第3話

同居し始めてから3年。


恋いとと女性関係のもつれ話を打ち明けると、大喧嘩になった。


同年、私は映画の撮影の為、広島県のある田舎町に向かって、町中にある集合先の建物に着いた。

共演者が全員揃ったところで、各地に渡り撮影が行われていった。

3週間程滞在して全編のロケが無事に終了した。


滞在先のホテルに戻ると、ロビーで共演者の女優がスタッフと雑談をしていたので、声をかけてその席に交えてもらった。


細川 はる

韓国人の父を持つ在日2世として都内で出生。短大を卒業後、一時一般職に就いていたが、スカウトでグラビアアイドルとしてデビューした。癒し系芸能人として一世風靡を起こし、女優に転身後も人気を博していっている。


「今度、東京に戻ったら皆んなで食事会しない?」

「良いね。龍喜さんもご一緒にどう?」

「良いですよ。皆さんの連絡先交換しましょうよ」


数週間後、スタッフの1人が予約したカフェレストランに皆で集まり、乾杯の音頭を取った。

前回の撮影の合間の雑談の話に花が咲き、皆で盛り上がっている時にある話に移った。


「こうしてみるとさ、龍喜さんと晴さん、お似合いよね?」

「何言っているの?龍喜さん恋人が居るのよ?」

「実はその事なんだけど…この間別れたんだ。」

「ウソ、どうしたの?」

「色々ギクシャクして喧嘩も絶えなくなってね。それで、合意の上で別れたんだよ」

「じゃあお互い独り身かぁ。」

「晴さんは気になっている人居ないの?」

「居ないなぁ。良い人居たら紹介してもらいたい」

「だからさ、龍喜さん!2人ともお似合いだから、一層の事付き合ってみたら?」

「無理矢理持ってくるなぁ。…まぁ、僕も晴さん好きだしね」

「ねぇ晴。今のうちだよ。善は急げだからさ」

「…お付き合いしますか?」

「まず前提として友達になろう」

「凄い!カップル成立じゃん。ねぇ、オーダー取るからもっと飲もう」


そんな経緯もあり、私は晴と付き合う事にした。お互いの仕事の合間を縫って、時々外で食事をしては、彼女の家にも行っていた。


ある日、電話で呼び出されたので、家に行き玄関のドアが閉まると、彼女から抱き締められキスを交わした。


「どうしたの?」

「最近、事務所に脅迫状が届いて…誰かに追われているみたいで怖いの」

「警察は?」

「社長やマネージャーが下手に動かない方が良いって言われたの。龍喜さん、私どうすれば…」

「兎に角、様子を見るしかないな。俺らが会っている事もバレない様にしないと」

「お願い。傍に居て」


部屋に上がり、何度もキスを交わした。奥の間のベッドに倒れ込み、着ていた衣服を脱ぎ捨て、彼女の胸元の肌が視界に入ってきた途端、私の気持ちは一気に高鳴った。

彼女の身体をまさぐり始めて、下半身の下着の中に手を入れると、指は濡れていた。


彼女の喘ぐ声を聞きながら、そのまま最後まで情を交わして、一夜を共にした。


その後、周囲の目を見計らっては、彼女と逢瀬を重ねた。


結局のところ、脅迫状はファンからによる嫌がらせの行為だと判明した。


交際から1年近くが経ち、ある日私は晴に結婚の話を持ちかけようとした。

レストランの個室に入り、食事の最中に意を決して彼女に告げた。


「妻として、俺と一緒になって欲しい」

「それは出来ない」

「仕事のことか?」

「今、あるデザイナーの人とアパレルブランドを立ち上げていく事の話が進んでいてね。その夢を実現したいの」

「噺家の妻になるのは、重荷って事?」

「私にはおかみさん業は務まらない。今の仕事が1番楽しいの」

「夢か。ならば、自分の好きにするが良い。」

「貴方も恋いとさんと仲直りして欲しい。良い相棒同士なんだし、世間体もあるでしょう。お互いにプラスになるようにしていこうよ」


呆気あっけなく振られた別れになったが、清々しいものだった。


その後彼女も結婚をして、2児の母として活動の幅を広げていった。


都内での落語会が終わり帰宅すると、先に恋いとが部屋に居た。


「俺達、婚約は解消したけど、これからも一緒に居て欲しい…というか何というか…」

「分かったよ。私も色々悩んだけど、龍と居る方が安心する。…おかえりなさい」

「…ただいま。ありがとうな」


***


「付き合った事には後悔はしていない。勿論恨みもない。だから、私は今回の件は伏せておくべきだと思います」

「ただ付き合っていた事は事実だし、名前を伏せて公表することにはできないかな?」

「幾らかいただけるなら、お話は別ですが…」

「その辺は交渉できそうだから、考えてくれないかな?」

「良いわ。恋いとさん、自由にして」

「もう行かれるの?」

「えぇ。息子を迎えに行くわ。」


彼女はサングラスを掛け、颯爽と店を後にした。交渉金の話を出したら、目の色を変えて乗ってきてくれた。


どんなに寛大だったり、容姿端麗な姿をしていても、いざとなれば人間は誰しも金に目が眩む。


あの人も候補に入れておこう。

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