容態確認する。炎で体は焼き焦げていなかった。体が熱いはずなのに逆に冷たい。


「仲井さんの魂が召された。だから、現世にはいない」


 黒丸が静かに告げた。二人の少女は何度も仲井を触る。目を閉じていて、生きているように感じた。しかし、体は冷たく脈もない。心音も感じられない。仲井が天に召された証拠た。


《ごめん。僕がもう少し早く対処していればよかった》


 髪飾りが苦々しく言い、春花は首を横に振る。


「仲井先生が天国に行けただけでも、良かったです」


 恵美子の目から何かが溢れ、仲井の手を握る。頬に一筋の雫が流れ、彼女は口を開いた。


「仲井先生、十年前に亡くなられた家族の写真を見ていたの。十年間、先生は悲しんでいたのかもしれない」


 春花と黒丸は目を丸くする。

 仲井が憑依された理由を話したあと、恵美子は嗚咽を出さないように唇を噛み締めていた。春花は目を伏せて、静かに合掌する。黒丸と髪飾りは、仲井に黙祷を捧げた。

 朱雀と玄武の男性は、お互いの顔を見合わせる。朱雀の男性が歩み、声をかけた。


「お嬢さん方。申し訳ありませんが此処で感傷に浸っている暇はありません。騒ぎが起こる前に、我々と来て頂けませんでしょうか?」


 朱雀の男性から二人に声がかかり、春花は仲井の亡骸を見る。


「……でも、仲井先生は」


 玄武の男性は目を伏せた。


「我々の方で埋葬と供養を致します。我々は貴女と共にいる者とは知り合いです。色々、知りたいでしょう。御同行をよろしくお願いします」


 二人の少女は目を丸くする。黒丸は頷いていた。


「ついて行く方が良い。お前達の身の為になる」

「黒丸が言うなら」


 恵美子は黒丸に従う。


《君も行った方が良いよ》


 声の主に春花は一瞬黙ったが頷く。


「分かりました。一緒に行きます」


 彼女の返事に、朱雀の男性は微笑みを浮かべた。

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