第2話
※第2話から性的描写を含む場面が出てきます。ご留意ください。
「私も貴方の提案に便乗しようかな。」
「じゃあ、そのお話は全て事実だと、打ち明けてくれるんですね?」
彼女からある相談事を持ちかけられて、初めは驚いたが、話を聞いているうちに、気持ちが冷静になっていった。
次の話を語っていこう。
***
舞台の大千穐楽の日。
カーテンコールで共演者らと共に再び下手から出ていくと、スタンディングオベーションが起きた。
鳴り止まない拍手の中、皆が笑顔で溢れていた。客席に向かって手を振りながら、再び舞台袖から楽屋へ戻ると、スタッフや関係者らも拍手を送ってくれた。
その2時間後、劇場から近くのレストランを貸切りにして、打ち上げが行なわれた。皆で話しが盛り上がっているなか、ある1人の女優が私の隣に座ってきた。
彼女は村山かおり。
14歳で銀幕デビューし、国民的ヒットを叩き出した長者ドラマに出演。その後昼帯のドラマで主役を演じると、再ブレイクし人気を集めていた。
「連絡先をですか?」
「うん。龍喜さん、やっぱり話ししていて何か波長が合うから楽しい。今度、一緒にご飯でも行きたいな」
「分かったよ。じゃあ今、教えるね」
稽古場からずっと芝居の話で耐えず彼女と話をしてきて、次第に打ち解けてきた仲になった。
お互いの連絡先を交換すると彼女は酔った勢いなのか、私の腕に絡みついてきた。可愛らしい女性だと思った。
その後、仕事の合間を見ては何度か連絡を取り合い、私達は逢瀬を重ねた。
「次、足の指を噛んで…ふふっ…くすぐったい」
「これは痛いかい?」
「ううん。気持ち良い。もっと舐めて」
彼女の家に度々通っては、こうしてラブホテルでも密会を続けていた。
最上階の部屋から都内の夜景が一望できる。
ジャグジーから上がりバスローブで身体を覆うと、彼女がグラスを渡してくれた。ベッドの上で身を寄せ合い、私の肩に頭を乗せてきた。
「ねぇ龍ちゃん。話しておきたい事があるの」
「何?」
「私、離婚してから1年経ったけど、何かようやく自分らしくいられている実感があって、仕事も楽しくてしょうがないの」
「良いじゃん。その勢いで楽しめば、もっと良い運が巡ってくるさ」
「良い運かぁ」
「何か、良い事でもあった?」
「私、赤ちゃんできたみたい」
「えっ?」
「この頃体調が思わしくなかったから、試しに検査薬で調べたの。そうしたら、反応が出てね。一応婦人科にも行ったの。5週目だって言われた」
「父親は誰だ?」
「勿論貴方よ。他に誰とも関係なんか持っていない。貴方一筋よ」
私は少し気が動転し、しばらく考えてから彼女に告げた。
「堕ろせ」
「何言っているの?」
「俺は父親になんかなれない。」
「どうして?この機会に私と一緒になって欲しいの」
「それは出来ない。」
私はベッドから離れて、窓辺を眺めながら話を続けた。
「全額出すから、その子を堕してくれ。この先子供が居たら、仕事の支障にもなる。きっとその子も幸せになんかなれない。頼む。そうしてくれ」
「支障だなんて…私達、今まで何のつもりで会ってきたの?」
「君だって女優の仕事、続けていきたいだろ?子供が居たら、両立は無理だ」
「私はそれでも貴方の子を産みたい。お願い、産ませてください」
気が引かなくて正直邪魔だ。
子供なんて居たら、全てを奪われてしまいそうで、恐ろしい。
後日、私は恋いとが留守の間、かおりと彼女のマネージャーを自宅に呼び出して、事の経緯を話し、現金の入った封書を渡した。
「これで、全てを納めろって話なの?」
「君にはずっと良い女優で輝いていて欲しい。俺よりも相応しい人は必ず居る。周りに気付かれる前に、全てを片付けて欲しい。お願いします」
彼女に深く頭を下げて、誠意を見せようとした。すると彼女は口を開き話をし始めた。
「あれから私も良く考えました。女性が子供を育てるというは相当大変な苦労を余儀するんだと。貴方がそこまで決意しているのなら、私も諦めて、産むのを止めるわ」
「かおりさん、本当にそれで良い?」
「お互いの為です。私も誰にも負けないくらい、女優として生きていきたいし。この封筒も然りと受け取ります」
取り敢えず話はついた。
その後、彼女は中絶手術を受け、仕事に復帰し、別れを告げた。
2年後には大手製造メーカーの代表取締役社長と再婚をし、女優の仕事も順調に続けていった。
私も何事も無かったかの様に、ひたすら稽古にのめり込んでいった。
***
私はかおりさんと2人でカフェの席で向き合いながら、彼と関係を持った事情を聞き出していた。
「血相を変えて自宅に帰ってきた理由がそれだったんだね。」
「気づいていたんですか?」
「何となくね。彼もああいう事をして、少しは反省したんじゃないかな」
「それでも、恋いとさんは、週刊誌に取り上げようとして…良いんですか?」
「まだ、彼には色々な仕打ちがあるから、どんどん叩き出していかないとね」
「今更って言われそうだけど、大丈夫?」
「私は覚悟しているから、貴方は深く考えなくても良いよ」
こうでもしなければ、彼は仮面を剥がそうとしない。
私は引き続き、彼女達に話を聞き出していった。
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